押本龍一 ― 私の出会う光景 ― : 第4回:ロンポック・サーフへ

サンタバーバラ海峡線を走って来た私は、ガヴィオタ州立公園内にある桟橋を丘の上から見下ろすように撮影した後、太陽が沈まないうちにLAに戻るつもりだった。車に戻り周辺の地形を地図で確認していると、サーフ(Surf)という地名が目に入る。いい光景に出会えそうだ、そんな確信的な期待を抱かせる地名を目にした私は、さらにその先の海岸を目指すことにした。
この辺りまでしばらくフリーウェイ101と重なり合って走っていたパシフィック・コーストハイウェイ(通称PCH)は、少し北に行くとフリーウェイから分かれて西に曲がりカブリロ・ハイウェイと重リ合った。その道を30分ほど走るとヴァンデンバーグ空軍基地で知られるロンポック(Lompoc)に到着する。日曜日の午後3時、人影をあまり見かけない静かな町で、壁画の写真を撮るために車を数分間停めた以外、どこにも立ち止まることなかった。PCH から離れ、町中で重なり合っていたウエスト・オーシャン・アベニュー(246号線)を西へ走る。大きな畑が左右に見える田舎の風景の中をゆっくりと走り抜ける午後のドライブ、出会う車はほとんどなかった。

SAMPLE PHOTO 01

実際には見ることができなかったロンポックで見かけた灯台の壁画。
午後の陽の光を受けた壁画は、私の目に焼きついた。その壁画の端から端までしっかりと写し出す最適な焦点距離だった。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

SAMPLE PHOTO 02

1本1本その背の高さが少しずつ違う木の電信柱にキャラクターを感じ、車を路肩に停め、納得のいく焦点距離で撮影した。

使用機材:SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:164 mm

西にひたすら走ればサーフに繋がるはずの道を走っていると、オーシャン・パーク・ロードと書かれたサインが右手に見える。私は少し寄り道をするつもりでその道に入る。その道は舗装されていて、湿地帯を数回曲がりながら海岸まで繋がっていた。道と湿地帯の間には、境となる土手はなく、少しの雨でもすぐに水の中に潜ってしまいそうなどこか心細い道だった。その細い道を数百メートル走ると、ピクニック・テーブルが数個並んでいる駐車場に行き着く。太平洋に流れ込む川が、海岸付近ではその流れを感じない池のような川となり、その周辺に湿地帯をつくる。海と川との境目が分からない水面の上に、アムトラックが走る鉄橋がかけられている。鉄橋の周りには、高波から守るためか、大きな石が積まれている。その鉄橋の下を通るビーチまでのアクセスは、満ち潮のため海水に潜っている。この時間帯にこのパークを訪れていた人たちと同じように、私は線路を横断しビーチまで歩いて行った。チドリの保護のためビーチのアクセスが禁止になる期間があるこのビーチは、ところどころ海霧で覆われていた。霞んで遠くまで見えない幻想的なビーチは、終りがなくどこまでも遠くへ続いている砂の迷路に迷い込んでしまった、そんな不思議な気持ちにさせた。

SAMPLE PHOTO 03

遠くに離れている小さな鳥は、私の存在を意識していたようだ。
望遠ズームのOSをオンにし、焦点距離を500mmまで伸ばしすばやく撮影した。三脚はトランクに残したままだった。

使用機材:SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:500 mm

SAMPLE PHOTO 04

満ち潮で海と川が一緒になる。水面に丸太棒が反射して映る光景を50mmレンズで忠実に捉えた。

使用機材:SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:50 mm

SAMPLE PHOTO 05

砂に覆われた木とそこに生きている植物、その砂浜の風景を夕方の陽の光が描写する。沈みかけた太陽光がレンズに入るのを承知で撮影した。
倒れている木の質感がしっかり表現され、背景も美しく自然にぼけている。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 06

高倍率でありながら持つのが苦にならない望遠ズームレンズを片手に、霧で霞んでいたビーチを歩き撮影した写真には、その時肌で感じ取ったしっとりした空気も写し出していた。

使用機材:SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/500秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:403 mm

SAMPLE PHOTO 07

錆びた鉄橋に夕陽が当たり、満ち潮でビーチまでの通路が海水に潜る光景をビーチ側から撮影。
内蔵ストロボを発行させ、オレンジのポールのシルバーを浮きださせ、潜った通路も写真に写した。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/100秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

SAMPLE PHOTO 08

夕方の海岸を走り抜けてゆく電車を追いながら望遠ズームで捉えた。 海霧で少し霞む哀愁漂う海岸をセピア調にしてみた。

使用機材:SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/200秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:500 mm

SAMPLE PHOTO 09

湿地帯と道の境はなく、水面とほとんど同じレベルを走る道だった。
フィッシュアイレンズで湿地帯の水面の広がりと空の大きさ、電信柱から伸びている電線の広がりを強調した。日没迫る湿地帯もセピアが似合う光景だった。

使用機材:SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/100秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:10 mm

サーフという地名に魅力を感じここまでやって来た私は、少しの寄り道のつもりで立ち寄ったオーシャンビーチパークで時間を使い過ぎ、湿地帯を通り抜けパークを後にする時はもう日没寸前だった。ウエスト・オーシャン・アベニューに戻り、暗くなりかけた丘を少し上がるとサーフビーチという太平洋が一望できる無人駅に行き着いたが、サーフという地名のサインは見かけなかった。駅のベンチに腰掛ける男女、線路を渡り砂の上で犬と遊ぶ若い女性、写真を撮り合う家族だと思われるグループ、皆、日没を見に来ていた。この日の夕暮れは、水平線に雲がかかり太陽が水平線に沈む瞬間を見ることはなかったが、赤く染まった西の空と太平洋は、日没を見に来ていた10人ほどの来客を十分に満足させた。家路に着いた私は、大きな太平洋とその水平線に沈みゆく太陽、その壮大な光景を目撃できる無人駅に出会えて満足だったが、ロンポックで見かけた壁画、そこに描かれていた灯台(ポイント・コンセプション)が目に焼き付いて離れなかった。

SAMPLE PHOTO 10

西に沈む太陽が、無人駅を赤く染める。駅のホームの黄色いライン腺を入れることで、駅の長さを強調した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/80秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 11

サンセットを背景に写真を撮り合う人々を高倍率な望遠レンズの一番短い焦点距離で撮影。
太陽、雲、高い波がうねる海を背景に、シルエットになった人々の気持ちまでもデジタルカメラは写し出しているようだ。

使用機材:SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:150 mm

SAMPLE PHOTO 12

水平線に雲がかかったが、美しい夕焼けだった。
夕焼け雲、海、赤く染まった空の色がかすかに反射している線路。デジタルカメラは、それらを忠実に記録し、この瞬間が蘇るようだ。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/80秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

それから2週間後、その灯台をこの目で見るために私は再びロンポックを訪れた。地図で確認した通り、灯台までの海岸の道を走り始めるとすぐにゲートに行き着く。そのゲートにいるガードの若い女性が、ポイント・コンセプションまではプライベートの土地を通らないとたどり着けないので、灯台を見ることは出来ないと、私に告げる。ちょうどその時このゲートを通った男性が、アムトラックに乗れば灯台が良く見えると教えてくれた。今から電車に乗る気もなく、灯台を見るという望みを絶たれてしまった私は、地図上で美しい景色が見られる道に記される黒い点が長く続くカブリロ・ハイウェイを再び走ることにした。この日は激しい雨を伴う冬の嵐が去り、久し振りの快晴だった。空気は澄み渡り、丘陵地帯の草は雨の恩恵を受け、生き生きとした緑を輝かせている。その美しい風景と爽快な空気の中を走り抜け、再びオーシャンビーチパークを訪れた。この日訪れた時間帯、海は引き潮で大きなビーチはさらに大きく感じ、2週間前見なかった大きなペリカンをこの日は多く見かけた。
目的だった灯台まではたどり着けなかったが、目にする全ての光景に大きな広がりを感じ、澄み切った空気の中、美しい緑の丘陵地帯を走り抜け快晴のビーチに立っていると、このまま海風に乗ってどこかに飛んで行けそうな気がした。

SAMPLE PHOTO 13

爽やか空気の中をサイクリングするグループが通り過ぎた。
青い空、雲、草木、全てをクリアーに写し出した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 14

数日間続いた雨が止んだ日、丘の草が元気で牛も幸せそうだった。
緑の丘の草の1本1本まで読み取れそうなぐらいシャープな写真が写っていた。

使用機材:SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:29 mm

SAMPLE PHOTO 15

この日たくさん見かけたペリカンを大口径望遠レンズで撮影した。

使用機材:SIGMA APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/640秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:300 mm

SAMPLE PHOTO 16

引き潮でその姿が全て見える丸太棒。ささくれた丸太棒の表面は、この環境を物語っていた。そのデイテールは、手で触れているような錯覚を覚えるぐらいシャープにリアルに写し出されていた。

使用機材:SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:33 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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