第93回:ビッグ・ベア・レイク(Big Bear Lake)北部の秋
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第93回:ビッグ・ベア・レイク(Big Bear Lake)北部の秋

ロサンゼルスのダウンタウンから東へ約160km、サンバーナディーノ山脈(San Bernardino Mountains)にあるビッグ・ベア・レイク北岸には、紅葉した大きなコトンウッドが立ち並び、太い枝と幹の間に若い女性が腰をかけている。私は湖水に浮かんだスチール製のデッキに立ち、釣り人が歩く揺れも気にせず、秋の光景に大口径望遠ズームレンズを向けた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:220 mm

ロサンゼルスから東へ走り、サンバーナディーノ国立森林公園へ入って行く州道を北上する。カーブが続く坂道を下りて来る車は意外に多く、朝陽がまぶしい山道を慎重に上った。朝晩はめっきり涼しくなり、道端に咲く花がほとんどない道は、いくつものカーブを超えて東へ向いサンバーナディーノ山脈を上って行く。西のレイク・アロウヘッド(Lake Arrowhead)と東のビッグ・ベア・レイクへ行く道の分岐点である標高1,862mの集落(Running Springs)まで上ると、道沿いに紅葉した木が数本立っている。

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もうすぐ散りそうな小さなサンフラワー。大口径中望遠マクロレンズを持ち、蜂がとまる花にフォーカスする。彩度を落とし秋の空気を表現。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:105 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.70 MB

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ブラック・オークが紅葉する山の向こうに、水色のビッグ・ベア・レイクが小さく見える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.60 MB

東西約11kmに渡り細長い形をしたビッグ・ベア・レイクの西端には、湖をせき止めているダムがあり、北岸と南岸に行く分岐点になっている。私は町がある南岸へは行かず、北岸沿いをゆっくりと走った。連邦政府の予算問題のためか、湖岸のレクリエーション施設は閉まっていたが、太陽の反射がまぶしい湖面にはボートが浮かび、釣り人の姿を湖岸の所々に見かけた。

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紅葉した葉がゆらゆらと揺れる湖岸から、まぶしい湖面に浮くボートにレンズを向ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:287 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.46 MB

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標高2,060mの湖岸を歩き、紅葉しているアスペンの影からビッグ・ベア・レイクを見る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:19.23 MB

前日確認した時点で、ウェブサイト上に「連邦政府予算失効のためしばらく休館」と書かれていたディスカバリー・センターに立ち寄ると、休館だったはずのセンターのドアは開き、館内ではレンジャーが水を得た魚のように朗らかに訪問客に応対している。先住民族の血を引くように思われる50代中ごろの女性レンジャーが、「何か具体的な興味がこの周辺にありますか?」と挨拶代わりに訊いてくる。「金が発見されたホルコム・ヴァレー(Holcomb Valley)に行きたいのです」と答えると、ゴールド・フィーバー・トレイル(Gold Fever Trail)と題され、歴史的な背景と地図が書かれた1枚の案内書を差し出し、「3時間は見ておいて下さいね、楽しんで!」とレンジャーは微笑んで言った。私は折りたたまれた案内書を助手席に広げ、セルフガイドツアーに向けて湖岸から北の山道(Polique Canyon Rd)を上りはじめた。

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案内書に記された最初のストップ・ポイントであるホルコム・ビュー・トレイルは、メキシコ国境からカナダ国境までアメリカ西海岸を南北に縦走するパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)と重複している。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.07 MB

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葉が黄色くなったオークツリ-に、ハルコム・ビュー・トレイルを歩く楽しさも増す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:28.14 MB

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紅葉する木が少ない森に、ひときわ目を引くオークツリ-の葉。大口径標準レンズで赤みが増した葉にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.15 MB

インディアナ生まれでアイオワから歩いてカリフォルニアまでやって来たウイリアム・ホルコム(William F. Holcomb)が、1860年に金を発見したホルコム・ヴァレーに足を踏み入れる。ヴァレーには、かつて1,500人が暮らしていた。金を求め無法者も集まり、金の発見から2年間に少なくとも50の殺人があった。長い間、法と正義の象徴とされ、裁きのための縛り首に使われたとされるジュニパーツリーが、セルフガイドツアーのストップ・ポイントに立っている。実際に首が吊られた木は、ホルコム・ヴァレーの集落跡に建つキャビンから30m東にある切り株であると案内書には書かれ、他の資料には、ジュニパーツリーにも数人の首が吊るされたと書かれている。本当の木(Hangman's tree)がどこにあるのかよくわからなかったが、ホルコム・ヴァレーで殺人と縛り首が繰り返されことは事実なようだ。

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ホルコム・ヴァレー・ロードを歩いていく人々。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:21.55 MB

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石を砕いてそこから金を取り出すために使われた道具だろうか。錆びた鉄と朽ちた木の枠が、草原にぽつんと残されている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.67 MB

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長い間、法と正義の象徴とされ、縛り首に使われたとされてきたジュニパーツリー。魚眼レンズで周辺を大きく撮りこみ、モノクローム・モードにすると幹のディテールが強調された。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:10 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.02 MB

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かつて栄えた集落ベルビル(Belleville)跡にある松の木の影から、ホルコム・ヴァレーを覗きこむ。キャビンは展示のため移動してきたもの。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.92 MB

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ホルコム・ヴァレーには松の木が多く、松葉の上に松ぼっくりが沢山落ちている。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.69 MB

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暖炉だろうか。1983年の火災で焼失したキャビン跡。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:18.30 MB

ホルコム・ヴァレー・ロードを東へ行くと道に大きな石が沢山ころがり、すれ違う車もない予想外の悪路を歩くような速さでゆっくりと進んだ。それまで道を覆っていた木々が突然なくなると視界が開け、トレイル最後のストップ・ポイントである金鉱跡が道下の斜面に残っている。1884年にダムが完成し、現在のビッグ・ベア・レイクが生まれる前の一時期、ビッグ・ベア・レイクと呼ばれていたアルカリ湖のボールドイン・レイク(Baldwin Lake)が霞んで見えた。

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大きな石が転がる道をゆっくりと進む。車高が低い車には勧められない道だ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:19.63 MB

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ゴールド・フィーバー・トレイル最後のストップである金鉱山跡。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:20 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.11 MB

3時間は見ておくようにと言われたゴールド・フィーバー・トレイルは、ディスカバリー・センター付近に戻ると5時間が経過していた。暖かい陽射しが残るビッグ・ベア・レイクの北岸には、秋の午後を楽しむ人の姿も多く、雪解け水が貯まった湖の北岸をしばらく散策した。

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紅葉したコットンウッドが、秋の空に映える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:24.48 MB

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コットンウッドが映り込み、黄色に染まった湖岸沿いを泳ぐカモ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.09 MB

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陽が傾くとカモがシルエットになった。湖の浅瀬部分には植物が水面に出ている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:300 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.08 MB

山に囲まれたビッグ・ベア・レイクでは、太陽が沈む時刻は早く、気が付くと太陽は西の山の空にあり日没は一瞬の出来事だった。

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西の空から小型飛行機が飛んで来て、釣人が空を見上げる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:136 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.61 MB

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頭上を越え、湖の東にある飛行場へ飛んで行く小型飛行機。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:95 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.87 MB

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湖の東にある北岸と南岸を結ぶ道に立ち、湖の向こうの山に沈んでゆく太陽を眺める。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2000秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.05 MB

19世紀の中ごろまで2,500年に渡り、現在のビッグ・ベア・レイク周辺に暮らしていたセラノ族は、グリズリーベアを先祖と考え危害を加えることはなかったが、ゴールドラッシュがはじまる少し前から、この山に入って来た人間によって、肉と毛皮を得るために熊狩りがはじまった。南カリフォルニア最大だったといわれるホルコム・ヴァレーのゴールドラッシュは、食用のグリズリーベアを捕らえるハンターとして雇われたウイリアム・ホルコムが、熊を探し山の中を歩き回っていたときに金を発見したのがはじまりだった。ビッグ・ベアがいなければ、ゴールドラッシュは起こらなかったかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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