第35回:化石の森国立公園(Petrified Forest National Park)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

米国アリゾナ州の北東部に位置する化石の森国立公園(Petrified Forest National Park)には、石のように見える珪化木(けいかぼく)と呼ばれる木の化石が見られる。
木の化石の多くはナンヨウスギ科(Araucarioxylon Arizonicum)で、手で触れてみると信じがたい硬さだった。

使用機材:SIGMA SD1 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:150 mm

グランドキャニオン国立公園に向かう際、玄関口的な街であるフラッグスタッフ(Flagstaff)を通過し、インターステート・フリーウェイ40をさらに東へ85マイル(136km)ほど走り、ホルブロック(Holbrook)でフリーウェイを降りる。ルート66沿いのタウンとして栄えた時代を垣間見る土産屋が数軒建っているが、愛嬌のある大きな恐竜の作り物が私の目を惹く。(化石の森国立公園へ)とのサイン通り州道180号を南東に走ると、木もほとんど見かけない荒野には強い風が吹きぬけ、強烈な日差しでサングラスをかけていても目を細める。荒野をしばらく走ると、国立公園まで繋がる道が州道180号から別れ北へ伸び、その道のコーナーには大きな土産屋が建っている。店の前には、商品としての大きな珪化木(けいかぼく)がたくさん置かれていた。

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遊園地でもない素朴な町角で見かけた恐竜の作り物にロングドライブの疲れも忘れ、車の窓からコンパクトなデジタルカメラで撮影。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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強い日差しを避ける日陰もない荒野、風で飛ばされてきた枯れ草が鉄線に絡みつく。
彩度を落とし、乾燥した荒野を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm

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国立公園の入り口に繋がる道との分かれ道のコーナーに建つ土産屋にも恐竜を見た。
塗装が剥げ落ち骨組みの鉄筋も見えている恐竜と、強い日差しの荒野の空気感を同時に切り取る。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

化石の森国立公園は北側と南側に出入り口があり、私は南側の入り口に到着していた。「今日は風が強いですね」と、女性パーク・レンジャーに挨拶代わりに告げると、「これは普通ですよ」と、彼女は私に返した。そして、浅黒い肌に白い歯が印象的なレンジャーは、公園内の石を持ち帰ることは禁じられていることを私に告げた。19世紀の終頃から木の化石を持ち去る人は増加し、豊富に存在していた木の化石も急激に減っていった。1906年に国定史跡、1966年に国立公園に制定され、現在は公園内から石を持ち出すことは禁じられているが、毎年多くの木の化石が公園内から消えている。 ビジターセンター(Rainbow Forest Museum)に着くと、辺りの地形を説明するショートフイルムをまず観ることにした。その後、ビジターセンターの裏にある短いトレール(Giant Logs Trail)を歩いた。平均海抜5400ft(1600m)の化石の森国立公園の気候は、季節により大きく変わる。夏の暑さはきびしく7月から9月までは雷雨も多く、冬には雪も降る。5月中旬のこの日、暑くもなく寒くもない気温で、強い風以外は年間を通して最高の気候だった。

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Giant Logs Trailでは、公園内で最も色鮮やかな木の化石を身近に見ることができる。
ビジターセンターの裏にある短いトレールはアクセスがよく多くの人が歩いていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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ペイントされたような色鮮やかな珪化木(けいかぼく)は、1立方フィートあたり168パウンド(30.48立方 センチメートルあたり76kg)と重い。マクロレンズでその存在をしっかりと記録する。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm

ビジターセンターの近くからスタートし、二つのトレールが繋がっている(Long Logs Trail)(Agate House Trail)も同時に歩く。この時間帯、公園内で珪化木(けいかぼく)が最も密集しているトレールを歩く者は私の他、誰もいなかった。360度視界を遮るものが何もない大地に風が吹きぬけ、いつも以上に帽子の紐を強く結び、靴が大地を踏みしめる音と強い日差しがつくる私の影に、自分の存在を感じて歩く。

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太古の時代を想い、超広角ズームレンズで大きく写し込む。
彩度を大きく落とし、強い日差しの下に存在する木の化石と干上がった地表を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:11 mm

2億年以上前の三畳紀(Triassic)時代、木が川に流されこの地に運ばれてきた。火山活動により森は消滅し、火山灰を含んだ土砂に埋まった木は化石となった。木の化石を利用してつくられた家、アゲット・ハウス(Agate House)まで歩く。プエブロ族(Pueblo Indian)によって西暦1050年から1300年頃の間に建てられた家はきれいに復元されている。かつてこの地に住んだプエブロ族の姿をイメージしながらシャッターを押すと、化石の家から話し声が聞こえてきたような気がした。

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大地に伸びるトレールの先に木の化石でつくられた家が見える。 手前の木の化石にフォーカスし、遠くに見えるアゲット・ハウスを小さく入れ、Agate house Trailを表現。(Agateとはメノウの意)

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:16.6 mm

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1934年、考古学的な発掘作業の後、復元されたアゲット・ハウス。
散乱する木の化石、アゲット・ハウス、青い空、この日の空気感とともに撮る。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14 mm

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化石の家の外壁に近づき1点にフォーカスし、この地で暮らしたプエブロ族の生活に想いを馳せて撮影。美しい珪化木(けいかぼく)を、高画質なデジタルカメラは色鮮やかに描写する。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:20 mm

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ループになっているトレールの出発地点辺りの干上がったクリークにも木の化石を見る。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm

トレールを歩いた後は、公園内を北上し、公園内の真ん中辺りに位置するブルーメサ(Blue Mesa)まで足を伸ばした。青いベントナイト・クレイ(Bentonite Clay)と呼ばれる粘土の層が、夕陽に染まる。その光景を眺めていると、人間が住み始める前の地球、または違う星にたどり着いたような気がしてくる。気温が落ち始めるとすぐに日は暮れ、北側から公園を出た。

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珪化木(けいかぼく)が散乱するメサに夕陽が当たる。
強い風で体が揺れるが、しっかりとカメラを持ち撮影した。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:128 mm

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手付かずの地表とも言うべきか。大口径標準ズームレンズで、地球の歴史を近距離で鋭く捉える。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

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崖っぷちに咲くデザート・ペイントブラシ(Desert Paintbrush)が夕陽に染まる。
小さなデジタルカメラで、この日最後の写真を大きく撮る。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

翌朝、ホルブロックのモーテルで6時前に目を覚ましカーテンを開けると、すでに夜は明け窓から朝の光がまぶしく射し込んできた。化石の森国立公園は7時からのオープンで、ゲートが開くまで公園内には入れない。私はゆっりと朝食を取った後、他の国立公園と比べると出入りの制限を感じる公園の北のゲートを7時過ぎに通り国立公園内に入った。この朝最初に立ち止ったのは、木の化石の前ではなく、ルート66の記念碑だった。マザーロードと呼ばれた道も、木の化石の存在を世に知らしめる役割を果たした。

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かつてルート66はこの地を走っていた。化石の森国立公園は、ルート66の一部を含む唯一の国立公園。
モノクロームにすると、多くの人がウエストへ向かった時代が蘇るような気がする。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

ルート66の代わりとなった国立公園内を走るインターステート・フリーウェイ40号を横切り、サンタフェ鉄道の線路を渡ると緑地帯が広がっている。そこには樹木も生息し茶色の川が流れ、川のそばにはプエブロ族の住居跡が残されている。干ばつで夏の雨量が減り始めたため川沿いに移り住み、トウモロコシ、豆、カボチャの栽培は氾濫原や川沿いに移されたと考えられている。

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西暦1300年頃、200人ぐらいのプエブロ族が住んでいたと考えられている住居跡(Puerco Pueblo)。 部屋数は100から120ほど、ドアも窓ない家には、はしごで外壁を越えて出入りした。 X3 Fill Lightを下げて背景をソフトにすると、住居跡の存在が静かに強調された。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

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大きな住居跡のそばに川を見た。
乾燥した土地に久しぶりに見る水は茶色で泥水に見えたが、強い日差しの下ではオアシスに見える。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

水と緑を見た後、前日の夕方に見たブルーメサまで南下しトレールをゆっくりと歩く。
ブルーメサと呼ばれる灰色の山の斜面に見える堆積層は、ペイントスプレーを吹きかけて描いたように私の目に映る。その斜面に囲まれた谷間には、化石になった木がいくつも転がっている。

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ブルーメサのトレールのスタート地点から公園内の北の方向を見渡す。
大口径レンズで、大きな背景を背にした雨や風によって今も削られている砂岩を切り撮る。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:85 mm

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この日のこの時間帯、ブルーというより紫色に近い色に見えた。
高画質なデジタルカメラで、ミステリアスな光景を余すとこなく大きくシャープに写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

この日、昼前から雲が出はじめた。忙しく動く雲は、陽の光を自由にコントロールしドラマチックなライティングを見せた。雲に遮られ陽の光が直接届かないところは、夜のように暗くなった。陽の光が直撃するところは、まぶしいぐらいに明るかった。

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ドラマチックな太陽光が描く(The Tepees)と呼ばれるテントのような山々。
彩度を落とし、光と影の世界を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

快晴だった空はすっかり雲で覆われ、それまで感じなかった風が吹き出し、気温も急に下がり始めた。化石の森国立公園の北側の風景を眺めると、あらゆる天候を受け止めてきた色鮮やかな大地が広がっていた。

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公園内の北側、(Painted Desert)と呼ばれる風景は、たしかに塗装された砂漠に見える。
高画質なデジタルカメラで、自然が塗装した砂漠をしっかりと写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

雲行きが怪しくなった空に向かい、私はさらに北へ走った。

※このページに掲載されたSD1の作品は、全てβ版で撮影されたものです。また、掲載された作品はRAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしています。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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