押本龍一－私の出会う光景－第127回：春のボレゴスプリングス（Borrego Springs）へ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

カリフォルニア州南東に位置するアンザ・ボレゴ砂漠州立公園で、朝陽が当たるゴツゴツした岩山の斜面にレンズを向ける。平均気温は42℃（最高）から24℃（最低）で、日中は50℃近くまで上がることも珍しくない夏場と比べると過ごしやすく、陽が昇って間もない時間帯は爽やかな風が吹き、砂漠の花は朝陽に輝いていた。

3月中旬、カリフォルニア州の南東部にある砂漠の町ボレゴスプリングスへ向った。ワイナリーの数は少ないが、ワイン産地として知名度が上がっているテメキュラ（Temecula）でフリーウェイ（I-15）を下り、ハイウェイ79を東へ走る。日曜日で交通量の多い道からメタル彫刻の馬が見え、路肩に車を停める。そこから東へ走り、大きな岩がゴロゴロと転がる岩山が見えはじめると交通量が極端に減り、人里を離れ開放的な気分になる。大きな岩が転がるエリアからさらに東へ進むとイメージしていた砂漠地帯とは違い、緑色の草原が広がっている。心地よい風が吹き抜け、花が揺れ動く春の景色が待っていた。

メタル彫刻の馬に近寄ってみると実物大で迫力があった。ハイウェイを飛び跳ねて走って行く様なイメージで設置されていると感じ、馬を追うような気持ちで撮る。

アグアンガ（Aguanga）という小さな集落に岩山を背景にしたワイナリーがあった。

大きな岩がゴロゴロ転がる土地に白い牧場のフェンスが続く。

黄色いゴールドフィールドと青紫のルピナスが咲く春の景色。

草原に沢山の花が咲いていた。高倍率ズームに専用クローズアップレンズを付け、風で揺れ動くゴールドフィールドにフォーカスした。

春以外は枯れている緑の大きな草原を走っていくと、風になびく吹流しが見えてきた。アスファルトは敷かれているが、いたる所に草が生えている小さな滑走路が午後の太陽に光っている。そこはグライダー専用の飛行場で、グライダーは15分ぐらいの間隔で小さなプロペラ機に引っ張られ、次々に空へ舞い上がっていく。

風が吹き抜ける土地にグライダー専用の飛行場があった。広角ズームレンズで空と大地を大きく写し込む。

高倍率超望遠ズームレンズを手にし、プロペラ機に引っ張られて空に舞い上がるグライダーを追う。

ハイウェイ79からサン・フェリペ・ロードを東へ走っても緑の草原地帯は続く。モンテズマー・ボレゴハイウェイに入り、標高1,239mの小さな集落ランチータ（Ranchita）まで来ると岩が転がり荒野という言葉が似合う風景が広がる。さらに東へ走り「下り坂、スピードに注意」「傾斜度8％、トラックはロワーギアを使え」とのサインを見かけると、砂漠地帯に来たなと思わせる風景になった。道はどんどん下っていき、ボレゴバレーが一望できる場所まで来ると太陽が山に隠れはじめた。

カーペットを敷き詰めたような草原に、のんびりと牛が草を食んでいた。いつまでも飽きずに眺めていられる春の光景だった。

1857年に建てられたワーナーキャリロ・ランチハウスの赤いトタン屋根は、広大な草原に大きな存在感を持っていた。

今年の冬は雨が多かったせいか、岩がゴロゴロ転がる周りに生える草も青々している。

避寒地であるボレゴスプリングスが見えてきた。

海抜182mのボレゴスプリングスに下り、目星を付けていたモーテルに直行すると陽は落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。持参したビールを部屋の冷蔵庫に入れ、暗くなった砂漠を少し散策した後、スーパーマーケットへサンドウィッチとピクルスを買い部屋に戻る。「昨日までは昼間40℃を越え夜も暑かったけど、今晩は過ごしやすいよ」とモーテルのオーナーが言う通り、この夜は暑くも寒くもなく半袖短パン姿には完璧な気温だった。私は、テレビもネットアクセスもない部屋で、程よく冷えていたビールを飲みながら簡単な夕食を楽しんだ。

微風はあったものの、荒れた砂漠を知っている人間にとって、これ以上の穏やかな夕暮れはないと思った。

10時にはモーテルの外灯が消え、寝る前に部屋の外に出て星空を眺める。モノクロームにして色調は青を選択。

翌朝、暗いうちに起きてモーテルを出る。前日下りてきたモンテズマー・ボレゴハイウェイを上ってボレゴバレーが一望できるポイントまで来ると、車が横転するのではないかと心配になるほどの強風が吹き抜けている。風は冷たく無風に近かったボレゴバレーとの温度差は激しく、長居はせずに下り始めるとオコティーヨ（Ocotillo）の深紅の花が山の斜面に見えた。路肩に車を停めて車の外に出ると朝陽が差して暖かく風はなく、下りてきた少し上の土地と比べると天国と地獄のような違いに感じた。

パームツリー越しに見るボレゴバレーの夜明け。

強風で飛ばされそうに感じたポイントからボレゴバレーを一望する。

公園の情報誌に「ロウソクの火が燃えているような」と、表現されているオコティーヨの花が朝陽に輝く。

春、降雨の後に葉と花を付けるオコティーヨが沢山生息している。

ボレゴバレーに下りて来ると、気温も上がり砂漠の一日が始まった。朝10時を過ぎると陽射しの下にいるのが辛く感じるようになる。私はソルトン湖に向う道ボレゴ・ソルトン・シーウェイ（Borrego Salton Seaway）を東へ走り、ボレゴスプリングスを後にした。

サボテン（Beavertail Cactus）の花の中に朝陽が差し込む一点に、高倍率ズームと専用クローズアップレンズの組み合わせでフォーカスしてみた。

黄色い花を付けたクレオソート・ブッシュ（Creosote Bush）に沢山の蜂が集まっていた。

名前も特に付けられていないアンザ・ボレゴ砂漠州立公園内の渓谷。

何度か行ったことがあるソルトン湖へはじめて西から向う。電信柱が湖まで続いているように見えた。

ボレゴスプリングスの年間降水量175.5mmで、東京都の1,528.8mmと比べるとかなり少なく乾燥しているが、雨が降った後の春は花も咲き一番いい季節だ。帰り道、ソルトン湖へ西から向う道から幾つかの渓谷が見えたが、ボレゴ・バッドランズ（Borrego Badlands）と呼ばれる大きなアンザ・ボレゴ砂漠州立公園の不毛地帯も探検してみたくなった。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。