シグブラ
第21回:晩秋のミナトをブラブラ

晩秋のミナトをブラブラ

November 29, 2013

休日の午後、ブラリと海にやってきた。なんとなく美味い魚が食べたくなったからだ。私鉄とJRを乗り継いで海の最寄り駅に着いた時には日が傾き始めていた。都心部と違って、夕方近くなっても潮の影響で暖かいのは嬉しい。バックパックからカメラを出して、カモメの声を聞きながら歩き出した。目指すは漁港の食堂だ。

駅からほど近い漁港は静かだった。休日とあって操業は行われておらず、働く人たちの姿はない。岸壁では親子連れが釣り糸を垂らしているのが見えるだけだ。

係留されている漁船から伸びるロープに躓かないようにして漁港を歩く。写真を撮っていると食堂帰りの人たちが後ろを通り過ぎた。「今日は混んでたなあ。でも美味しかった」と会話が耳に入る。「まだ混んでいるのか!」とちょっと焦りつつ歩き出す。

急いで食堂に向かいながらも(笑)、被写体を見つけるたびに立ち止まって撮影する。使い込まれた漁具はどれも味があって画になるからだ。

食堂前にはまだ行列ができていた。軽く見積もって20人。しかたなく並んで iPhoneで時間つぶしだ。こういう時にスマートフォンは役に立つ。これからの天気や潮汐、周囲の地図を確認して、食後の撮影に備えられるからだ。そうこうしているうちに中から呼ばれ、それは美味しい刺身定食にありついたのであった。

満腹になって外にでるとネコが待ち構えていた。すかさず単焦点レンズに付け替えて写真を撮らせてもらう。モデルになってもらったが、残念ながら食べられるものは持っていない。ノーギャラで我慢してもらおう。ネコのちょっと恨めしそうな視線を感じながら漁港をあとにした。

防波堤を越え、工事現場を越え、高速道路を越えて海岸に出た。砂浜と玉砂利で実に歩きにくい。海岸にいるのは釣り人とカップル。

日が傾くにつれ、雲間から太陽が顔を出した。風が徐々に強くなり、波が高くなってきた。その海岸線を東へと歩く。構えた望遠ズームレンズの前玉に飛沫がうっすらとつくのがファインダー越しにわかった。

桟橋に辿り着いた。夕焼けを期待して歩いてきた方向を振り返ったが、ちょうど太陽の部分に厚い雲がかかってしまっていた。桟橋には同じように夕焼けを期待した人たちが西の方角を見つめていたが、彼らの顔が赤く染まることはなかった。結局そのまま日が落ちて、夜へと突入していったのであった。駅までの真っ暗な道を歩く。「今日は何の刺身だったっけな」と考えつつ、次のブラブラも美味しい物目当てでもいいかもしれない、と思った。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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