シグブラ
第19回:初冬の百名山をブラブラ

初冬の百名山をブラブラ

October 28, 2013

山に向かう。真っ暗な深夜の高速道路をひた走った。下道におりて登山道入り口を目指す。街を通り過ぎて山岳地帯に入った。曲がりくねった峠道のスノーシェッドを、ヘッドライトが右に左にと切り裂いていく。高度を稼いでクルマを停めると、うっすらと空が白んできた。クルマを降りてシューズの紐をしっかりと結び直し、バックパックを背に歩き出した。

麓の登山道はやや幅広く、遊歩道とか散策路といった趣だ。柔らかな土の感触を足裏に感じ、木々の香りを深呼吸しながらゆっくりと歩く。空は白々としてきたが、分厚い雲に覆われていて、今日はどうやら青空は望めそうもない。森の中はまだ暗いままだ。

しばらくは静かな山歩きを楽しんでいたが、若者のグループが追いついてきた。20名ほどいただろうか。最近は若い人、特に女性が山を楽しんでいる光景を目にする。賑やかな彼らに道を譲る。徐々に登山道は高度を上げ、空が近づいてくる。木が少なくなり岩場が多くなってくると、そろそろ森林限界を超える高さだ。傾斜が増し、風をまともに受けるようになってきた。鞍部にはまだまだ元気なシルバー世代の登山パーティーが防風性のあるジャケットを着込んでいた。

森林限界を超えた。相変わらず空はグレーのままだが、視界はそれほど悪くない。さすがは関東以北にこれ以上の高さの山が存在しない百名山だ。遠くに冠雪した富士山がおぼろげに見える。強い風にしゃくなげが揺れている。さあ、頂上まであと少しだ。

頂上は多くの人で賑わっていた。山頂を示す道標をカメラに収めようと、狭いエリアに登山者が集まるので仕方がない。そこそこに山頂を離れて、誰もいない岩の裏に腰を下ろす。風を受けないようにしてランチタイムだ。テルモスから温かい紅茶を飲み、おにぎりを頬張る。歩くのをやめると気温の低さに気づいた。3度ちょっとだろうか。時折風がみぞれというか粉雪を運んでくる。

山頂から急斜面を下る。途中、男体山と中禅寺湖が稜線の向こうにキレイに見えた。晴れていれば燃えるような紅葉を遠くに望むことができたかもしれない。今歩いている山はすでに木々は落葉し、秋の終了と冬の訪れを感じさせてくれる。岩場から再び森の中に下りていく。木々に包まれると風の時間は終了だ。

沢沿いを進み池を目指す。時折シカの鳴き声が谷沿いに木霊した。途中にあった避難小屋を覗く。キレイに使われていて快適そうな小屋内には、ひとことを記すノートがあった。たいていの山小屋にあるのだが、書かれている内容を見るのが非常に楽しい。悪天候で停滞を余儀なくされた人たちの様子が伝わってきた。

ほどなくして池の畔に出た。先ほどまでいた山頂がよく見える。北斜面には雪がかなり積もっていた。もう2週間ほどするとかなりの雪が降るだろう。バックパックを下ろして、カルデラ湖のようでいてそうではない池の周囲を撮影する。木々はすっかりと葉を落とし寒々しい。その前を登山者が歩いて行った。冷たい景色だが悪くない。

日が傾きはじめた帰路を歩く。どんよりとした夕暮れを見晴らしのいい場所で眺めながら次のブラブラについて考えた。この周辺の道路もそろそろ冬季閉鎖となり本格的な冬に突入だ。そうなるとスノーシューの出番だなあ、と。そしてヘッドライトに灯を点して残りの登山道を下りていった。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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