第40回:ユタ州、シーニック・バイウェイ12(Utah Scenic Byway 12)前編
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

米国ユタ州南西部、ブライス・キャニオン国立公園内(Bryce Canyon)のブライス・ポイントから、朝陽が差し込む巨大な自然の円形劇場(Amphitheater)を見渡し、超広角ズームレンズに大きく写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:14 mm

8月の中旬、強い日差しが照りつける巨大なラスベガスのホテル群の中を通り過ぎる午前11時、車の気温計は華氏102度(摂氏38.9)を示していた。ラスベガスからフリーウェイ15を2時間あまり北上し、ユタ州シダーシティ(Cedar City)でフリーウェイを出て車のガソリンタンクを満タンにする。ディクシー国立森林公園(Dixie National Forest)を走る州道14号を東へ上り、標高が高くなるに連れ気温は下がり、気持ちのいい風が全開にした車の窓から入ってくる。国道89号に出合い北へ走り、標高6,919 ft (2,109 m)の小さなタウン、ハッチ(Hatch)を通り過ぎると、全長124マイル(200 km)のシーニック・バイウェイ12にたどり着く。
バイウェイ12に入るとすぐにすばらしい景色が広がっていたが、私はどこにも停まらず東へ約13マイル(21 km)走り、夏休みで混んでいるだろうと予想したブライス・キャニオン国立公園内のキャンプ場まで急いだ。キャンプ場は思ったより空いていて、気に入ったサイトにテントを張り、西からバイウェイ12へ来ると最初に人の目を惹きつけるレッド・キャニオンまで戻り、赤土の上を歩く。

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バイウェイ12に入ると突然赤い岩の世界が広がるレッド・キャニオン。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

レッド・キャニオンから1875年にこの地に入植したモルモン教徒の入植者、エベニーザー・ブライス(Ebenezer Bryce)の名に由来するブライス・キャニオン国立公園に戻りサンセット・ポイントに行ってみると、巨大な自然の円形劇場は夕陽に染まっていた。

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標高8,917 ft(2,444 m)のサンセット・ポイントに立ち、夕陽に染まるフードゥー(Hoodoo)と呼ばれる土柱と、ギザギザの岩が連なる神秘的な光景を見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

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見る見るうちに陽の光を失い、この日最後の陽の光が大きな自然の円形劇場の一部を照らし出す。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:85 mm

その夜、1928年に国立公園に制定された公園内のキャンプ場には、風も吹かず、明け方は少し気温が下がったものの快適だった。翌朝目が覚めると東の空は明るくなり始めていた。急いでブライス・ポイントまで行くと、東の山の向こうからは太陽の光が差し始めるところで、すでに多くの人がその瞬間を待っていた。日の出の瞬間を目撃すると、ほとんどの人はこの場からいなくなったが、私はしばらく朝の冷たい風に吹かれていた。

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標高8,296 ft(2,529 m)のブライス・ポイントから。 赤いフードゥーを背景にした朝陽に染まった白っぽいフードゥーが目を惹いた。 デジタルカメラを三脚に載せ、しっかりと朝の光景を捉える。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:50 mm

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公園内で一番大きなAmphitheater(円形劇場)の淵で見た木(Bristlecone pine)に朝陽が届く。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

ブライス・ポイントからキャンプ場に戻り、簡単な朝食を済ませテントを畳み、公園の南へ走った。

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キャンプ場から南に走ると草原が広がり、そこで1頭のプロングホーン(Pronghorn)を目撃する。大口径望遠ズームレンズですばやく撮影し、もう少し近くに行こうとすると遠くに行ってしまった。
プロングホーンは、最速80キロ以上で走ることができ、時速約40キロで長距離を走り続けることができる。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:300 mm

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アクア・キャニオン(Aqua Canyon)。赤い岩のキャニオンも美しいが、朝の光を浴びた黄色い花も輝いていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:35 mm

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ポンデローサ・キャニオン(Ponderosa Canyon)。 デジタルカメラは、微妙に違う赤い岩の色を忠実に描写する。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm

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ブラック・バーチ・キャニオン(Black Birch Canyon) 鉄分で赤く見える岩の表面を、大口径マクロレンズで大胆にシャープに切りとる。

使用機材:SIGMA SD1 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm

車道が繋がる公園内の最南端で、最高地点9,105 ft(2,775 m)のレインボー・ポイント(Rainbow Point)まで行き、そこから引き返し公園の外に出てシーニック・バイウェイ12を東へ走る。

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バイウェイ12に戻る手前の草原に、いくつかの大きな看板が建っていた。
数頭の馬が強い日差しを避け、看板がつくる影の下にいたが、そのうちの1頭が近寄って来た。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:11 mm

シーニック・バイウェイ12を東に行くと、道はブライス・キャニオン国立公園の北部を横切った。途中、赤い岩が目を惹いたトレール(Mossy Cave Trail)を歩く。
1800年代後半、この地の開拓者が水不足を解消するためセビアー川(Sevier River)の東の分流から水を引く灌漑用水路をつくり、その結果流れるクリークにひざまで漬かり滝に近づく。

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クリーク沿いを歩いていくと赤い岩の世界を流れ落ちる滝に出会う。 超広角ズームレンズで、水しぶきを浴びながら真夏の乾燥した土地に流れ落ちる滝と、赤い岩、青い空を写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

ブライス・キャニオン国立公園を出るとシーニック・バイウェイ12は、南に向かい小さなタウン、トロピック(Tropic)に到着する。

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モーテルとRVキャンプのタウンという印象を受けた静かなトロピック。 コンパクトなデジタルカメラで、気軽に撮影。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

さらに5マイル(8 km)ほど南に走り、キャノンビル(Cannonville)に到着し、ビジターセンターでシーニック・バイウェイ12のガイドブックをもらう。

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色鮮やかな岩肌が迫り、広大な牧草地が印象的なキャノンビル。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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キャノンビルのメインストリートを少し行くと古いガスポンプを見かけた。 白くペイントされた建物は午後の西日にまぶしく、ここを通る誰の目にも留まっていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:30 mm

1948年、ナショナルジオグラフィック協会は、ナショナルジオグラフィック誌1949年9月号掲載記事の写真撮影をコダクローム・フイルムで行った。その当時比較的新しいブランドだったフイルム名を用い、彼らは、この地をコダクローム・フラットと名付けた。1962年、この地は州立公園に指定されたが、コダック・フイルム・カンパニーの反響を恐れ、名前は、チムニーロック州立公園(Chimney Rock State Park)に変更された。しかし、数年後にコダック社の許可を得てコダクロームベイスンと改名された。この日、コダクロームベイスに人の姿はほとんど見なかった。私は最新のデジタルカメラを持ち、懐かしいコダクロームを想いながら公園内を歩き回った。

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1億8000万年の地質時代が露出するマルチ色の砂岩層の風景の中に立つサンド・パイプと呼ばれる岩は、セメントを固めて誰かが作ったのでは?と思えてくる。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm

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隣接した牧場からから来た牛だろうか。公園内で見た多くの牛は木陰にいた。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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トレールを歩き西日が照りつけるアーチ(Shakespeare Arch)を見上げる。 今は無きコダクロームを想い、高画質のデジタルカメラに赤い岩と青い空を焼き付ける。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:23 mm

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アーチから引き返すこともできたが、ループになっているトレールの先へ進む。周辺より高い部分を歩くトレールには、西に広がる広大な高原から強い風がビューという音をたてて吹き上げてきた。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:12 mm

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岩山の周りを歩くトレールの東側に来ると西風はブロックされ、風の音のない静かな風景の中に自分の影が写っていた。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

コダクローム・ベイスン州立公園からシーニック・バイウェイ12に戻り、東へヘンリウビル(Henrieville)まで走る。

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ヘンリウビルのタウンに入る手前で見た洒落たサイン。
このタウンに泊ろうかと考えたが、タウンはとても小さく宿泊施設は見なかった。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 70mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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走って来たシーニック・バイウェイ12を振り返り、道の真ん中に大きく両足を開いて立ち、大口径ズームレンズをしっかりとホールドし撮影。
コントラストを上げ夕方の光に浮かぶ乾燥した草を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1600秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:300 mm

小さなタウン、ヘンリウビル(Henrieville)を超えると道は北東に向かった。 「太古の海底の跡から世界で最も標高の高い高山森林のひとつまで、驚くようなピンク色とあずき色の石の塔からヤマヨモギ(sagebrush)の平原まで、シーニック・バイウェイ12は、訪れる人を忘れられない風景に連れていきます。この地域の歴史と文化も一帯となり、シーニック・バイウェイ12の旅を他にはないものにします。」(シーニック・バイウェイ12のガイドブックから)

私は、ガイドブックに書かれた旅をさらに体験するため、エスカランテ(Escalante)へ宿を求めて走った。(後編へつづく)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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