押本龍一－私の出会う光景－第171回：冬のDesertCenter周辺

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

砂漠地帯にあるガソリンスタンドとコーヒーショップは閉まっていた。寂れた風景の中、おんぼろ車が水溜りを走り抜けて行く光景は、映画のワンシーンのようだった。

冬の朝、ロサンゼルスのダウンタウンからフリーウェイ10号線を東へ280km走ったところでフリーウェイを下りた。アリゾナ州まで315kmのこの地はDesert Centerと呼ばれ、西から来ても東から来ても次のタウンまで一息つきたくなる地点だ。7,8年前、アリゾナ州からロサンゼルスに戻る道中、この地に立ち寄り給油をしたことがあった。その日は祭日だったこともあり、古いガソリンスタンドのトイレには行列ができ、ガソリン価格はかなりのオーバーチャージだった。この朝フリーウェイを下りてみると、そのガソリンスタンドは閉まっていた。私は、かつて南太平洋鉄道とカイザースチール社が所有し、現在は廃坑となっている鉄鉱山の入り口付近に位置し、タウン全体が廃虚となっているイーグルマウンテンへ向かった。

イーグルマウンテンへ向かう途中、同じような家が建ち並ぶ廃虚があった。小雨降る中、置き去りにされた昔のテレビが目を引いた。

廃虚化したガレージに1台の車が停まっていた。

この先はフェンスに閉ざされて、タウン全体が廃虚になっているイーグルマウンテンには近寄れなかった。

線路の先は霧で霞み、レールは濡れていた。レンズを向けた瞬間からモノクロームにしようと思った光景だった。

塗装が剥げ落ちた踏切脇に立つサインの錆は、霧の背景によく目立っていた。

ジョシュアツリー国立公園南東に位置し、タウン全体が廃虚となっているイーグルマウンテンに入れなかった私は、フリーウェイを下りたDesert Centerに戻った。コロラド砂漠の標高200mのこの地は、普段少し動いただけで汗ばみ喉が乾くのだが、この日は強い陽射しもなく小雨まじりで湿気もあり、持参した水もなかなか減らない。周囲の山々は霞んでよく見えず、廃墟化したタウンは時間が止まり、意識も霞んできそうだった。

朽ちた家の周囲は家財道具が散乱し、荒れ果てている。

朽ちた家の窓からの風景をぼんやりと見る。

物が散乱している朽ちた家の中を窓の外から撮影。

パームツリーがお化けのように見え、とても不思議な場所だった。

落書きされた朽ちた家。

焼け焦げた家の跡。

カイザースチール社が所有した列車はメモリアルの為に置かれているようだが、無造作に放置されているように見えた。

1915年、東からロサンゼルスに向かうステファン・ラグズデールの車は、この近くで故障した。幸いこの地に住んでいた探鉱者に助けられ、ロサンゼルスに到達できたラグズデールは、帰り道、探鉱者から土地を買い、家族とこの地に移り住んだ。車の修理小屋を建て、ドラム缶から手でガソリンを汲み、人々に提供したのがDesert Centerのはじまりのようだ。今日、ステファン・ラグズデールに因んでいると思われるフリーウェイ10号線と並行しているラグズデール・ロード沿いには、朽ちかけた建物を見かけ、ゴーストタウンと言ってもいい状態だ。

ラグズデールは、立ち寄る人々をもてなすためにプールを作ったようだが、これはそのプール跡なのだろうか。

2台のトラックはいつまで動いていたのだろうか。

このタウンのサインが地面に置き去りにされていた。

塗装の剥げ具合がいい感じだった給油機。よく見るとトランプ大統領の名をここにも見かけたが、アメリカはどうなるのだろうか。

焼け焦げて並べられたパームツリー。その向こうはトラックがハイウェイ10を走り抜けて行く。置き去りにされたものと走り続けるものが共存している。

大きな水溜りは普段乾燥している土地にはあまり見ないので、私の目には新鮮だった。水溜りに映り込むストップサインにフォーカスした。

壊れて文字のない看板。彩度を落として寂れた感じを強調。

廃車になった車が沢山置かれていた敷地には人影はなく、遠くの山は霞んで、今にも雨が降り出しそうな雰囲気になってきた。

タウンで一番大きな建物だと思われる室内を覗くと、壊れたテーブルと椅子が散乱し、天井が落ちてきそうだった。

今にも雨が降り出しそうになったので、私はDesert Centerを去ることにした。フリーウェイ10号線に乗って西へ向かい走りはじめると、霧の中に忘れ去られたように建つ給油ポンプのないガソリンスタンドが右手に見えた。すぐにフリーウェイを下ると、近づけなかったイーグルマウンテンへ向かう道に出た。ガソリンスタンド跡へは、フリーウェイと並行しているラグズデール・ロードを東へ戻った。

イーグルマウンテン・ロードは霧に包まれ先が見えず幻想的だった。砂漠地帯の昼間とは思えない光景を、超望遠レンズで切りとった。

フリーウェイに並行しているラグズデール・ロードを東へ戻ると、水がない乾いたクリークを渡った。普段乾いた空気にさらされている橋（Tex Wash Bridge）の木製ガードは、湿気をたくさん吸い込んでいるように見えた。

給油ポンプが撤去されても目を引くガソリンスタンド跡は、屋根とサインに独自の存在感がある。

朽ちた建物がラグズデール・ロード沿いに残っていた。その中でポストオフィスが唯一機能している建物だった。ゴーストタウンに見えたこの砂漠のストップ周辺にも住人がいるのだ。ガソリンスタンドが再びオープンしたら周辺の住人も助かるし、トイレ休憩に立ち寄る旅人の行列がまたできるかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。