モハベ砂漠のルート66
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

旧国道66号線沿いに積み上げられた古タイヤ。
背景には、ルート66が国道として廃線の原因となった州間高速道路40号線を、大型トラックが速いスピードで走る。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8 | 焦点距離:24.2 mm

12月初旬の早朝、暖房を入れた私の車は、ロサンゼルスからラスベガスに移動する際、誰もが走る州間高速道路15号線(通称I-15)を北上した。この朝、濃い霧がフリーウェイを包み、視界がわずか数メートルほどで、先がほとんど見えない危険な区間もあった。大きなトラックも小さな自家用車も、フリーウェイを走る通常の半分以下のスピードで前に進んだ。州間高速道路40号線(通称I-40)のスタート地点であるバストー(Barstow)付近まで来ると、空に掛かる霧は切れ始め、陽の光も届き始めた。車の窓から明るくなった東の方を見ると、連なる山々を背景にした広大な盆地に、霧がまだ残り朝日が射し込んでいた。

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バストーの20マイル(32km)ほど手前でフリーウェイから降りると、霧が残る盆地に貨物列車が走るのが微かに見えた。この日最初の写真、幻想的な光景を、大口径ズームレンズで気持ちよく切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm

I-40に入るとすぐにニボ・ストリート(Nebo Street)でフリーウェイを出る。 フリーウェイの下を潜り、ほんの少し進むと旧国道66号線(Historic Route 66)に突き当たり、右に曲がり東へ走りだす。空に掛かっていた霧は切れたが、地面に近いところに霧はまだ深く残り、遠くの景色はよく見えない。右手には、旧国道66号線から見ると少し高くなったところを走るI-40に、大きなトラックが何台も見える。左手には、すぐ側に敷かれた線路に貨物列車が走り、霧の中に消えてゆく。
それらの光景に囲まれた私は、この地に住む何者かに化かされていたのかもしれない。

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走り始めてすぐに旧国道66号線を振り返る。
路面が濡れた道に朝日が射し込み、気温も上がり、晴天を確信する。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

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線路の上に立つ。
霧で濡れた枕木。霧が切れ、微かに頭だけ出した山と青い空。湿った砂漠地帯の朝の空気。それら全てをデジタルカメラはクリアーに記録し、私の脳裏に焼き付ける。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ダゲット(Daggett)という小さなタウンに到着すると、もう使われていないガソリンスタンドや、随分前に閉めてしまったバーの看板が、私の二つの眼球の中に飛び込んで来る。
取り残されまいと必死に追いかけるいつもの時の流れと違う、乗り遅れる心配のない時が存在する空間に足を踏み入れたと感じる。

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まだ霧が残るダゲットの朝。
旧国道66号線に建つ朽ちたガソリンスタンドにカメラを向けたそのとき、最近はあまり見かけない古いタイプの車が、ゆっくりとガソリンスタンドの向こうを走って行った。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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ダゲットから東へ少し走ると、人間の力で造られた大きな鉄塔が荒野に建ち並び、その鉄塔を伝わり、旧国道66号線の上を大量の電流が流れる。その電流の下を何事もなかったように車は通り抜け、私の体も何も感じない。

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鉄塔が建ち並ぶ風景は圧迫感もあったが、大地はそれを受け止めている。
大口径望遠レンズの焦点距離を最長にして、鉄塔群を写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm

さらに東へ走りI-40の下を再び潜り通り少し走ると、時代から取り残されたような風景がここにも存在していた。もう光らないモーテルのネオンサイン、フェンスに囲まれ閉店したガソリンスタンド、ペンキが剥げ落ちて読めない看板。自然に朽ちてきたそれらに惹かれ、慌しく流れる時間、日常生活から私は開放される。そして、並行して走るI-40では走行不可能な遅いスピード、時速20マイル(32km)でゆっくりと旧国道66号線を走る。

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週末に何かを売るのだろうか?露店が旧国道66号線沿いに建っていた。
道の反対側の牧場の入り口のような木の枠の中から撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm

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もう閉まってかなりの時間が経つように見えるモーテル。
ペンキが剥げ朽ちかけた看板は、少し手を加えるとまた輝きそうに思えた。
大口径単焦点レンズで背景をぼかし彩度を落とし、泊まり客で賑わった時代を想う。

使用機材:SIGMA SD15 + 85mm F1.4 EX DG HSM |
露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/3200秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:85 mm

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閉店したガソリンスタンドのポンプや壁の塗装の剥がれ具合に、
焦らず自然に朽ちてきた時の重みを感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

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旧国道66号線の路肩に車を寄せる。
車内から、I-40を走るトラックとその向こうに貨物列車が見え、サイドミラーにもう過去になった私の旅の軌跡が映る。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm

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ペンキが剥げ落ちた看板。その側には古いタイヤが無造作に置き去りにされている。
ルート66が、主要な国道だった時代を彷彿する光景をまた一つ見つけた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:147 mm

踏み切りを越え少し走ると、道は左へ急カーブしてI-40の上を通過し、さらに右へ直角に曲がった。乾燥した砂漠地帯に何の意図で急なカーブを描いたのかは分からないが、この日、この付近のルート66は、私のために用意されていたように、すれ違う車は1台もなく何の邪魔も入らない。
I-40を右手に見ながらさらに走り、I-40の下を潜りぬけ、ゴーストタウンのような廃墟が建ち並ぶ小さなタウン、ラッドロー(Ludlow)に出る。

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ユニオン・パシフィック鉄道の貨物列車が、青い空をバックに豪快に走り去る。
その躍動感を捉えるのに、スローシャッターは要らなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:10 mm

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道は、何故か急カーブしていた。
道標の後ろに回り、砂漠に足を踏み入れて、旧国道66号線を見つめる。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm

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道は荒野に向かい、そして直角に曲がる。
道のど真ん中にしばらく立っていても、通過する車の心配は全くなかった。
センターラインと道路標識のイエローを失わない程度まで彩度を落とし、シャープネスとコントラストを極端に上げ、乾いた砂漠の地を表現。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:76 mm

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ポンプも取り除かれたガソリンスタンドの大きな屋根の下から、旧国道66号線沿いを見る。
モノクロにして、ルート66が主要な横断道路だった時代を想う。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:10 mm

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州間高速道路の発達により1985年に国道としての役目を終え、US Route 66から現在はHistoric Route 66と呼ばれる道は、州間高速道路40号線と離れることなく、そして何回か交差しながらここまで並行に走ってきた。そしてユニオン・パシフィック鉄道の踏み切りを再び横切るとき、長い貨物列車が、私の目の前を通り過ぎて行った。線路もまたここまで私と共に旅をして来た。

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長い貨物列車を追うようにしばらく眺める。
大口径ズームレンズに2倍のテレコンバーターを付け撮影。
陽炎が強調され、砂漠地帯の神秘を感じる写真になった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM + APO TELE CONVERTER 2x EX DG |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 |
焦点距離:600 mm

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小さな橋がいくつかあった。
橋の下に水は流れてはいなかったが、大雨が降ると水が流れだすのかもしれない。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4000秒 | 絞り値:F2.2 | 焦点距離:30 mm

荒涼とした砂漠地帯に突然黒い丘が見える。溶岩のかたまりのような丘(アンボーイ・クレーター、Amboy Crater)の周りには、黒い溶岩が散りばめられたように点在し、西日に黒く光っていた。夏の日中は暑くて車から出る気もしない土地に、冬の冷たい風が吹きぬける。
砂漠に広がる溶岩の世界を歩き回ると、地球ではない別の星に来てしまったような不思議な気持ちになる。クレーターまでは見た目以上に遠く、誰もいない荒野に独り歩く不安も感じ、トレール半場で引き返えした。

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アンボーイ・クレーター。突起している高さは250ft(76m)。
最後の噴火は10,000 年前。1973年にNational Natural Landmarkに指定され、面積は70k㎡(27 sq mi)。モノクロにして黒い世界を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:18 mm

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黒い溶岩が点在する砂漠から、遠くにアンボーイのタウンを見る。
タウンも小さく見えたが、同時に私の存在も小さく感じた。
13.8倍高倍率ズームレンズ1本をカメラに付け、首からぶら下げて歩く。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:50 mm

アンボーイ・クレーターから見えたアンボーイのタウンに、踏み切りを渡り到着する。周囲に風を遮るものがない平らな土地に、Roy's Motel and Cafeの看板が、旧国道66号線を走って来た旅人を惹き付ける。ガソリンスタンドとコーヒーショップは営業しているが、一部屋ごとが独立したキャビンになっているモーテルは閉まったままだった。ルート66 がマザー・ロードと呼ばれ、シカゴからロサンゼルスを結び、国を横断する主要なハイウェイだった時代にガソリンスタンドRoy'sは、1938年にオープンした。1940年代に入り、モーテル、カフェ、整備工場を加えるまでビジネスが膨らみ、Roy's Motel and Cafeが誕生した。1950年代には70人がこの敷地内で働き、24時間、週7日間休み無しで営業された。1972年に州間高速道路40号線の開通と共にルート66の交通量は激減し、Roy's Motel and Cafeもルート66と運命を共にしてきた。

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午後の太陽に、看板の影が長く伸びていた。
その影の中に入り、ルート66と運命共同体である情景を、超広角ズームレンズで大きく包み込むように写す。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:8 mm

アンボーイから東に少し走り、ケルベイカー・ロード(Kelbaker Road)を北上し、 I-40を越えて、旧国道66号線に別れを告げた。モハビ国立保護地区(Mojave National Preserve)に入り、走るスピードを3倍に上げた。山に囲まれ砂漠はあっという間に暗くなり、日没は私の計算より早かった。鉄道のタウン、ケルソー(Kelso)にたどり着くと、西の空は美しい夕焼けだった。車から外に出ると渇いた冷たい風が吹き、砂漠に冬が訪れていた。ゆっくりと走ってきた旧国道66号線の代わりに、西の夕焼け空まで続く線路を見ながら、ゆっくり流れた私の一日は終りに近づいていた。

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アンボーイのタウンから少し出たところにある木に靴が引っ掛けられていた。
数年前に通った際にも見かけたが、新しい靴が増えていた。
午後4時、日暮れは迫っていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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鉄道のタウン、ケルソー(Kelso)。
美しい夕焼け空が輝いていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:70 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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