第97回:冬の能登半島(前編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第97回:冬の能登半島(前編)

富山県の雨晴海岸(あまはらしかいがん)は、水分を多く含んだ重い雪がぱらつき、冷たい空気と温かい海面の温度差で生じる気嵐(けあらし)が立ち込めていた。黒い傘を差した1人の男性が、能登半島を背景に富山湾沿いに敷かれた氷見線(ひみせん)の線路脇を歩いて来る光景は寒々しく、この先の荒れた天候を覚悟した。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:82 mm

年の瀬迫る冬の深夜、日本海側は広範囲に渡り雪の予報が出ていたが、私は能登半島を目指した。日本海を右手に北陸自動車道を南西に走り、新潟県糸魚川市では、暗い空からは雪と霰が混ざり合ってフロントガラスを直撃し、夜は明けたが太陽は顔を出さず周囲はまだ薄暗かった。日本海に突き出た能登半島の玄関口である富山県高岡市の雨晴海岸に到着すると、水分を多く含んだ雪が時より激しく降り、富山湾は荒れていた。写真をよく撮りに来るという地元の男性によると、この日は波がとても高く、立ち込める気嵐は久しぶりに発生したということだった。

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1187年(文治3年)、源義経が北陸時を通り奥州に落ち延びる道中に雨晴海岸でにわか雨にあい、弁慶が持ち上げた岩陰で雨宿りをしたという言い伝えがある義経岩(よしつねいわ)の上に、義経社が建てられている。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:13.20 MB

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能登半島国定公園に含まれ日本の渚百選に選ばれている雨晴海岸の沖にあり、周囲の小さな岩が子供のように見えることから「女岩」と呼ばれる小さな島。この朝は気嵐が立ち込め、幻想的な光景だった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:9.26 MB

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前夜から降り始めた雪で、雨晴海岸は雪景色。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:7.13 MB

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荒れた富山湾と空を覆う黒い雲。写真を拡大してみると、肉眼では見えなかった水平線に沿って飛ぶ鳥が写っていた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:11.44 MB

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氷見線の雨晴駅前は、ちょうど門松を飾るところだった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:13.44 MB

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富山県高岡市の高岡駅と富山県氷見市の氷見駅の間(16.5 km)を走る氷見線の雨晴駅。駅からは女岩も見え、鉄道ファンにも人気があるようだ。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:11.26 MB

雨晴海岸から富山湾沿いを北上して行くと雪は止んで、空を覆っていた厚い雲が切れて陽も差し始めた。石川県に入ると青空が見え、海岸線を走る道沿いに「ブリ」と書かれた看板を多く目にする。春に九州の近海で生まれて北海道まで移動をし、秋には南下して冬に脂がのった状態で能登半島沖に到達する「寒ブリ」は、この地域には欠かせない食材のようだ。海岸線は低山が迫り、漁港の周辺には集落があり畑もある。半農半漁が営まれてきた地域の風景がここにある。

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雪が止むと陽が差し込んだ海岸線に波が打ち寄せる。小船に積もった雪は陽に反射し、長くは直視出来なかった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:10.76 MB

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石川県七尾市佐々波町のさざなみ漁港。この辺りの海域は、暖流の対馬海流と寒流のリマン海流が交わり、プランクトンが大量に発生して定置網漁で「寒ブリ」を獲るのが盛んだ。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:10.26 MB

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全く予想しなかった青空が広がり、梅の花が映えるさざなみ漁港。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:11.63 MB

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漁業に使うのだろうか、赤く錆びた大きな鎖のような鉄が目を惹いた。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:15.74 MB

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さざなみ漁港のすぐ側まで低山が迫り、朝の荒れた天候からは想像がつかない青空を見上げると、サギが飛んで来た。サギを追うようにしてシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:7.41 MB

地図で見ると能登半島は北東に傾き、半島東の中ほどの七尾湾には、能登島が陸続きで湾に突き出しているように見える。橋を渡り島に足を踏み入れたが、大きなレジャー施設がある島を散策する時間がないと判断し半島に戻った。七尾湾は、北湾、西湾、南湾に別れていて、私は北湾に移動した。

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七尾北湾まで来ると、厚い雲が空を覆い雪が降り出し、海は遠くまで見渡せなくなった。浮んでいるブイはカキ養殖のためのものだろうか。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:95 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:6.17 MB

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江戸時代に回船問屋や酒造業を営んだ室木家の屋敷。明治12年から10年かがりで造られた合掌組入母屋造りで茅葺の建物が「明治の館」として公開されている。この日は休館で、閉まった門の扉の隙間から撮影し、彩度を落とすと空から降ってきた雪が引き立った。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:4.37 MB

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カキ、なまこの養殖が盛んな七尾湾沿いに、たくさんの小さな船が手の届く距離に停泊している。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:9.60 MB

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ボラの群れを見張り、魚が入ると網をたぐる伝統漁法に用いられた海面から7,8mの高さに組み上げられた「ボラ待ちやぐら」。かつては多数見られたが、1990年代に高齢化と人手不足のため激減し、現在は観光用に残されている。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.83 MB

七尾北湾から能登半島を北上し、いったん海岸線から離れ内陸部に入ると、山道の日陰の部分は氷結し、田んぼと畑は雪に覆われていた。海岸線に戻ると雲の切れ目から陽が差したが、海風は冷たく冬の海が待っていた。

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冷たい海風が吹く飯田湾沿いは、家屋が建ち並び、人の姿も海岸線によく見かける。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.53 MB

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海岸線の集落から日本海を見る。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:7.91 MB

海岸線から離れて県道28号線を行くと、「珠洲岬・最先端・聖域の岬」と書かれたサインがあり、細い林道に入って行き能登半島の先端である金剛崎に出る。珠洲岬(すずみさき)は、石川県能登半島先端部の総称で、金剛崎周辺は、出雲の国の神話「国引き神話」にも登場する日本三大パワースポットの一つと言われている。

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金剛崎の入り江に建つランプの宿と日本海。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.60 MB

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能登半島の先端、金剛崎から日本海を見る。冷たく強い風に長くはいられなかった。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.84 MB

能登半島の先端である金剛崎は強風が吹き、霙が激しく降ってきたので、聖域の岬には長居はしなかった。林道を引き返し県道28号線まで戻ると、県道を挟んだ林道正面に階段があり鳥居が立っている。階段を登って鳥居前に立つと、山伏山の山頂に鎮座する須須神社(すずじんじゃ)の参道は、天気がいい日中に歩いてみたい山道だった。

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須須神社奥宮への山道入口。暗くなった能登半島先端部の森に、黄色い注連縄が一際目を引く。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/13秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:10.45 MB

能登半島先端部の山伏山に鎮座するのは、海の神か、それとも山の神だろうか。 私は、日が暮れた能登半島の西岸へ向った。(後編へ続く)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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