第191回:砂漠のアート
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第191回:砂漠のアート

標高1000mの砂漠地帯に白いキリスト像が立っている。ここデザート・キリスト・パーク(Desert Christ Park)にはキリストをはじめとする白い彫刻像がいくつもあり、ハイデザート(High Desert)と呼ばれる標高の高い砂漠地帯に白い彫刻像は眩しく輝いていた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm

ロサンゼルスのダウンタウンから東へ160km走った辺りでフリーウェイ10号線からステート・ルート62に乗り換え、そのまま北へ急な坂道を上リ始めると、日の出前の暗闇にこの地域特有の植物であるユッカとジョシュアツリーが車のヘッドライトに照らし出された。私は、少し変わった場所から昇る太陽を見たくなり目的地より少し東へ走ったが、特別な場所を見つける事は出来ず、ステート・ルート沿いで日の出を迎えた。標高600mから1200mのハイデザートと呼ばれる地域に属するユッカバレーの年間降水量は、約120mm(東京23区は約1530mm)と少ない。6月の降水量は0mmだから、雨の多い同月の日本から来ると乾燥した空気と強烈な陽光に体がびっくりするだろう。

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ジョシュアツリー国立公園北のステート・ルート62号線沿いで日の出を迎え、道から低木が生息する荒野に入り電信柱越しに太陽へレンズを向けた。軽量・コンパクトな望遠ズームレンズは瞬時に動けるので重宝だ。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM | Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2500 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:220mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:15.82MB

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路面と電信柱はシルエットになり、電線だけが朝陽を受けて光っていた。このまま東へ走ってアリゾナへ行きたくなる光景は、コンパクな望遠ズームレンズを最大に伸ばし軽快に撮影した。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM | Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:400mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:11.22MB

日が昇ると私はユッカバレーに戻り、デザート・キリスト・パークに到着した。砂漠の牧師と呼ばれていたエディ・ガーバーは、世界平和のためのクリスチャンのテーマパークを設立するため、1950年に土地を政府から取得し、翌年パークを開設した。一連のイベントを通し、ガーバーは彫刻家のアントン・マーティンに出会う。マーティンの夢は鉄筋コンクリートのキリスト像を創り、平和の象徴としてグランドキャニオンの縁に設置することだった。しかし、その案は受け入れられず、マーティンは高さ3m、重さ4500kgを超えるキリスト像を「要らないキリスト」と呼んだ。1951年、復活祭の1週間前にキリスト像はトラックの荷台に積まれ、ロサンゼルスから砂漠へ持ち込まれた。そのイベントは人々の関心を買い、ライフ・マガジンにも取り上げられた。翌年マーティンはさらに彫刻像をつくるためこの地に移った。1950年代後半にはガーバーとマーティンのパートナーシップは解消され、教会から現在のデザート・キリスト・パークへ移動可能な彫刻像が移された。その後ガーバーはアリゾナの教会へ移り、1961年にマーティンは亡くなり、現在、公園は非営利団体によって維持されている。

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公園は住宅地の外れにあり、周辺はジョシアツリーが生息している。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:26.71MB

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公園内に入ると白い彫刻像が迎えてくれた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:19.39MB

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朝陽を浴びた白い像はチャレンジングな被写体だが、ダイナミックレンジのテストには最適だ。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:16.71MB

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「BLESSING OF THE CHILDREN」と題された彫刻像。向いている方向も姿勢もそれぞれ違う彫刻像に強烈な朝陽が当っていた。撮影時は白とびが心配だったが、特別な調整なしに満足がいく写真に仕上がった。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:17.44MB

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キリスト像を小さくし周辺を大きく取り入れると、澄み渡った朝の空気感が伝わってくる写真になった。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:23.98MB

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タイトルは「Let the little children come to me」の彫刻像。光が当たる明るい部分のディテールがしっかりと読み取れるが、肉眼では眩しくてよく見えなかった。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:18.41MB

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タイトルは「The Last Supper」。他の像とは違い、建物の外壁に掘られたような彫刻は、太陽がまだ低いのでいい影が出ていた。超広角レンズで隅々までシャープに写した画像をよりクリスピーに仕上げた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:21.55MB

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「Garden of Gethsemane」と題されていた。Gethsemane(ゲッセマネ)は、エルサレムのオリーブ山の北西麓のオリーブの木の植えられた庭園風の場所で、キリストが最後の祈りを捧げた場所だった。彩度を落として静かな感じに仕上げた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:23.48MB

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この小さなチャペルは公園隣の教会のものだと思うが、かつては教会の敷地に彫刻像があった。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:29.37MB

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チャペル正面からキリスト像が見えた。キリスト像にフォーカスし手前のチャペルを適度にぼかすには135mmが最適だった。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 135mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:135mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:15.41MB

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チャペルの中に入ると同じキリスト像が見えた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:14.02MB

乾燥し透き通るような空気の中、朝の強い光が当たる様々な白い彫刻像は、非常に魅力がある被写体だった。私はデザート・キリスト・パークから砂漠地帯を東へ走り、アフリカ系アメリカ人の視覚芸術家、彫刻家・ノア ピュリホイ(Noah Purifoy)の作品が砂漠に展示されている「Noah Purifoy Outdoor Desert Art Museum」へ向かった。ピュリホイは1917年にアラバマ州スノウヒルで生まれた。1943年に学士、1948年に修士取得後、1953年にロサンゼルスに移った。そして、1956年40歳になる少し前、Chouinard Art(現在の CalArts)から学士(美術)を取得した最初のアフリカ系アメリカ人になった。その後、ロサンゼルスとジョシュアツリーに住んで活動し2004年84歳で亡くなった。第二次世界大戦中に米国海軍に所属した彼は、退役軍人としてオハイオ州の国立墓地に埋葬されている。

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1998年作のウエルカム・サイン。モノクロームは黒いタイヤと文字を引き立たせる。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:16.03MB

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家の焼け跡のような所にストリートサインが立っている作品。朽ちた廃墟のような作品は、彩度を落として仕上げてみた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:19.98MB

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Gallows(絞首台)という作品。白のペイントとシンプルな木造建てはモノクロームにすると存在感が増した。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:33mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:13.82MB

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明るい色がある回転木馬という作品から女性が出てきた。アクセスがいいとは言えないミュージアムには毎日一定数の人が訪れているようだ。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:32mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:24.69MB

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モノクロームにして色調はウォームトーンを選ぶと、強烈な陽光を浴びて光る部分の質感がしっかりと描写された。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:14.03MB

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「建築家フランク・ゲーリーへの頌歌」という白くペイントされた作品。縦位置で撮影し空を多く取り入れると作品の特徴と思われる不安定さが増した。白い建物のディテールに対するモノクロームの描写力には目を見張るものがある。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4128 × 6192
ファイルサイズ:12.88MB

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ジョシュアツリーを左手前に入れて砂漠のアウトドア・ミュージアムらしさを強調してみた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:23.03MB

アウトドア・ミュージアムから砂漠の集落を抜け、映画撮影やイベントによく使われ、以前、私も撮影に何日か通ったことがあるパイオニアタウンへ立ち寄り家路に付いた。

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家の番地を書いた朽ちた車を見かけた。セピア調にしてフイルムグレインを効かせ、昔のフイルムで撮った写真のように仕上げた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:22.14MB

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撮影やイベントによく使われるパイオニアタウン。彩度を落として昔の西部劇映画のようなトーンに仕上げた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:27mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:6192 × 4128
ファイルサイズ:22.56MB

物を寄せ集めて、積み上げ、貼り付け、結び付けるなどして、創られる「アサンブラージュ」と呼ばれる彫刻で知られたノア ピュリホイは、1965年8月のロサンゼルスのワッツ暴動後に集めた残骸から多くの作品を残したそうだが、この日見た作品の中にもワッツから拾い集めた残骸が使用されているはずだ。最初に見たデザート・キリスト・パークの白い彫刻像は創り方も材料も見た目も全く異なっていたが、共に厳しい自然環境下の砂漠に展示されている。夏は非常に暑く、冬の朝晩の冷え込みも厳しく、乾燥した空気に肌もガサガサになるハイデザートは、自由な作品造りに適しているようだ。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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