押本龍一 ― 私の出会う光景 ― : 第6回:冬のビッグパイン、ビショプ

馬を囲むためと思われる木の柵が、少し朽ちかけている。青空を背景に雪化粧したシェラネバダ山脈が美しく、アメリカ本土(アラスカを除く)で一番高い山、マウント・ホイットニーがすぐそこに見えている。ビジターセンターで得た地図に、「地球で最も古い地質学的形成」と説明されている岩の丘、アラバマヒルズ。私はその周りをゆっくりとドライブし、ローンパインの町でランチブレイクを取った後、風光明媚な道、USルート395を北上した。

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ひざを地面に付いて撮影し、朽ちかけている柵の存在感を強調した。木の柵の木目が、手で触っているような感覚を覚えるぐらいに、実にリアルに写されていた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:16.6 mm

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木の根であろうか?
砂漠地帯にまるで生きているように存在していた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:16.6 mm

朝冷え込んでいた気温は上がり、長袖のシャツ1枚が丁度よくなった冬のカリフォルニア、昼過ぎにインディペンデンスに到着する。USルート395沿いがメインストリートになっていることは、この道沿いの他の町と変わらないが、日曜日のメインストリートに人影はない。インヨ・カウンティーの裁判所が、快晴の空の下にひときわ力強く建っている。その斜め向こうに2階建ての外見は立派だが、営業しているのか分からないホテルが一軒、その他に目立つ建物はなく商業的な看板も見ない。人口574人(2000年時)のこの町に、旅の途中に足を止める人は少ないようだ。私は何度かこの町を通過し一度もこの町に車を停めたことはなかったが、快晴のこの日、この町の静けさに惹かれ、USルート395から西の静かなストリートに入ってみた。行き交う車がまったくないマーケット・ストリートにカリフォルニア州の歴史建造物に指定されている作家メアリー・オースティンの木造建ての家が残されていた。ペイントが大分はげている白い柵と柵越しに見える白いシェラネバダ山脈が、青空に映える。そこからほんの少し先へ行くと、この地方の自然環境に触れたオースティンのエッセイ「The Land of Little Rain」のタイトルの通り、雨がほとんど降らないこの地方の歴史物を展示しているイースタンカリフォルニア・ミュージアムに行き着いた。1階建てのオープンスペースに、思った以上に多くの物が展示されていた。その中でもショショニ・インディアンの装飾品やシェラネバダ山脈のパイオニア的登山家の用具が私にとっては興味深かった。裏庭には開拓時代の木造の建物や馬車等が展示されていて、この辺りの昔の生活を想像することが出来、思いがけず貴重な体験をした気がした。

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ペイントがはげている柵にフォーカスし、開放近くで撮影。コンパクトなデジタルカメラは、柵をシャープに捉えながら、同時に背景の家と雪山を美しくぼかしてくれた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/800秒 | 絞り:F3.2 | 焦点距離:24.2 mm

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木と鉄で作られた馬車に昔の人の生活を感じた。
大口径望遠ズームレンズは、馬車をシャープに、そしてやさしく繊細な質感も同時に描写してくれた。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/640秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:70 mm

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明るい標準レンズは、昔の家のスケールを忠実に伝え、美しいレンズのボケにこの日の午後の暖かい空気を感じる。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1000秒 | 絞り:F2.0 | 焦点距離:30 mm

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明暗の差が激しい光景だった。発光させた小さな内蔵フラッシュは、暗部のディテールをホールドするのを手助けしてくれた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

インディペンデンスからUSルート395をさらに北上しビッグパインへ、そこから168号線を東に30分ほど走り太陽が傾き始めた頃395に引き返し、その夜の宿泊先であるビショップの宿に向かう。まだ完全に暗くなる前だったが、宿のパーキング場の7割は既に車が停まっていた。
チェックインを済ませ、宿の斜め前のイタリアレストランに歩いて行くと店内はほぼ満席で、テーブルに案内されるまで少し待つ。南から北上して来た私の目に、ビショップは人も多く賑やかな町に映った。翌朝、町からシェラネバダ山脈を前方に見ながら168号線を西へ走り、朝日が当たる雪山を眺めた後ビショップの町に戻り、宿のチェックアウトを済ませ、USルート395を少し北上した。

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この辺は一本道になっていた。
太陽が傾くと気温は急に落ちてきた。車から降りて簡単にスナップした。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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気持ちのいい日の出だった。
朝日を浴びた山の陰は潰れず、目で見た通り山並みが美しく描写された。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:16.6 mm

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朝の光に包まれたビショップ。
強い光が右手前方から射していたが、フレアも入らずデジタルカメラは、この朝をクリアーに切り取った。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

北に少し走ると道は上りはじめ、この辺りのシェラネバダ山脈は、山の下の方まで雪がカバーされていた。ハイウェイから逸れて大きな景色の中に入ると、白い雪山まで続いているように見える大きな牧場が広がっていて、そこには数頭の馬が広大な土地を占領していた。太さが違う木の棒が、等間隔にたてられた柵。その柵の横を走る道もまた牧場の敷地の中のように感じられる。そんな道をゆっくりと行きビショップの町まで戻り、USルート395を南下して昨日通過したビッグパインに到着する。

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大口径標準ズームレンズの開放近くで撮影した。
牧場らしい柵の手前にフォーカスし、撮影者から離れた柵と背景の雪山が美しくぼけている。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/1600秒 | 絞り:F3.2 | 焦点距離:24 mm

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好奇心を持って私を見ていた馬たち。
大口径望遠ズームレンズで、好みの焦点距離をすばやく決め撮影した。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/1250秒 | 絞り:F3.2 | 焦点距離:70 mm

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葉が落ちた冬の木の間を通り抜ける。
大きな木を見上げるように超広角ズームレンズで写しこんだ。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm

ビッグパインから西のグレーシャーロッジ・ロードに入り、どんどん上って行くと道の周りには雪が積もっていたが、道はきれいに除雪されていた。夏場に数回、テントを張った経験があるビックパインクリーク・キャンプ場まで上りきると、海抜約7700フィート(2350m)のキャンプ場は雪の中だった。5月3日から10月15日の半年間しかオープンしていないキャンプ場に人の姿は見かけない。キャンプ場の入り口は登山口にもなっていて、そこに2台の車が停まっていて、ここから先に車は入れない。私は30分ほどクロスカントリースキーの跡が残る雪の登山道を登った。凍った雪の上は思ったより滑りやすく、なかなか前に進めない。少しの傾斜にもよろけそうになる自分が滑稽に思える。雪のない夏の景色しか知らなかった私にとって、別の国に来たような新鮮な感動を覚えもっと上まで登りたい欲求が高まるが、履いていた靴では限界だった。
雪のため車道が通行止めで、ここまで来られるか半信半疑だった私にとって、夏に数回テントを張った楽しい思い出があるキャンプ場の雪景色をこの眼で見ることができ、どこまでもブルーな空の下、眩しく輝く雪の上に立てただけで満足だった。

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木の電信柱と平行して急坂を上った。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F14.0 | 焦点距離:50 mm

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キャンプ場は雪の中だった。
色のない冬、シンプルなモノクロにした。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッタースピード:1/2000秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:154 mm

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快晴の空の下、凍っていた池の表面のディテールがしっかりと写し出されていた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

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大きくはないが、流れ落ちる水の勢いが強い滝が雪に覆われていた。流れ落ちる水と雪の質感をモノクロで表現したかった。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F7.1 | 焦点距離:120 mm

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青い空まで続いているような山に登りたくなる光景。
木陰に隠れて撮影した。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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