「グリッドシティ」の異名を持つ、ニューヨーク・マンハッタン。南北のアヴェニューと東西のストリートが直角に交差する、格子状の街であることがその名の由来です。各ブロックにはビルが隙間無く林立し、どの方角を向いても人・車・モノがひしめき合う街。今回、この街を2つの視点から撮ることにしました。ひとつはdp0 Quattroの作り手として。そしてもうひとつは一人の写真好きの撮り手として。この街を撮る上で、使いやすい焦点距離はおそらく35mmあたりでしょう。21mm相当の画角では広すぎてあらゆるものがフレームに入り込み、画面整理もままならない手強さが予感されます。しかし、手強い被写体をどう料理するかが写真の醍醐味。奇をてらうことなく、この超広角レンズでニューヨークらしさをどう切り取る、つまりslashするか。さらに、dp0 Quattroの開発コンセプトがどの程度具現化できているかを確かめる意味でも、ハードルは高いほうがよさそうです。

たった1°。それだけの違いで画がガラッと変わってしまうのが超広角レンズです。実は最初、右のようなアングルで撮影していました。その時、突然LCDビューファインダーの中に一羽の鳥が表れたのです。気がつけば、左下から飛び込んできた鳥の導線につられてコンポジションも変わっていました。これが超広角レンズの面白いところであり、難しいところでもあります。さらに目に見えてわかりやすいパースペクティブ効果も時として厄介です。単に遠近感だけが強調された、「広角でござい」というカットになりかねません。それにしてもほぼ真上を仰ぎ見るカットですら、街路樹や街灯、看板といった余計なものが入り込んで画面構成が難しい。ニューヨークを21mmだけで撮るのはやはり無謀だと感じます。

すでに3モデルに搭載して世に送り出してきたFoveon Quattroセンサー。このセンサーなら、他にはない表現力を得られるはずだと誰もが思ってきました。1ピクセルロケーション毎にRGBの信号を持ち、デモザイクを必要としない構造には曖昧さが許されません。レンズの性能はいっそう高いものが要求されます。dpシリーズがセンサーとレンズをセットで固定したのは、他にはない画質、そして表現力を得るための一つのソリューションです。息を呑む様なリアルな描写を、コンパクトなボディで実現する。dp0 Quattroは、そのコンセプトに立って開発したカメラです。そのためのレンズ設計は非常に難しいものでしたが、ナチュラルかつ繊細な髪の毛の描写や、まるで標準レンズで撮ったかのような自然な描写を見て、はっきりと手応えを感じたシーンでした。