第94回:シャスタ山周辺の晩秋(前編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第93回:ビッグ・ベア・レイク(Big Bear Lake)北部の秋

シャスタ山南西の湖で偶然出会った女性に連れられて登った小山には、地面を這うように1本の松の木が生え、枝の中にはテントが張られていた。龍に見える松が気に入ったからここでキャンプをするという女性は、松の木に腰を降ろし陽の光を浴びはじめた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:18 mm

今年の夏、照りつける強烈な陽射しに冷房を最大に効かして走ったフリーウェイ。この朝は暖房を入れ、北カリフォルニアに位置するシャスタ山(Mount Shasta)に向け、広大なセントラル・ヴァレーを北上した。

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鳥の大群が飛び交うセントラル・ヴァレーの大きな農場。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:373 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.40 MB

フリーウェイ(I-5)は少しずつ上って行き、シャスタ湖を超えて50 kmほど北上した国立森林公園の向こうにシャスタ山が現れる。今年の夏に訪れたときより山頂付近の雪は多いが、山肌はよく見え、雪に覆われる冬にはまだ時間があるようだ。シャスタ・シティーに到着すると、もう見られないと諦めていた紅葉した木々が夕方の光に美しく輝いている。エバリット・メモリアル・ハイウェイ(Everitt Memorial Hwy)を上り、標高約2,120 mのバーニー・フラット(Bunny Flat)まで来ると道は通行止めになっていた。冬場は道が閉鎖されることは知っていたが、まだ雪も積もっていないこの時期にこの先へ行けないのは予想外だった。冬時間になって間もないこの日、太陽は見る見るうちに沈んでゆき、日が暮れるまで山にかかった雲が切れることはなく、夕陽に染まる山頂をはっきりと見ることは出来なかった。

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ハイウェイ横に設けられたビュー・ポイントに車を停め、シャスタ山にレンズを向ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.82 MB

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紅葉した木に惹かれ、街の外れにあるハイスクールの前に停まる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:29 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.98 MB

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標高約2,120 mのバーニー・フラットは、標高4,317 mのシャスタ山の5合目ぐらいだろうか。ここから山頂を目指すルートが最も一般的なようだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.78 MB

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山頂にかかった雲はその形もあまり変えず、同じ場所に居座っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.95 MB

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大口径望遠レンズを山頂付近に向け、ファインダー越しにしばらく眺めてからシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:269 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.82 MB

陽が沈むと山は急激に冷え込んできた。この夜、シャスタ・シティーから北に位置するウィード(Weed)という小さな町にあるモーテルに宿泊した。夏にも宿泊したモーテルの宿泊客は少なく(夏はほぼ満室だった)物音がほとんどしない。物腰がやわらく丁寧なフロントの女性からプラスチックの鍵を受け取り、部屋に入るとすぐにシャワーを浴び、ワインを少し飲むと気分良くすぐに眠りについた。翌朝4時過ぎにモーテルを出てバーニー・フラットまで上ったが、山全体に雲がかかり、霧雨も降り朝陽は見られなかった。モーテルに引き返してコーヒーを飲んだ後、シャスタ山南東に位置するキャッスル・レイク(Castle Lake)へ向う。車の少ないフリーウェイを下りて少し行くと、ほとんどの車が完全には停まらないと思う田舎道のストップ・サインで、草むらに隠れていた警官にチケットを切られる。大柄な若い警官は私にチケットを手渡すと、「安全な旅をして下さい!」と少し申し訳なそうな顔をして言い、私は「はい分りました。ありがとう」と返した。レイク・シスキュー(Lake Siskyou)の東岸から南岸沿いをゆっくりと走り山道を上って行くが、湖が一向に見えて来ない。道があまりにも狭くなってきたので、道を間違えていることに気付く。数年前の冬、氷が張ったその上に雪が積もり、大声を出して遊ぶ家族連れを何組も見かけたが、ようやくたどり着いたこの日のキャッスル・レイク駐車場には、1台の車も停まっていなかった。

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透き通るように澄んでいるキャッスル・レイク。湖畔に人影はない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/20秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.03 MB

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雲の合間からわずかに漏れた太陽の光が強く反射するキャッスル・レイク。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.54 MB

静かな湖畔を散策し駐車場に戻るとひとりの若い女性がどこからともなく歩いて来た。その力強い歩きに山好きの地元の人だと思い、「この近くにハートの形をした湖があるらしいのですが、どこかにあるか知ってますか?」と女性に尋ねた。「ハート・レイクですね、今から行きますよ。実は、湖の少し先を登った所で今日から3日間キャンプをするんです。テントはもう張ってあります。景色がすばらしく、あなたもきっと気に入ると思いますよ。私について来ませんか?」と女性は言う。「登るのは遅いですが、あなたについて行きます」と迷わず返事をした。シャスタが好きで数ヶ月前から滞在し、冬には自宅があるアトランタに戻るという女性の体力は、登り始めるとすぐに私より上だと思った。池のように小さなハート・レイクに到着すると「少し上で待っているから気にせず湖畔で休んで下さい」と言って、後で取りに来るという1ガロンの水をハート・レイクに残し、女性は道のない岩のゴロゴロする斜面を登りはじめた。

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この時期、水位は低くなっているという小さなハート・レイク。この日は特別な湖には見えなかったが、天気がいい日はシャスタ山も映り込む。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:9 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.81 MB

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水面に薄い氷が浮いていたハート・レイク。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:28 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.71 MB

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ハート・レイクの少し上の岩場から湖面標高1,660 mの氷河湖キャッスル・レイクを見下ろす。澄んだ空気に響いたシャッター音は、風景を捉えた満足感を与えてくれる。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.84 MB

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低木の中は歩き難く岩場を登る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.80 MB

ハート・レイクに長居はせず、女性の後を追ってゴロゴロした岩の上を手と足を使い登って行く。気がつくと360度の景色が見渡せる平らな場所に出ていた。そこは岩場のテラスといった感じで、南に見える大きな岩山のキャッスル・クラッグス(Castle Crags)と北のキャッスル・レイクの間に位置することからキャッスル・ピークと呼ばれるているようだ。北東には雲がかかったシャスタ山が近くに見え、澄んだ風が気持ちよく通り抜けている。「あなたのテントはどこですか?」と訊くと、女性は30mほど下った所に生える松の木を指差して「龍に見えるでしょう?その向こうの岩山はシャスタ山より古く、沈んだレムリア大陸の一部と言われているのよ」と笑顔を浮かべて言った。龍のように見える松は地面を這うようにして生え、枝の中に小さなテントが張られている。女性独りでここまで登って来るだけでもすごいが、熊もよく出るという山奥で3日間もキャンプする勇気にただ感心した。キャッスル・ピークからは、登って来たルートより楽だと女性が教えてくれた尾根を歩いてキャスル・レイクまで下った。

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キャッスル・ピークとシャスタ山の間は雲海に覆われていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:200 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.13 MB

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「神聖な土地に誰にも邪魔されないで独りで過せるのは幸せ!」という女性の向こうに見える岩山は、キャッスル・クラッグス。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.15 MB

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上から見下ろすと確かにハートの形をしているハート・レイク。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:22.32 MB

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キャッスル・ピークから木の枝の下を潜り歩きづらい尾根を下り歩く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.94 MB

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低木が這うように生息する尾根を歩く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:70 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.14 MB

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キャスル・レイクに戻ると午後の光で湖畔が明るくなっていた。キャンバスに描かれた絵のように見える湖面を大口径望遠ズームレンズで切りとる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:104 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.30 MB

キャスル・レイクから車でゆっくりとレイク・シスキュー(Lake Siskyou)まで安全運転で戻ると、湖畔は夕方の空気に包まれていた。

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シャスタ山には様々の形をした雲が現れ、時を忘れてしばらく眺める。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.44 MB

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期待していなかったレイク・シスキューの紅葉が目に入り、湖畔に立ち寄る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:12 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.92 MB

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黄葉した美しい木を見上げシャスタの晩秋を感じながら、大口径中望遠マクロレンズで1枚の葉にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:105 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.86 MB

夕方の光が暖かいレイク・シスキューの湖畔から、この朝、警官からチケットを切られた場所を通り過ぎて町に向った。警官に停められていなければ、キャスル・レイクで女性に出会うこともなく、キャッスル・ピークへ登ることもなかった。そう思うと切られたチケットにも多少は感謝の気持ちも沸いてきた。後編に続く

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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