押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第19回:沖縄、西表島(前編)

9月初旬の朝、羽田空港から飛び立った機体は、南西へ1600km離れた沖縄県那覇空港に着陸を試みたが、悪天候のため再び上空に舞い上がった。雨雲の上を大きく旋回し、3度目のトライでようやく着陸に成功した。雨の那覇から石垣島までの約1時間のフライトは、多少揺れはしたものの予定より30分ほど遅れ、石垣空港に着陸した。
空港からはタクシーに乗り、10分ほどでフェリー乗り場(石垣島港 離島ターミナル)に着く。沖縄地方は台風の影響で、高波と大雨注意報が昨日まで出され、この週も毎日雨の予報だった。私は石垣島で足止めを食う覚悟は出来ていたが、この日欠航するフェリーはほとんどなかった。西表島上原港行きのチケットを購入すると、宿泊先の民宿に電話を入れ、これからフェリーに乗り込むことを伝えた。フェリーは鳩間島を経由し、そこから数人の客が乗り込んで来た。
雨の予報にもかかわらず、鳩間港には雲の切れ目から陽の光が射しこんでいた。石垣島からは約45分の船旅で西表島上原港に到着し、港には民宿で働く若い女性が出迎えに来てくれていた。
西表島は、沖縄県内で沖縄本島に次ぎ2番目に大きな島(面積284k㎡、周囲130km)である。島の面積の90%以上が亜熱帯の原生林で覆われ、島の面積の約8割は国有林に指定されている。平地は少なく人の居住地は海岸線沿に限られ、飛行場は存在しない。

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揺れる機内から見る石垣島。
台風の影響があったが、雲の切れ目から陽の光が少し漏れていた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:16.6 mm

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経由した海に囲まれた鳩間島。
いつまでも別れを惜しみ、手を振る旅人と民宿の人。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm

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冷房が効いた大きな客室はあったが、フェリー後方に座りエンジン音を聞きながら海を眺めた。
どんよりとした雲、雲の間から差し込む陽の光が眩しい海面、船内に置かれた旅行鞄、デジタルカメラは、その光景の全てを忠実に描写する。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F18.0 | 焦点距離:33 mm

上原港から車で5分の距離にある民宿に到着すると、日本に帰国する私を西表島に誘った友人が待ち受けていた。
数日前から滞在していた友人は、昨日は一日中嵐だったため、この日私が西表島にたどり着けるとは思っていなかった。夕方、西の空は厚い雲が少し切れ夕焼けになった。民宿の食堂には、2種類の泡盛のボトルが置いてあり飲み放題、私と友人は、海風が気持ちのいい庭で夜遅くまで飲んだ。北緯24度15分~25分、東経123度40分~55に位置し、沖縄本島よりも台湾に近い南の島の夜は、猛暑に襲われていた東京よりはるかに過ごしやすく、ぐっすりと眠った。
明け方激しい雨の音が聞こえたが、日の出前には止んでいた。朝食前、まだ寝ている友人を残し、相部屋になった30代前半の男性と民宿の周りをゆっくり散歩した。この男性は2泊したが、9月に入ったばかり民宿はまだハイシーズンで、私の4泊の滞在中、部屋は毎晩3人部屋となった。

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昨日までは嵐で、この日も雨の予報だったが、
島の地平に近い部分は雲が切れ、夕焼けになった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

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鳥から畑を守るためのものであろうか?
雲が切れ、淡い朝日に今日一日晴れて欲しいと祈る。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:26 mm

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何も書かれていない看板に苔が生えていた。
緑濃いジャングル島に来たと感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

西表島には島を縦横する道はなく、北西部の白浜を起点に、南東部の南風見(はいみ)までを結ぶ約53kmの沖縄県道215号白浜南風見線(しらはまはいみせん)が、唯一の幹線道路である。
朝食後、私と友人は民宿で小さな車を借り、島の東海岸線から南東の海岸まで走ることにした。交通量はほとんどない道をゆっくりと走り、砂が堆積してできた由布島(ゆぶじま)までの間を渡る交通手段に利用される水牛車の乗り場に立ち寄る。

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現在、島全体が亜熱帯植物園になっている由布島は、周囲2.15kmの小さな島。
水牛は2歳、3歳からトレーニングをはじめ1年後には水牛車を引くという。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:138 mm

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西表島との間の海は約400m。遠浅で水深は満潮でも1mほどにしかならない。
この時は引き潮で、膝までもないようだった。
高倍率超望遠ズームレンズで気に入った焦点距離をすばやく決め、シャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:138 mm

水牛車に乗って由布島までのんびりと渡る観光はせず、そのまま南へ走る。かつて島の中心だった小さな部落、古見(こみ)まで来ると、サキシマスオウノキ群落と書かれたサインが目に入り、迷いながら少し走ると鳥居の前に出た。
何かの見回りをしている作業服を着た50歳代の男性が、ちょうど鳥居の下を通って行った。私と友人は彼に続いて歩いて行き、サキシマスオウノキはどこに行けば見られるのか尋ねてみると、「すぐそこに見えるよ」と言う。国の天然記念物に指定されている「古見のサキシマスオウノキの群落」は、すぐそばに生息していた。6月から8月、夕方から薄紅色の花が咲き、明け方に花が散ってしまうサガリ花もここで見られた。少し前までは、鳥居をくぐり群落まで歩くしかなかったようだが、最近は木道ができて群落までは木道の上を歩いて行くのが、正しい行き方になっているようだった。

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三離御嶽(みちゃりうたき 又は、ミチャーリオン)と呼ばれる御嶽(うたき)。御嶽とは、神社に相当する聖地。
ご挨拶をさせてもらい、この地に足を踏み入れた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm

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三離御嶽で見かけたサガリ花。
見回りの男性によると、この時期サガリ花はもうあまり見ないとのことだった。
今にも雨が振り出しそうな暗い日、しっかりカメラを持ち撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:30 mm

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マングローブ林のある湿地の内陸側に多く生育するサキシマスオウノキ。
(Looking-glass mangrove)四方八方に張り出した板根と呼ばれる根は、かつて船の舵として沖縄で使用された。彩度を落とし、コントラスト、シャープネスを上げると、神秘的な独自の存在感が増した。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:17 mm

古見からさらに南へ走り仲間川を渡り、大原港でランチブレイクを取り、南風見田(はえみた)の浜まで行く少し手前で海岸へ立ち寄る。岩場を歩いて行くと、立派な石碑が建っていた。
第二次世界大戦末期、日本軍の命令により波照間島全住民は、当時マラリアの汚染地帯だった南風見田の浜に強制的に疎開させられ、3分1の島民が命を落とした。当時国民学校の識名校長は、その悲劇を忘れてはならないと、「忘勿石(わすれないし)ハテルマ シキナ」(波照間住民よ、この石を忘れる勿れ)と海岸の岩に刻んだ。1953年、戦後移住した住民により忘勿石が発見されるまでほとんど知られず、1992年、有志により現在の碑が建立された。

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忘勿石(わすれないし)の碑。
国民学校の青空教室として入学式と授業が行われた場所。
マラリア感染が最もひどかった場所でもある。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

南風見田海岸からは、来た道を引き返し夕方6時の夕食前に民宿に戻った。翌日、天気が心配だったがジャングルを歩くツアーに申し込んだ。朝9時過ぎ、ガイドであるKさんから簡単な説明を受けた後、彼の運転するマイクロバスは民宿を出発し30分ほど走りユツン川を渡ったところに車は停まった。トレールの入り口はよく分からない。西表島の山道は、はっきりとしたサインもなく、ガイドさんに案内してもらうのが一般的だと聞いていたが、確かにどこが山道なの分からない。
私と友人、他の民宿に泊まる20代後半の若者が、ユツンの滝まで登るこのツアーに参加した。ツアーに用意された小さなバックパックを背負い短い長靴のようなシューズを素足で履き、Kさんの後を3人が追う山歩きが始まった。歩くペースは予想以上に速く、道は険しい。曇り空、陽の光はないものの湿った空気の中、大量の汗をかきながら歩く。疲れが出始めた頃、小さな滝に到着する。Kさんは滝つぼに入り、泳いで滝まで行き滝に打たれた。ツアーに参加した3人もあとに続いた。水はいつまで入っていても冷たくない水温で、滝に打たれるとそれまでの汗と疲れが一気吹き飛んだ。

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朝、湾を走る海中道路まで行ってみると雨が降り、
虹が出た。雨を避け、車の中から撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:17 mm

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緑濃いジャングルを流れるユツン川。
左の山と山の間に小さく見える滝を目指す。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:21 mm

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山に入る直前に見かけた蝶、スジグロカバマダラ(Common Tiger)。
持てる荷物が限られた山歩に13.8倍高倍率ズームレンズは最適だった。
焦点距離を最長に伸ばし撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:250 mm

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滝は冷たいイメージしかなかったが、水温は生温かかった。
毎日でも遊びに来たくなる。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:21 mm

子供のように水と遊び、再び歩き出す。用意されたシューズは優れもので、水陸両用だった。ジャングルには、たくさんの生き物がいた。珍しい生き物を見つけるとKさんは説明をしてくれたが、覚え切れないのが残念だった。たっぷり水遊びした体から、再び大量の汗が吹き出る。首からかけているカメラが重く感じ、かなりバテはじめた頃、先ほどより大きな滝に出る。その時、空から大粒の雨が降ってきた。アマガッパでカメラが入ったバックパックを包み、ズボンを脱ぎ捨て滝つぼに飛び込む。滝に打たれると水量が多くかなり痛く感じたが、日頃の肩、背中、腰の疲れが吹っ飛ぶ感じがした。
気が付くと、皆叫び声をあげ、大きな笑顔をした自然と遊ぶ野生児になっていた。(後編へつづく)

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奇妙な穴があいた岩盤の上を登る。
ガイドのKさんは、初めから最後までなんとサンダルを履いていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:18 mm

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カタツムリを食べる虫。
内蔵ストロボは発光させ、光が届かない静かなジャングルの地面を撮る。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:63 mm

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Kさんが見つけたトカゲ。
木に溶け込んでよく見えなかった。すばやくフォーカスし内蔵ストロボを発光させる。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:80 mm

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滝つぼに飛び込み滝に打たれ、自然のパワーに元気をもらう。
滝からの水しぶきと雨で、レンズが曇る。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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