第29回:モノ・レイクの冬
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

ヨセミテ国立公園の東、標高2000mに位置するモノ・レイク。
シェラネバダ山脈は雪で覆われ、石灰石から成る不思議な形をしたトゥファ・タワー(Tufa Tower)に雪が積もっていた。超広角ズームレンズで、冷たく神秘的な冬景色を大胆に切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 | 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

ウィンターストームの影響でLAも寒い日が続いていた2月の中旬、昨年の暮れに猛毒であるヒ素を食べて生きる細菌の発見で話題になったモノ・レイクに向かった。
西に白い雪をかぶったシェラネバダ山脈、東に乾いた白いチャイナ レイク、その向こうにも白い雪の山々が見え、いつ走っても気持を大きくさせてくれるハイウェイ395号線をひたすら北へ走る。連休最後の日、スノーボードを積んだ何台もの車が南下して行くが、北上する車は数少ない。

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395号線沿いのチャイナ レイクで見かけた建物は塩田工場だろか。広々とした風景の中、目を惹く建物だった。コンパクトな望遠ズームレンズを持ち、車からさっと出て撮影すると、年季の入った建物の存在感が冬の景色と共にしっかりと描写されていた。

使用機材:SIGMA SD15 | 70-300mm F4-5.6 DG OS | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

ビショップ(Bishop)を過ぎると道は上り坂になり、標高がどんどん高くなりモノ カウンティーに入るとハイウェイ沿いにも雪が積もり、北に来たと感じる。

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モノ・レイクに近づくと白い雪に覆われた冬の光景が広がっていた。
コンパクトデジタルカメラで大きな冬景色を撮影。

使用機材:SIGMA DP2s | 24.2mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

雪景色の中、ハイウェイ395号線を北上すると、モノ・レイクの南、South Tufaへのサインが見えてくる。数年前の夏にこの湖を訪れていた私は、通り過ぎることなく州道120を東に入った。除雪車とすれ違い少し走るとモノ・レイクが見えてくる。駐車場に着き湖岸まで歩くと、日没まであまり時間は残されていなかった。夏に訪れたときは強い日差しで蒸し暑かったが、この日のモノ・レイクは、冬の寒空に雲がかかり、冷たい風が吹いていた。湖岸に着くと思ったより雪が少ない。塩分濃度が海の3倍と言われているが、その塩分が影響しているのだろうか。冷たい風に負けじと湖岸を動き回っていると、あっという間に日が暮れた。湖のすぐそばのタウン(Lee Vining)に到着すると、すでに真っ暗な夜だった。数年前の夏に泊まったモーテルは、雪の中に埋もれ閉まっていた。タウンで唯一のマーケットで簡単な夕食を買い、その隣のモーテルに宿泊をした。この夜、私の他に宿泊客は二組ほどで、静まり返った夜だった。

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湖面にできた泡が凍っていた。
シェラネバダ山脈からは、冷たい風が吹き降りてくる冬の夕方。

使用機材:SIGMA SD15 | 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:8 mm

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太陽が山の向こうに沈んだ直後、雲が少し切れて静かな夕焼けとなり、湖面に夕焼けが美しく映りこんだ。低くした三脚にカメラを乗せ、少し湖の中に入って撮影。

使用機材:SIGMA SD15 | 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/15秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

気温は華氏3度(摂氏マイナス16度)と冷え込んだ翌朝5時半にモーテルを出る。モノ・レイクの石灰石から成るトゥファ・タワーは、多くの人を魅了している。特に写真愛好家には人気で、湖岸には2人の男がすでにカメラと共に日の出を求めて立っていた。トゥファ・タワーを入れた日の出の瞬間と、朝日に照らされたトゥファ・タワーと湖の表情を撮りたいと思い、良い場所をさがし湖岸を歩く。雪で覆われていたが、湖に近い部分はぬかるんでいた。靴の中は雪が侵入し、靴底は土がこびり付き重くなった。冷たい靴の中を我慢しながら、気に入った場所に三脚を立て、東の方を見ながら日の出を待つ。ふと、西の方を振り向くと、トゥファ・タワー越しに遠くに見える山に太陽の光が当たり始めていた。

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明るくなってきた空に浮かぶ月が、神秘的な風景をより強調する。
カメラを三脚に固定し、寒さでよく動かない指でシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD15 |
17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/15秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:28 mm

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東の空が明るくなり、日の出が近いモノ・レイク。
湖面には霧が立ち込み、幻想的な光景だった。

使用機材:SIGMA SD15 | 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:23 mm

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東から昇った太陽の光が最初に照らしたのは、西のシェラネバダ山脈だった。
遠くの山にフォーカスし手前の主役であるトゥファ・タワーをぼかすと、トゥファの存在もしっかりと強調された。

使用機材:SIGMA SD15 | 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:26 mm

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太陽が昇り、湖に陽の光が届くと気温も少しだけ上がり、冷たく動かなかった指も動くようになり、シャッターを押すのが楽しくなる。トゥファ・タワーに朝日が当たると、そのおもしろい形がいっそう強調され、奇妙な惑星に迷い込んだ気がしてきた。

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モノ・レイクの冬の日の出。寒く冷たい分、太陽の光が暖かく感じる。
朝日がレンズを直激するが、超広角ズームレンズは、朝の空気感と共に湖の表情をしっかりと描写する。

使用機材:SIGMA SD15 | 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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朝日を受けたトゥファ。陽の光がよく当たるところには雪が少なかった。
コンパクトなデジタルカメラは、石灰石から成る奇妙なトゥファを鋭く描写する。

使用機材:SIGMA DP1x | 16.6mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

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Goose(鵞鳥)だろうか。バード・ウオッチングが好きな人にも人気がある湖には、300種類以上の鳥が目撃されている。トゥファの向こうの湖面に霧が立ちこみ、その先は見えなかった。
高倍率超望遠ズームレンズで、湖を移動する鳥を追い、好みの焦点距離に合わせ撮影。

使用機材:SIGMA SD15 | APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:203 mm

太陽が昇り2時間近く湖畔を動き回った私は、モーテルに戻り濡れた靴下を履き替え、チェックアウトを済ませた。マーケットでコーヒーを買い、モノ・レイクの北側にあるカントリーパークに車を走らせた。パークは雪に覆われ閉まっていたが、車を路肩に停め雪の中を歩いて行くことにした。パークの入り口付近と駐車場は、膝まで積もった雪でうまく歩けなかったが、湖岸に繋がる木の遊歩道にたどり着くと人が歩いた跡があり、そこからは簡単に湖に近づけた。

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人の気配が少ないタウンに、赤いペイントの壁が目立っていたマーケット。
氷柱がまぶしい朝日に光っていた。
白い雪は飛ばず、氷柱の影も潰れず、コントラストの強い朝の光景は忠実に記録された。

使用機材:SIGMA DP2s | 24.2mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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雪が積もりパークは閉まっていたが、木の遊歩道には人の歩いた跡があり、快適に歩けた。
コントラストの強い快晴の日だったが、人の歩いた跡と雪の質感がしっかりと描写された。

使用機材:SIGMA SD15 | APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:150 mm

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雪が積もったトゥファ。
石灰石と雪の質感を長めのマクロレンズでしっかりと写す。

使用機材:SIGMA SD15 | APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:150 mm

閉まっていたカントリーパークを歩き回った後、ハイウェイに戻る前に湖畔を見下ろしていると、1台の車が雪道に現れ、若者がスキーを履いて私の前を通り雪山を登って行った。
無駄と迷いのない若者の動きから、この土地の者だと思った。

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ハイウェイから、カントリーパークに繋がる道からモノレイクを見下ろす。
青い空を映し出す湖に浮かぶトゥファ。小さな石のかたまりに見えた。

使用機材:SIGMA SD15 | APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:209 mm

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カントリーパーク周辺は、雪に覆われていた。
肉眼では、まぶしくただ白く見えた雪も、デジタルカメラは、積もった雪の表面の質感をしっかりと写し出す。

使用機材:SIGMA DP2s | 24.2mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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誰もいない雪山の斜面を登るスキーヤー。
どこまで登っていくのだろうか。早い動作で、すぐに山の向こうに見えなくなった。

使用機材:SIGMA SD15 | APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:186 mm

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雪に覆われたモノ・レイク周辺のアクセスは限られていた。西のヨセミテ国立公園までの道、タイオガ・パス・ロード(Tioga Pass Road)は、冬の間通行止めとなっていた。
私は行けるところまで走ってみたが、395号線からわずか数マイルほどで、道にはゲートが掛けられていて、すぐに引き返した。

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395号線沿いからの西のシェラネバダ山脈、ヨセミテ方向の景色。
この山の先に行きたかったが、アクセスが限られていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 24.2mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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ヨセミテ方向に向かい、戻った辺りからモノ・レイクを見る。
手前の道は、395号線。

使用機材:SIGMA DP1x | 16.6mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

午後になり、再びモノ・レイクに戻ってみると、朝の冷え込みがうそのように気温が上がっていた。私は湖畔のベンチにしばらく座り、76万年以上前に形成された言われる塩湖を眺めていた。そして、すぐに日没を迎えた。

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今は陸地になっている部分もかつては湖だった。
モノ・レイクに流れ込む川の水を、ロサンゼルス市に流したため水位が低下した塩湖はサイズも縮小した。現在の湖の面積は、45,133 acres (182.65 ㎢)。

使用機材:SIGMA SD15 | APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:209 mm

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暖かくなったモノ・レイクの冬の午後。
トゥファのフレームからトゥファを見る。

使用機材:SIGMA DP1x | 16.6mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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西の山に太陽が沈むと、急に冷え込んできた。
冬のモノ・レイクは、暑い夏からまったく想像ができないが、トゥファはいつの季節でも、訪れる人を楽しませてくれる。

使用機材:SIGMA DP2s | 24.2mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

湖の水が流れ出す出口がなく、塩分の濃度が増したモノ・レイクに存在する奇妙な形をした石灰石から成るトゥファは、水中で成長する。1941年から、湖に流れ込んでいる水をロサンゼルス市に流したことで、湖の水位が下がり生態系が崩れてしまった。現在は、水位を戻そうする活動で水位が少しずつ戻ってきている。今後、水位が上がり元の湖に戻ることが望まれている。トゥファが、湖水の中に姿を消してしまうことが自然なことで、私たちがレンズを向けられるのは、不自然なことかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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