シグブラ
第7回:山中の神殿遺構ブラブラ

山中の神殿遺構ブラブラ

April 26, 2013

山道を歩く。春らしい日射しと爽やかな風が心地よい。アップダウンを繰り返し、とある鞍部に到着した。所々朽ちている木道をさらに進むと、映画に出てくるような巨大な岩石でできた遺構が現れた。

新緑の森の中にスポットライトを浴びたかのようにその空間は存在した。5階建てのビルくらいある岩石のゲートに吸い込まれるように歩いて行くと、意外なほど大きな場がそこにあった。まるで"神殿"である。

内部は風もなく物音もしない。若干ヒンヤリとした空気が身体を包み込む。ここは明治から大正にかけて石切場として賑わったところ。程なくその役目を終えてそのまま放置されて現在に至るのだが、ハイキングコース途中にこのような異空間が素晴らしいコンディションで残っているのが何とも不思議である。グルッとこの遺構内部を歩いてみたが誰もいない。しかしどこからかジッと見つめられている気配が常につきまとっている。地元では心霊スポットとして知られているのも頷ける。

まるで神殿のようにデザインされた遺構は圧巻だ。石切職人が使用したと思われる足場状のものや、閉鎖当時の署名のようなものもキレイに残っており、美しくカットされた岩の断面もほれぼれするほどシャープだ。

太陽がほぼ真上に来た。暖かい日射しが遺構内部の温度を僅かながら上昇させた。聞こえ始めた鳥のさえずりや飛び交う虫たちが、異空間にいる自分を現実に引き戻してくれる。

季節にもよるだろうが、遺構内部に美しく光が差し込むタイミングを捉えるのは難しい。夏になると樹木が茂りうっそうとしてしまうだろう。しかしそれもきっと美しいに違いない。上部を見るとごくたまに小石が落ちてくることがある。崩落を常に意識していないと危険だ。僅かな隙間に根を張った植物が歴史を打ち砕こうとしている。

光と影。面と線。岩と砂。さまざまなコントラストをこの遺構は見せてくれる。撮影に超ワイドレンズとしっかりとした三脚は必須だ。

日が傾いてくると遺構は暗い世界に沈んでいく。とたんに温度が下がり湿気を帯びてくるようになる。構造上外界より暗い世界に入るのが早いのだ。撮影中は気にならなかった視線を再び感じるようになった。そろそろ引き上げる頃合いかもしれない。ファインダーを覗いている間はついに誰もこの"神殿"を訪れることはなかった。機材を仕舞い、バックパックを背に歩き始める。木道を神殿の外まで歩いて振り返ると「また来いよ」という声が聞こえた気がした。またブラブラしに来るのも悪くないな、と思い神殿をあとにした。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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