第159回:Living Ghost Townを訪ねる
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第159回:Living Ghost Townを訪ねる

暑い夏の日、オフロードカーが小さなタウンを走り過ぎてゆく。鉱山跡がしっかりと残り、朽ちた家を目にするカリフォルニア州カーン郡のランズバーグ(Randsburg)は、生きたゴーストタウンだ。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm

シエラネバダ山脈東の山麓へ行く際に何度か通り過ぎ、生きたゴーストタウンと呼ばれ、一度立ち寄ってみたいと思っていたランズバーグとういう小さなタウンへ向かった。モハビから50㎞北上し、レッドロック・ランズバーグ・ロードを北東へ20㎞走る。道は右と左に別れ、以前はこの分岐点から左へ行ったことはあったが、この日は右のレッドロック・ランズバーグ・ロードへ進んだ。初めて走る道には緊張感と期待感があり、見慣れているはずの砂漠地帯も新鮮に見えてくる。道はゆるやかに上って行き、岩が転がる山と、干上がったクリークの間を走って行くと人家が現れはじめる。ランズバーグのダウンタウンに到着し、600mほどのメインストリートの終わりまでゆっくりと走り、白い教会の側に車を停めた。教会の前には道を挟んで小さな鉱山跡が残リ、その周辺には人家と朽ちて誰もいない家が混ざり合い、乾いた土の上に建っている。

large
thumbnail-02

レッドロック・ランズバーグ・ロード。真っ直ぐ伸びてうねっていた区間を走るのは、大地と一体となったような気がして実に爽快だった。

使用機材:SIGMA dp3 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:8.97MB

large
thumbnail-03

干上がったクリークは、オフロードカー好きな人を惹きつけるワイルドな環境だ。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:11.01MB

large
thumbnail-04

真っ青な空の下、白い教会が目を引く。克明に写しだされた十字架の質感は、眩しすぎて肉眼では認識できなかった。山の斜面にはRandsburgの頭文字R が描かれているが、地図ではとなりの集落ジョハネスバーグに含まれるように見える。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:11.63MB

large
thumbnail-05

教会前の小さな鉱山跡に上がリ、タウンを見下ろす。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:10.23MB

large
thumbnail-06

鉱山跡には塗装が落ちて錆びた古いピックアップトラックが放置され、トラックの錆の色と乾燥した土地の色が自然に溶け込んでいた。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:18.49MB

large
thumbnail-07

紫色のサボテン後方の家は窓枠もしっかりとしていて、人が住んでいるのがすぐ分かる家だった。

使用機材:SIGMA dp3 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:9.57MB

large
thumbnail-08

朽ちた家の中で見かけた小さな鍵に大きな存在感を感じた。

使用機材:SIGMA dp3 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3616 × 5424
ファイルサイズ:8.08MB

タウンに立つ看板によると「1895年に金がランド・マウンテンの斜面で発見され、タウンは一夜にして頭角を現し、1899年までに人口は3,500人に達した。100台のスタンプミルが設置され、全盛期には年$60,000,000以上に値する金が採掘された。」とある。夏は摂氏40℃を超える日が多く、冬は摂氏−12℃まで下がる日もあるこの地はランド・ディストリクトと呼ばれ、南アフリカの鉱山地区のランド・ディストリクトに因んでいる。標高1,086mのタウンの外れに大きな鉱山跡が残っていたので、 額から落ちる汗を拭き取りながら山の斜面を上りタウンを見下ろした。地図で見ると正確には隣のタウンであるジョハネスバーグに属するようだ。このタウンも南アフリカのヨハネスバーグに因み、さらに東のレッド・マウンテンと共に鉱山の成長で栄え、ランズバーグと同じように今は生きているゴーストタウンだ。

large
thumbnail-09

鉱山跡に上りランズバーグを見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:23.59MB

large
thumbnail-10

鉱山跡を散策し、小さな線路を見つけた。内蔵ストロボを発光し影になった小屋の文字を起こす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 × 4704
ファイルサイズ:17.35MB

夏場以外の週末にはそれなりの訪問客があるようだが、この日は夏のウィークデイで訪問客はまばらだった。メインストリートを2台のオフロードカーが走り過ぎたのが大きな出会いで、ダウンタウンを少し歩いても会話をする相手は見つからなかった。国税調査によるとランズバーグの2010年度の人口は69人となっている。タウンには週末だけオープンする店、小さなホテル、アンティークショップを見かけるが、それらを経営する人以外の住人は何をしている人たちだろうか。

large
thumbnail-11

生きているゴーストタウンの暑い夏。訪問客は少ない。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:20.04MB

large
thumbnail-12

撮影が行われていない映画のセットのように見えた店。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:19.05MB

large
thumbnail-13

資料では最初のポストオフィスは1896年に建てられた。この建物はそのオリジナルなのか分からなかったが、いい感じに褪せている。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3616 × 5424
ファイルサイズ:15.65MB

large
thumbnail-14

この日閉まっていたレストラン前。開いていたら冷たいビールが飲みたくなる場所だ。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:15.33MB

ランズバーグを出るとエアコンを最大に効かせ、ハイウエイ395号をオランチャまで一気に110㎞北上した。そこからデスバレーに向かう以外に走ったことはなかった州道190号を北東へ23㎞走り、突き当たりに出た。右へ行くとデスバレーの中心地であるファーナス・クリークまで86マイル(138㎞)、左へ行くとハイウエイ395号線沿いの町ローンパインまで19マイル(30㎞)と書かれた標識が立っている。その後にはインヨ・マウンテンズが控え、ハイウエイから逸れたリモートエリアに入り込んだと感じた。

large
thumbnail-15

デスバレーに向かう南へ行く道と、ハイウエイ395号に戻る北へ行く道が別れるT字路付近は砂漠だが、かつてはオーエンズ湖の南東岸で水がすぐ際まであったはずだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:8mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:22.09MB

私は左折して初めて走る州道136号を北上し、キーラー(Keeler)という生きたゴーストタウンに立ち寄った。1913年、ロサンゼルス水道電力局(LADWP)によって、オーエンズ川からロサンゼルス市へ水が引かれはじめ、1920代中頃にはオーエンズ湖は干上がった。今のタウンに水辺の涼しげな光景は見られず、乾いた湖底からアルカリを含んだ砂風が吹きぬける。 キーラーは、東の山に位置するセロ・ゴード鉱山で栄え、タウンにあった銀鉱石の精錬所のエイジェントであった(Julius M. Keeler)に因んでキーラーと呼ばれた。長さ91mの波止場があり、蒸気船が対岸のタウン、カルタゴまで鉱石を3時間で運んだ。1883年に線路(The Carson and Colorado Railroad)が敷かれ、ブームは銀が暴落する19世紀の終わりまで続いた。20世紀に入ると亜鉛が発見され2度目のブームが起こった。セロ・ゴード鉱山とタウンの間に線路が敷かれ、銀、鉛、亜鉛、石灰石の採掘は活気があったが、1950年代に閉山しキーラーも寂れた。

large
thumbnail-16

駅だった建物がタウンにまだ建っている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:13.24MB

large
thumbnail-17

牧場はないが、馬を飼っている人が住んでいる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:59mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:22.32MB

large
thumbnail-18

鉱山のタウンとしてのブームが去った後、短い期間だったがリゾート地として人が訪れたこともあった。砂で埋め尽くされつつあるプールは、劇的なタウンの変化を物語る。

使用機材:SIGMA dp0 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:14mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:18.29MB

large
thumbnail-19

干上がった湖底から砂が飛んできているのだろうか。プールは砂場と化している。

使用機材:SIGMA dp3 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:23.77MB

large
thumbnail-20

干上がっていても湿り気がある所には草が生えていたが、かつて蒸気船が行き来していた湖だったとは信じ難い。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616
ファイルサイズ:19.90MB

large
thumbnail-21

強い陽射しに犬も日陰に隠れるキーラー。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:7.22MB

large
thumbnail-22

人口50人と書かれていたが、鉱山で栄えた時代は0が二つ多い数の人が周辺に住んでいたようだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:7.36MB

オーエンズ川からロサンゼルス市に水を供給する以前のオーエンズ湖は、長さ19㎞、幅13㎞、面積280 平方キロメートル、この数百年間の平均水深は7mから15.2mだった。1万2千年前はさらに大きく、今日いくつか存在する乾燥湖と繋がり合い、大きな範囲で水が覆っていたと考えられている。タウンから少し北に、干上がったオーエンズ湖に向かうダート道があったので走ってみた。野生動物の保護地区になっている湿地帯のスプリンクラーから水がまかれ、さらに奥へ進むと、土手が積まれて仕切られている区間に水面を見たが、触りたくなる水ではなかった。

large
thumbnail-23

大きな筒が上がって水が湧き出だした。かつてはシエラネバダ山脈が映り込んでいたに違いない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:28mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:25.61MB

キーラーを後にした私は160㎞北上し、クローリー湖(Lake Crowley)の西岸に到達した。クローリー湖は、1941年にロサンゼルス水道電力局が洪水調節のため、ロング・バレー・ダムを建設しオーエンズ川をせき止めてできた貯水湖だ。私はオーエンズ湖にはなかった青い湖面をハイウェイからしばらく眺め、西のシエラネバダ山脈の麓に少し入った。

large
thumbnail-24

標高2,067mにあるクローリー湖は、青くてきれいな水に満たされ、マス釣りが盛んだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:14.05MB

large
thumbnail-25

斜面に雪が残るシエラネバダ山脈。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:50mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136
ファイルサイズ:14.05MB

2箇所の生きているゴーストタウンに立ち寄った私は、シエラネバダ山脈の麓で日没を迎えた。日が落ちた山麓は気温が急激に下がり、暑さから解放された。ジャケットを着こみ、壮大な山々を見上げると、ゴーストタウンを訪れたのが遠い昔のように思えてきた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top