第104回:アッシュ・メドウズ(Ash Meadows)周辺
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第104回:アッシュ・メドウズ(Ash Meadows)周辺

ネバダ州ラスベガスから西北西140kmに位置するアッシュメドウズ国立野生生物保護区(Ash Meadows National Wildlife Refuge)内に、早撃ちのガンマンとして知られたジャック•ロングストリートが、1896年に建てた石の家が復元されている。白い砂の小山に突き刺さるように建つ石の家は、地下に水が流れているため外より涼しく、食料保管にも適していた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm

目覚めると空は雲に覆われ、美しい日の出を2日連続で体験することは残念ながら出来なかった。前日の強く清々しい朝陽を体が覚えている私は、どんよりと曇った空に重苦しさを感じながらキャンプ場を後にし、デスヴァレーを見渡せるダンツビュー(Dante's View)に上った。冷たくて強い風が吹き抜けるビューポイントは、ヴァレーの底から上がって来た者には信じられない寒さに感じ、眼下に広がる風景と同じように気温の変化も劇的だった。ダンツビューからの下りは急激で、アクセルを踏まずにどんどん下がり、州道190号線に戻り東へ向った。アマルゴーサ山脈(Amargosa Range)を超え、アマルゴーサ・ヴァレーに入って州道127号線を北上すると間もなくネバダ州に入る。州が変わり道はネバダ州道373号に変わるが、周囲の風景は変わらない。

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海抜1,669mから海抜-86mの地点を含むデスヴァレーを見渡す。空には多少の青は見えたが、曇りと言っていい天候だった。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.30 MB

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曇りの朝、派手な色をした花(Globemallow)に目を引かれ、気に入った花に大口径標準ズームレンズでフォーカスする。ピントが合った花と他の花と地面の暈け具合に、どんより曇ったこの朝の空気感を感じる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:53 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:9.49 MB

州道373号から電信柱が立ち並ぶ道を東へ行き、海抜約670mのアッシュメドウズ国立野生生物保護区に入る。空を薄っすらと覆う雲を通して拡散された光が、遠くの風景を霞すませる。葉がなく焼け焦げたように見える木々が点在し、春だというのに花が少ない保護区は想像していた雰囲気と違う。50代後半に見える女性が一人で切り盛りする小さなビジターセンターに立ち寄ると、幹が焼け焦げたように見える木はスクリュービーン・メスキート(Screwbean Mesquite)で、夏までには葉をつけることを知る。私は、ビジターセンターで勧められた保護区内の3箇所に立ち寄ることにした。

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野生生物保護区に入る直前、積まれたタイヤのフェンスの大きなフィールドがあった。曇っていても眩しい地で、肉眼には潰れて見えた黒いタイヤの表面がシャープに読み取れる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.36 MB

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スクリュービーン・メスキート(Screwbean Mesquite)が点在するアマルゴーサ・ヴァレー。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:58 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.86 MB

ビジターセンターから始まる「クリスタル・ボードウォーク」と呼ばれるループになっている木の遊歩道をコンコンと音を立てて歩く。スクリュービーン・メスキートが点在し小川が流れ自然に囲まれてはいるが、まだ春の風景を見るには早いのだろうか、花はほとんどない。抜けるような青空にはほど遠い天気だが、雨水とネバダ州南部山脈の雪解け水を水源とし、地熱により年間を通して水温が約30℃に保たれているクリスタル・スプリングの青い水が色鮮やかに見える。乾燥し荒涼としたアルカリ砂漠の高地は、地下に流れる水を遮断し地表に押し上げる「地下のダム」的な役目を果たす地質断層の存在により、豊かな水源に恵まれている。

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何千年もかけて石灰岩の岩盤から集まった水の流れが、水面から5m下に見えるクリスタル・スプリング。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:17 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:18.17 MB

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水中の溶解した石灰岩が、鮮やかなブルーを強調する。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.37 MB

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クリスタル・スプリングの側で見た鳥の巣。上から見ることが少ない鳥の巣を、ボードウォークから大口径望遠マクロレンズで捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.49 MB

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夏まで葉をつけないスクリュービーン・メスキート。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:19.87 MB

「クリスタル・ボードウォーク」を歩いた後、馬泥棒の印である耳の上部が切り落とされ、謎めいた ガンマンだったジャック•ロングストリートが建てた石の家に向った。復元された石の家には小川が側に流れ、草木が生息している。周囲の荒涼とした土地にあって家を建てるには、なかなかいい場所に思えた。石の家から3㎞ほど離れたピーターソン貯水池に行くが、砂地の湖岸から背丈の高い植物が邪魔をして貯水池はよく見えない。空を覆っている雲が薄くなって、陽光が強くなると気温は上がり、夏場のような暑さになった。私は、微かに見えるピーターソン貯水池に近づくことを諦め、保護区で唯一スイミングが許可されているクリスタル貯水池へ移動し、その後ビジターセンターで勧められた最後のポイント「King's Pool and Point of Rocks」の木の遊歩道を歩いた。湧き水でできた小さな池に泳ぐ体調2cmほどのパプフィッシュを追うが、水面近くに上がってきても動きが速く、なかなかフレーム内に収められない。年配の女性が「小さくて早いからうまく撮れないでしょう?」と笑顔で話しかけてくる。

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地下から1秒間に60リッターの水が湧き出るロングストリート・スプリングの水温は25.6℃。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:17 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.27 MB

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春なのに秋の色を感じる背の高い植物が、湖岸の湿地帯に生息して湖面はほとんど見えない。腕を伸ばし、できるだけ高い位置から撮影した。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.81 MB

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湖面には行けなかったが、湿地帯に生きるカエルに出会う。長い大口径マクロレンズですばやく捉えた後、あと一歩近づくとカエルは逃げてしまった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.33 MB

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粘土質の湖岸に寄せるクリスタル貯水池の小波。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.25 MB

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保護区には300種の鳥を見ることができるそうだが、はっきりと見えたのは、クリスタル貯水池で見かけた体長約40cmぐらいの「American Coot」だけだった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:500 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.27 MB

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「King's Pool and Point of Rocks」の湧き水でできた池は、緑が強かった。体調2cmほどの雌のアマルゴーサ・パプフィッシュが水面に上がって来た瞬間を捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:500 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.88 MB

乾燥した砂漠地帯のオアシスで見知らぬ人との会話を楽しむと、私は来た道とは違う南側から保護区を出て西へ走り、カリフォルニア州に入り州道127号線を南下する。刻々と沈んでゆく太陽が、デスヴァレーに引けを取らない雄大な風景をドラマチックに変えていく。暮れゆく時の流れに乗り、広大な地を真っ直ぐ伸びた道を緩やかに下って行くと、大きな地球に溶け込んでいくように感じる。

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緑と青が混ざった保護区の南側の出入り口付近。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:21 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.44 MB

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白いアルカリ性砂漠の夕方。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.03 MB

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どこから来た水が溜まっているのだろうか。乾燥した地では水を見ると安心する。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.73 MB

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アルカリ砂漠の高地に豊かな水を提供するネバダ州の山脈。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:137 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.28 MB

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日没が近くなると空の雲が切れ、砂漠地帯に太陽光が届く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.37 MB

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日没寸前の太陽光に染まる山、長くて大きな山の陰と青が残る空。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.69 MB

アッシュメドウズ国立野生生物保護区が位置するアマルゴーサ・ヴァレーは、国立公園に指定されているデスヴァレーの中から来るとより荒涼とした地に感じ、何より訪れる人が少ないのがいい。保護区周辺には大規模な開発計画があり、第2のラスベガスが生まれるかもしれないという情報もあるが、これ以上の開発は必要なのだろうか。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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