第98回:冬の能登半島(後編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第98回:冬の能登半島(後編)

12月の終わり、石川県北部の輪島市中心街から、日本海に面した能登半島の海岸線を11kmほど南西へ走り小さな漁港に出る。間垣(まがき)と呼ばれるニガ竹でつくられた垣根が、冷たい海風から守る漁村に年の瀬の慌しさはなく動きもほとんどない。使いに出た老婆の後姿に唯一動きを感じた光景に、私は大口径超望遠ズームレンズを向けた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:150 mm

能登半島東岸の富山湾沿いを北上し、半島先端である金剛崎まで足を伸ばした。日本三大パワースポットのひとつで「聖域の岬」と呼ばれる半島先端からは、日本海に面している半島西岸を走り、半島北部(奥能登)の中核である輪島に向った。輪島市と珠洲市の境界まで来ると、暗くて何も見えない海岸線にいきなりライトアップされた白い滝が現れる。滝に近づくと、高波が打ち寄せる海岸に滝が流れ落ちていて、滝からの水しぶきと波しぶきで着ていたジャケットはすぐに濡れた。内浦と呼ばれる能登半島東岸の富山湾側に比べ、外浦と呼ばれる半島北岸および西岸の日本海側は波が荒いと言われるが、全くその通りだった。

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落差35mの垂水の滝(たるみのたき)が、ライトアップされていた。山から海へ流れ落ちているが、冬は海風によって水が吹き上げられ、「吹き上げの滝」とも呼ばれる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:4秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.75 MB

輪島市の中心街から少し外れたペンションで早朝目を醒ますと、まだ暗い外は霙が降っていた。少し明るくなり霙が止んだ後、私は黒瓦の屋根の家が建ち並ぶ狭い道を通り抜けて海岸に向った。海岸線を北に行き短いトンネルを潜り、日本海に突き出した鴨ヶ浦 (かもがうら)に出る。大小様々な岩に高波が押し寄せる鴨ヶ浦からは朝陽に向って輪島港に向かう。室町時代末に成立した日本最古の海洋法規集である「廻船式目」に、日本の十大港湾「三津七湊」のひとつとして記されている港は、風もなく海面も穏やかだった。高波が激しく打ち寄せる鴨ヶ浦から輪島港まではわずかな距離だが、別世界に来たように感じる。鴨ヶ浦と輪島港の間に、輪島前神社の末社である二つの小宮、「弁天社」と「金比羅社」が並んで鎮座している。二つの小宮付近を境に風はなくなり気温も上がったが、目に見えない壁でもあるのだろうか。

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朝陽を受けた空が、赤みを帯びてきた鴨ヶ浦。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.75 MB

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数人の男たちが、高波が打ち寄せる鴨ヶ浦から日本海を眺めていたが、何をしているのか分らなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:88 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.77 MB

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波の強い日に発生する冬の能登の風物詩である「波の花」が舞う。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:22 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.88 MB

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昔北前船が給水に使ったと言われる神泉と呼ばれた弁天池が側に湧き出し、二つの小宮は船問屋の守護神として祀られている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.64 MB

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通過が困難な能登半島沖で、寄港地・避難港として栄えてきた輪島港。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:18.50 MB

輪島港からペンションに戻りチェックアウトを済ませると、輪島の街を少し散策した。

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リヤカーを牽いて魚を売る女性が、雪を払いのけてさばくのはキンメダイだろうか。包丁を握る左手の甲は赤くひび割れている。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.73 MB

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冷え込んだ朝市の入口付近を車内から撮影。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:82 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.61 MB

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水分を多く含んだ雪は、気温が上がるとすぐに溶け出す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:127 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:8.72 MB

輪島市の中心街からは、日本海に面した能登半島西岸に出て県道38号線を走る。空は雲に覆われていたが、時より雲の切れ目から陽が差し、押し寄せる波は高く、ドラマチックな光景が広がっていた。眼下に日本海が広がる見晴らしのいい場所に来ると、入り江に小さな港が見えたので県道から逸れて港まで下りてみた。

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雲の切れ目から陽が差した眺めのいい場所の左下に漁村があった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:25 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:24.63 MB

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日本海に面した鵜入町「うにゅうまち」。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.58 MB

県道38号線に戻り、入り江にある鵜入町を見下ろしながら半島西岸を南下する。海岸線の県道は道幅がとても狭い区間がありドライブはスリリングで、海岸線から離れると森が広がり県道は林道となる区間もあり、道幅が狭く民家が道すれすれに建つ集落を通り抜け、再び日本海を見下ろす海岸線に出る。ニガ竹でつくられた間垣が囲む大沢町手前で、私は県道から逸れて山の中に入って行き、観光情報に「岩場にあいた丸い穴の中から水が流れ落ちている珍しい滝」と紹介されている桶滝(おけたき)に立ち寄った。誰も来ない田舎道に車を停めて深い森の中を歩いて行くと滝が現れる。滝の手前の少し高くなった所に滝に向って建てられた小さな祠があり、滝周辺は神秘的な雰囲気が漂っていた。

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黒い瓦屋根の大沢町と日本海。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.91 MB

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桶滝川の50mの間に3段になって流れる名勝「桶滝」は、深い森の中にある。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.4秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.33 MB

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桶滝に向って建つ祠。水の神様が祀られているのだろうか。石段は苔が生え、近寄り難い雰囲気だった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.35 MB

桶滝から大沢町に来ると霙が降りはじめた。大沢町から3㎞ほど南下した上大沢町を通り過ぎると、海から離れしばらく内陸部を南へ走り、霙は雪に変わった。

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間垣に囲まれた上大沢町。鎮座する神社まで行きたかったが、よそ者の私は、狭い漁村内の道を歩くことはしなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.50 MB

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日本海に面した民家前で、私の側に近寄って来た犬。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.69 MB

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雪景色となった海岸から少し離れた輪島市の農村地帯。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:82 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:22.42 MB

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雪を被った茅葺き屋根が、黒い瓦屋根の中で目立つ。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.47 MB

県道38号線は広い国道249号線に突き当たり、国道を南西に行く。海岸線に出て内陸部に入ることを繰り返すと陽は傾き、気温は急激に下がった。国道から県道36号線に入り奇岩と断崖が連続する海岸で、この日は強風が吹き荒れていた能登金剛の一部に立ち寄り、陽が暮れた能登半島を後にした。

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この日、高波を恐れない釣人を数人見たが、この後出会った釣り人は、何度か岩から落ち命拾いをしたと言っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:102 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.70 MB

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能登金剛を代表する巌門(がんもん)。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.59 MB

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雲が太陽を隠してしまった巌門から少し南の海岸。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:14 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.62 MB

能登半島に来る前夜から、日本海側は広範囲に渡り雪の予報が出ていたので一度は旅を止めようかと考えたが、結果的に雨、霙、雪、青空と多くの天候を体験し、ドラマチックな光景に出会うことができた。「聖域の岬」と呼ばれる半島先端にも立ち寄ったが、私には能登半島のほとんどが聖域に感じられた。今回は寒い半島の一部を見ただけだったが、温暖な季節に能登の奥深くまで旅をしてみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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