押本龍一－私の出会う光景－第116回：ホーンテッド・ヘイライドに占領された動物園跡

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

古い動物園跡に来ると、秋の風物詩であるハロウィンのカボチャが積み上げてあった。カボチャはプラスチック製で、背後には小さな電球がぶら下がっている。グリフィス・パーク動物園跡は、日本で言うとお化け屋敷のようなホーンテッド・ヘイライド（Haunted Hayride）と呼ばれる秋のイベント会場となっていた。

10月のはじめ、サンタモニカ山脈東端に位置しているロサンゼル市のグリフィス・パーク（Griffith Park）内にある動物園跡へ向った。古い動物園跡の入口付近に到着すると、ホーンテッド・ヘイライドの会場になっていたので、私は裏手の丘のほうへ歩いて行くことにした。この日はとても暑く、愛犬のシロを連れて来たことを少し後悔しながらトレイルになっているダート道を上った。フェンスが張り巡らされた所まで上ると、周辺の地形から動物園跡に近づいたと何となくわかり、そこから少し先には動物園跡に入ったと確信させる鉄格子の檻があった。檻の周辺は木陰になっていて、私はシロと陽射しを避けて15分ほどそこに留まった。

地図上で「Fire road」と記されている幅が広く車も通れるダート道は、動物園跡へ続いている。しばらく雨が降っていない乾燥したダート道は、モノクロームで描写するのがしっくりきた。

どんな動物が飼われていたのか説明されていない檻は、ドアが開き木陰の下で暗かった。彩度を下げるとあまり色のない周囲がさらにおとなしくなり、鉄格子の檻の存在感が強まった。

木陰になった檻の中を起こすためストロボ（EF-610 DG SUPER）を発光させる用意をしていると、愛犬が檻の中に入ったので慌ててシャッターを押した。

動物園跡を歩くトレイルからエンジェルス国立森林公園を背景にしたグレンデール（ Glendale）市が見える。

飼育員が上り下りした落書きされた階段。階段の下の先は大きなステージのようになっていたので、比較的大きな動物が飼われていたと思われる。

動物園跡に入った辺りは丘の上で、そこから下り歩いて行くとホーンテッド・ヘイライドに占領されているエリアに入った。夜には様々なお化けが出て盛り上がるイベント会場には、私以外にも自由に歩き回る人がいた。警備員らしき男性が会場の入口付近にいたが、時々会場に入って来る人を止めることはなかった。仕掛けも動かずお化けもいないイベント会場の舞台裏は、何か不思議な空間だった。

動物園跡はここからホーンテッド・ヘイライドのイベント会場となっていたが、立ち入り禁止ではなかった。ハロウィンの季節にはセピア色がよく似合う。

子供なら昼間でも怖そうなギロチン。

イベント用に作られた小屋の白いドアに強い陽射しが差し込み、木の質感を描写する。

小屋の内部は、夜はライトが当たり全く違った顔に見えるはずで、ショーの舞台裏を見ているように感じた。

小さなプールに溜められた赤い水は夜になると光るようだ。生きているのか死んでいるのかわからない蛾や蜂が枯葉と水面に浮んでいる光景は、怖い人形よりも印象的だった。

夜になると何かの操作をする係員が座る椅子がぽつんとコンクリートの上に置いてあった。ここもかつて動物が飼われていた場所なのだろうか。

戦争で負傷した兵士のお化けが出るであろう戦場のセットの下を通る。

夜にライトが当たると子供が怖がりそうだが、昼間見るとコメディアンの顔にも見える。

グリフィス・パーク動物園は1912年に開園した。開園当時は動物の数は15と少なく、後にハリウッドの映画プロデューサーが撮影スタジオから多くの動物を寄付し、プロデューサーは動物のテーマパークをつくりたかったようだ。大部分の檻は1930年代に入ってからつくられ、動物園の入場者数は年間200万人になったが、ロサンゼルス市の発展と共に動物園の施設環境に批判が高まり、1966年に閉園し、その年に同じ公園内にある現在のロサンゼルス動物園が開園した。私は大きなロサンゼルス動物園には何度か行ったことがあり、動物園が大きくなっていった当時の様子を想像しながらイベント会場となった動物園跡を歩いた。

普段ピクニックエリアとなっている場所は、墓場になっていた。

この人形たちの顔も夜は違って見えるのだろう。大口径中望遠マクロレンズで撮影した画像には、人形の目のディテールが克明に写し出されている。

夜はここからもお化けが出るようだが、イベント用につくられたトウモロコシ畑は、昼間見ても本物の畑に見える。

ここを通って入場するのだろか。「Hayride」の「Hay」は干し草の意味で、干し草がたくさん置かれていた。

メリーゴーランドも馬の骸骨。白くペイントされたメリーゴーランドは強い陽射しを受けていた。コントラストの強い光と影の光景をモノクロームにした。

ホーンテッド・ヘイライドに占領された動物園跡は、結局入口まで戻ることができた。

昔、グリフィス・パーク動物園という古い動物園が存在し、ハイキングやピクニックに来た人々が、今でも残されている檻の中に自由に入れることをつい最近まで知らなかった。この日、ひっそりと存在する古い動物園跡で、かつて飼われていた動物をイメージしながら静かに歩く自分を予想してやって来た。しかし、ほとんどの敷地はホーンテッド・ヘイライドに占領され,通常の状態での動物園跡は見られず、この季節ならではの派手なイベントショーの舞台裏を見ることになった。元々集められた動物たちは、映画業界の発展に伴うものだったので、ハリウッドを控えた土地らしい光景に出会ったのだと思う。次回来る時は、ハロウィンシーズンの仕掛けがない静かな動物園跡をじっくりと見て回りたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。