シグブラ
第38回:中年放浪きっぷでブラブラ

中年放浪きっぷでブラブラ

August 12, 2014

7月の暑い最終週、午後の打ち合わせを終えて渋谷駅で湘南新宿ラインの「宇都宮行き」表示を見たとたん、青春18きっぷを改札に差し出して車中の人となっていた。カメラはあるが着替えはない。途中でファストファッションの店に飛び込めば何とかなるだろう。列車に揺られながら、iPad mini with Retina display のマップを見てどこに行こうか考える。ひとまず接続のいい郡山まで行くことにして、翌日はどうしようかと車窓からぼんやりと景色を眺めていた。

翌朝は郡山駅から朝一番の磐越東線に乗って浜通り方面へと向かう。昨年は磐越西線に乗って会津に行ったので単純に反対方向に向かったわけだ。震災で途絶していた常磐線がちょっと前に僅かだが延伸したことをネットで知ったので、これは行かねばなるまいと思ったこともある。いわきまで行き常磐線に乗り換えて北上して、現在の終着駅「竜田」に降り立った。誰もいない駅前には観光案内地図があったが、その傍らには現在の放射線量を告げる線量計が立っていた。

駅前から海を目指して歩く。他に歩いている者はもちろんいない。たまに通りかかるクルマは「除染作業中」のサインが付けられたものばかりで、乗っている人はマスクを付けて防護服を着ている。海が見えてくる地点まで来ると草刈りをしている地元の人に出会った。猛暑の中、普段着で黙々と耕地であっただろう場所の雑草を刈っていた。その向こうには除染済の土が入っていると思われる黒いビニール袋が大量に積まれている。

海に出る。津波で破壊された建物とガードレールがその時のまま佇んでいた。渡ろうと思っていた橋は落ちたままで、どうやらこの先は進めないようだ。しばらく周囲を撮影して、人気のない集落を抜けて駅に戻ることにした。駅に着くと折り返しの列車がちょうどやってくるところであった。

勝田駅まで常磐線で行き、そこからひたちなか海浜鉄道に乗ることにする。終点まで行くと音楽イベントで混雑していそうなので途中まで切符を買う。ガタゴトと揺られて那珂湊駅で下車。残念ながら駅に住み着いているネコはいないようだった。この暑さでは仕方ない。映画の撮影に使われたようで、そこそこ駅前は賑わっていた。

反射炉を見たりブラブラと街を歩く。味わい深い路地と歴史を感じさせる建物がなかなか楽しい。あてもなく歩いていると那珂川と涸沼川の合流地点に出た。堤防には震災の傷跡が残っている。駅に戻るのもつまらないので、このまま川を渡って隣の大洗まで行くことにした。

橋を渡って大洗に入る。とたんにアニメキャラのポスターが目に付くようになった。大人気のようで「聖地巡り」をするファンが多くここを訪れて、街にとても活気が出ているという。行き交うタクシーや路線バスもそのラッピングが施されているものが多い。

大洗の海水浴場はそこそこの人出だ。長い海岸線が美しく、海風が心地よい。「今回のブラブラもまた海に来てしまったな」と波を眺めながら思った。ポケットから青春18きっぷを取り出して「次回は山方面に行きたいなあ」と考えながら大洗駅に向かい鹿島臨海鉄道に乗り込んだ。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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