dp0 Quattroの開発で、最も重きをおいたのはディストーション(歪曲収差)を限りなくゼロに近づけることでした。ディストーションを抑え込むことができれば、より自然な描写が得られます。とは言え、ディストーションを抑えるだけですべてが解決するわけではありません。昔のように感材がフィルムで、周辺光量もそれほど考慮しなくてよいのであれば、ディストーションを抑えるのに適したレンズ構成は他にもあります。ところがデジタルではセンサー面にできる限り真っ直ぐに光を導く必要があり、設計はチャレンジの連続でした。しかしその苦労は今回のテストで霧散したのです。

いくら水平垂直を厳密に出してフレーミングしても、ディストーションが大きいレンズでは画面の周辺に被写体を置くとデフォルメが強調され、それだけで撮影の意欲が削がれます。つまり撮影という行為に制約を与え、可能性を摘んでしまうことになりかねません。右奥には光が差し込むアーチ、そして左手前には人間のシルエット。もちろん超広角らしい絵ですが、不思議と望遠レンズで捉えたかのようにも見えます。ディストーションを抑えるというのは、時にこんな芸当も見せてくれるのです。

画面全域でディストーションが抑えられていれば水平線を画面の何処に置いても違和感はありません。超広角独特のパース感を活かした画作りも存分に楽しめるレンズに仕上がったと思います。逆にディストーションが小さければ小さいほど、よりパースペクティブが感じられるようになるのかもしれません。机上やチャートで確かめきれない面は現場で確認するしかありませんが、結果として開発要件に挙げたポイントは満たすことができたようです。引き続き早春のニューヨークと向き合ってみます。