押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第12回:アリゾナ州のルート66、キングマンからセリグマン

一般的な地図でアリゾナ州のルート66を探すと、景色が良い道の印である緑の点が道の北側に記され、インターステート・ハイウェイ40のキングマン(Kingman)と交わり北に大きくカーブし、セリグマン(Seligman)付近でまた交わる区間に自然と目がいく。ハイウェイ40でこの辺りを通過するたびに、この区間のルート66が気になっていた私は、この区間だけを走るため、朝5時にロサンゼルス国際空港に近い自宅を出発した。インターステート・ハイウェイ15を北上し、バストー(Barstow)でインターステート・ハイウェイ40に乗り継ぎひたすら東へ向う。家を出て約4時間、300マイル(480 km)を走るとコロラド川を渡りアリゾナ州に入る。快晴のこの日、ハイウェイから見えるコロラド川のブルーが信じられないほど美しい。私は、思わずハイウェイから降り、コロラド川にレンズを向けた。

thumbnail-01

カリフォルニア州とコロラド州の州境であるコロラド川が、美しかった。
目的地まで一気に走ろうと思っていたが、その美しさに魅せられハイウェイから降りる。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200 F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:118 mm

コロラド川からキングマン(Kingman)までは50分ほどで到着した。ハイウェイを降りるとすぐにルート66博物館が右手に見えてくる。宿がたくさん建ち並び、ルート66一色の街という感じがする街中をゆっくり走り抜けると、大地が広がっている。
この辺りのルート66は、陽光と風をさえぎるものはなにもない。6月第2週目の平日、車の温度計は華氏93度(摂氏34度)を示し、強い風が大地を吹き抜けていた。ハイウェイとは違い、いつでも路肩に車を停められるので、頻繁に車を停めて外に出る。その度に、車のドアを少し開けただけで、風がドアを全開にした。ドアがそのまま取れてしまうか心配になるほど、この日の風は強かった。時おり集落も見え、人間の生活を所々に感じる道だが、私にとって人の存在を常に感じさせるものは、西から来るとほとんどいつも右手に見えていた貨物列車の線路だった。

thumbnail-02

ルート66一色といった感じがするキングマン。
トタンの建物はいつ建てられたのだろうか。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

thumbnail-03

円錐形の給水塔(water tower)にもルート66のマークが描かれ、その存在感は強かった。
もともと色の少ない風景から彩度を下げ、色の少ない写真にして給水塔の存在感を強調。
広角ズームで捉えた給水塔の表面のつなぎ目は、手で触れているような気がするぐらいシャープに写しだされていた。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:12 mm

thumbnail-04

ルート66から300メートル以上は離れていそうな集落。
集落の郵便受けは、ルート66から数メートルのところに並んでいた。
色が少ない砂漠地帯、集落まで繋がる舗装された道に黒のコールタールが浮き出ている。
彩度を落としコントラストを上げ、並んだ郵便受け、コールタールの黒を強調。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:33 mm

thumbnail-05

コカコーラの旗が、小さなレストランらしき敷地内で風に吹かれていた。
風に揺れる旗を見ていると、ルート66がメイン道路だった時代のアメリカに戻れるような気がする。
そんな夢のような気持ちを、X3 Fill Lightを下げて得られる独自な効果で表現してみた。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24 mm

thumbnail-06

キングマンからセリグマン間のルート66と並行して走る線路は、少しの区間を除いてほとんど一緒だった。
その線路にはいくつかの踏み切りがあったが、この写真の踏み切りを渡った人はこの日いたのだろうか。
大口径レンズ50mmで、背景を適度にぼかし人影のない光景を切り取る。

使用機材:SIGMA SD14 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:50 mm

キングマンから約30マイル(50 km) を走ると、古い時代の車、看板、ガソリンスタンドのポンプ等が並べ置かれているルート66に因んだ店(Hackberry General Store & Visitor's Center)が左手に現れる。西から来ても東から来ても、それまで何もない道をドライブして来た者にとって見逃すはずのない店は、1957年型の赤いコルベットを見ながらアイスクリームを食べ、一休みするする旅行者でにぎわっていた。英語以外の言葉も聞こえ、外国からの訪問者も多いこの道は、世界で最も有名な道のひとつだと、この店で再確認する。ハックベリーは、1882年に鉄道が通ると周辺の牧場からは牛を、ハックベリー銀鉱山(1919年に閉山)からは鉱石を運び出す重要なコミュニティーだった。ハックベリーに商品を提供したこの店は、現在はそのオーナーも、役割も違うが、昔を回想するのに十分なビンテージ品を見ることができる。

thumbnail-07

1957年型のシボレー・コルベット。
X3 Fill Lightを大きくマイナス方向に下げ、セピア調にして、昔の生活を想う。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

thumbnail-08

色あせたサインに強い日差しが照りつける。
彩度を落としイエロー加え、サインの色あせぐあいを調整。

使用機材:SIGMA SD14 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:50 mm

thumbnail-09

古い車が店の横に置かれている。
錆びて朽ちた古い車は存在感があり、風格さえ感じる。
彩度を落とし、錆びた色を強調するためにマゼンタとイエローを加えた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ハックベリーを出ると、強かった風は治まり、道は良く整備されていて走りやすく、岩山や大きな草原を見ながらのドライブは快適だった。バレンタイン(Valentine)という小さなコミュニティーで見た煉瓦作りの元学校だった建物が、唯一記憶に残った建物で、北に見える山を見ながら草原の中をゆっくりと走り抜ける大きな風景が、私の目に焼きついた。ピーチ・スプリングス(Peach Springs)に到着すると、もう使用されていないガソリンスタンドの建物が印象的だったが、2台の車が、日差しを避けて日陰になったスタンドで休憩をしていたので、写真も撮らずにその場を通り過ぎた。

thumbnail-10

山の間を通り抜け緩やかな上り坂を上がりきると、
山で見えなかった貨物列車が、山に囲まれた草原を
ゆっくりと走っていた。
ワイドレンズが活きるアメリカンウエストの風景を、
DP1sで切り取る。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

thumbnail-11

乾燥した草原に一軒の小屋が遠くに見えていた。
彩度を少し落とし、乾燥した空気感を表現。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

キングマンから約90マイル(144km)を走るとセリグマンに到着した。派手な外装の土産店の前には、10台以上のオートバイが並んで停まっている。時間が逆戻りしたような錯覚を覚える店のレトロなディスプレイを見ていると、ロングドライブから一休みをするだけでなく、この土地に泊まりたくなる。遅いランチを食べている旅行者は、誰も急いではいないようだ。
この日、私が一番のせっかち者だったに違いない。地図上では、景色のいい道の印がある点が、セリグマンからさらにもう少し先まで伸びていて、インターステート・ハイウェイ40に交わっている。私は、さらに先へ走ったが、ハイウェイ40にすぐに交わってしまった。セリグマンから道は二つに分かれていたが、明確な表示がなく間違えやすい。そもそも両方の道にルート66と記されている地図もある。私はセリグマンに戻り、本来のルート66であると思われる道をさらに東へ走った。
大抵の旅行者は、私が間違えたように走りハイウェイ40に乗り継いでいたので、すれ違う車もオートバイもほとんどなく、のどかなドライブコースだった。ハイウェイ40に交わると、私の計画したドライブは一応ここで終わりを告げた。このままインターステート・ハイウェイ40に乗ることもできたが、走ってきたルート66を戻ることにした。

thumbnail-12

レトロな洋服を着たマネキンと古いピンクの車。
車のピンク色を損なわないぎりぎりのところまで
彩度を落とし、レトロな雰囲気を出してみた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

thumbnail-13

積み上げられた古タイヤも、ルート66沿いに見ると
味があるように感じる。
モノクロにしてタイヤの質感を強調。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

thumbnail-14

セリグマンからのルート66の別れ道のそばあった
ガソリンスタンド跡。
大口径レンズで適度に背景をぼかして彩度を落とし、
ガソリンポンプにまだ残る茶色を出すように調整。

使用機材:SIGMA SD14 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2500秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:50 mm

東に向かって走ってきた道を、西に向かって走り始めた時刻は、夕方の6時を少し過ぎていた。1926年11月11日に創設され、イリノイ州シカゴからカリフォルニア州サンタモニカまで、全長約2,400マイル(4,000Km)を結んでいたルート66は、歌にもあるように、本来は東から西へ走るべきかもしれない。西日に輝くセリグマンまでの美しい風景を見ながら、私はそう思った。ピーチ・スプリングスまで戻ると、西から走ってきた昼間には、休憩をしていた車で、写真が撮れなかったガソリンスタンド跡に日没前の柔らかい灯に光が当たっていた。陽が沈んでも西の空はいつまでも明るく、夕焼け空に向かって走っていると、西の空に溶け込んでいくようだった。

thumbnail-15

西日を受けた草原が美しく輝いていた。
X3 Fill Lightを下げ、ソフターをかけたような効果で、
優しい夕方の空気を表現した。

使用機材:SIGMA SD14 + APO70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:165 mm

thumbnail-16

下って上る道が西に伸びていた。
望遠効果を活かし、道を写しこむ。
コントラストの強いモノクロ写真にして、
道の存在感を強調。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:267 mm

thumbnail-17

この日最後の陽の光が、使われていないガソリンスタンドの建物を照らしていた。
彩度を落とし郷愁のある写真に調整してみた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:16.6 mm

thumbnail-18

最後まで私の旅の友だった貨物列車。
哀愁を感じる夕暮れ。セピアにして表現した。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm

thumbnail-19

西の空はいつまでも明るく、その空に通じているような線路だった。
広角ズームで大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:10 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

Page Top