シグブラ
第64回:ゆく夏を惜しんでブラブラ

ゆく夏を惜しんでブラブラ

September 9, 2015

左手に海、前方は緑という景色を手すりにつかまりながら眺めている。真っ直ぐ延びるレールを快調に飛ばす車両の揺れは時に身体を大きく揺らす。立っているとなかなかエキサイティングだ。早朝に青森を出発し下北半島までやってきた。陸奥湾沿いに走る大湊線の終着駅はもうすぐである。

走行中の大湊線内で超広角ズームレンズを構える。名物のレールと運転台を撮影するが、なかなかの揺れで難儀した。振り返ると座席には多くの外国人観光客が。どうやらヨーロッパから来て下北半島を巡る一団のようだ。みな大きなバックパックを傍らに置いて眠っている。

ほとんどの乗客は下北駅で下車していった。自分と同じく終点の大湊駅まで乗車したのは数名ほど。帰りの時刻表を確認して街を散策することにする。夏休み真っ只中なので街道を観光のクルマがひっきりなしに北を目指していく。それに背を向けて今日も海に出る。対岸から湧き上がる雲と防波堤の釣り人をSIGMA SD1 Merrillで収めた。

あてもなくブラブラと終着駅の街を歩く。聞こえるのは自分のサンダルが地面を擦る音だけ。静かでしっとりとした路地を幾つも訪ね歩く。曇っていた空が徐々に明るさを増し、気温がグングンと上昇していくのを感じた。

再び車中の人となり単線の揺れを堪能する。乱暴な揺れが眠気を誘い、いつの間にかウトウトしてしまった。気付いた時にはだいぶ南に来てしまっていた。どうせなのでこのまま南下することに。太平洋沿いを走る路線に乗り換えて明るい海を見ながら進む。ずっと南下するつもりでいたが、途中素晴らしい海岸線が見えたので次の種差海岸駅で下車した。海に出ると天然芝の広大で不思議な空間が拡がっていた。とてもキレイで気持ちいい!

海岸線沿いに遊歩道が設置されていたのでペタペタとサンダルで歩いていく。アップダウンを繰り返す。磯と森、そして漁港を巡るルートがなかなか楽しい。

緑と青のコントラストを味わいながら遊歩道を行く。途中、ウミネコの糞で真っ白になった岩を木々の間から眺める。付近にはウミネコの営巣で有名な島があるのだが、この時期は巣立っていてウミネコはほとんどいないようだ。

漁港では釣りをしている親子の姿があった。里帰り中のワンシーンであろうか。その様子を高倍率ズームレンズで岩礁を背景に切り取った。静かでのんびりとした夏の午後のヒトコマだ。

漁港近くに差しかかった時、横にある小屋から「ちょっとお茶でも飲んでいきなさいよ」と声がかかった。地元で取れた新鮮な海産物を出している商店の女将さんからだ。歩いている人に冷たいお茶のサービスをしているそうだ。これはありがたい。飲まず食わずで、ずっと移動し続けているのでありがたくお茶を頂く。せっかくなので食事もしていくことにした。いろいろと話を聞きながら名物のせんべい汁を食す。美味さとしょっぱさが胃袋に滲みた。

「クロオ」という真っ黒なネコと一頻り遊んだあと、震災時のこの辺りの写真を見せてもらった。この付近まで津波が来て大変だったらしい。話しながら作業をする女将さんを、クロオが愛おしそうに目で追っていた。「もうすっかり秋の風だわね」と女将さんは言う。この辺りは一年中いい場所だからまたいらっしゃい、と送り出されて再び遊歩道上の人となった。たしかにもう夏も終わりである。風もどことなく涼しいし、手元の青春18きっぷにも5つのスタンプが押されている。秋はどこをブラブラしようかなあと思いながら、最寄りの駅へと急いだのであった。


三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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