第85回:テハチャピ(Tehachapi)へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第85回:テハチャピ(Tehachapi)へ

シエラネバダ山脈とテハチャピ山地の間に位置するテハチャピ峠を越えるため、螺旋形に迂回するテハチャピ・ループ線。長さ1,200 m以上の貨物列車がぐるぐると円を描き、1,170 mのループ線を通過する貨物列車は、ループ線のトンネルを通過し、列車の先頭部と後方部が交差する。私は大きな音が峠にしばらく響き渡るループ線のドラマにレンズを向けた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

記録的な暑さとなった6月、モハーベ砂漠の南東部に位置する標高842 mのタウン、モハーベ(Mojave)に来ると、私の車と並行し左手に貨物列車が走っていた。私は、車を停めて貨物列車をしばらく目で追った。陽炎で歪む光景の中、北へ向って走って行く貨物列車は大きくカーブして西の方へ向った。

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モハーベから西へ大きくカーブする貨物列車を追う。背景の山の向こうはセコイア国有林(Sequoia National Forest)。陽炎で電柱が揺れ、列車は所々歪んで見え、砂漠にいると実感する光景だった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:220 mm (120-300)
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.40 MB

私にとってモハーベは、北へ向うための通過地点だったが、この日、地図で見ると大きなシエラネバダ山脈の最南端にくっ付いているように見えるテハチャピ山地の方へはじめて向い、ハイウェイ(SR58)を西へ走った。農場労働者のための組織委員会を作り、農場労働者の権利を勝ち取ることに生涯を捧げたメキシコ系アメリカ人のセザール・チャベス(Cesar Chavez)のナショナル・モニュメントが近くにあることを地図で発見していた私は、テハチャピの町を超えるとキーン(Keene)とういう小さな集落でハイウェイを下り、モニュメントに立ち寄った。

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ハイウェイを下りるとカフェが1軒建っていた。強い陽射しにハーレーダビッドソンと店のサインが光り、影の部分は何も見えない光景だった。モノクロームにして光と影の世界を表現。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:19 mm
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ラテン系アメリカ人の英雄でもあるセザール・チャベス・ナショナル・モニュメント(César Chávez National Monument)。若いラテン系の女性が、アメリカの国旗とカリフォルニアの州旗を上げ、私がこの日最初の訪問者だった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
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「人生を捧げることによってのみ、人生を見いだすことができるというのが、私の深い信念」という意味だろうか。セザール・チャベスの言葉が刻まれていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm
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ナショナル・モニュメントに高い柵のように立っている木の裏側には線路が通り、貨物列車が通過するたびに大きな音が響いた。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
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ナショナル・モニュメントで働く女性に、地図上では5 km程離れたテハチャピ・ループ線の事を尋ねると、その存在を聞いたことがあるけど実際には見たことがないと言う。私は、大きな音を響かせてナショナル・モニュメントの側を通る貨物列車沿いの道を南東に走った。

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貨物列車が頻繁に通る線路沿い。White Prickly Poppyが記録的な暑さにも負けずに咲いていた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
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緩やかな上り道を走って行くと、ループ線が見下ろせる場所に着く。1本の木によってできる唯一の影の下には1台の車が停まっている。数組のグループが現れるが、頻繁に走っているはずの貨物列車はなかなか来ない。「このループ線を考えた人物は、馬に跨ったメキシコ人の農夫が、ぐるぐると回りながらこの峠を越えて行くのを見てヒントを得たんだよ、 僕は大学で歴史専攻だったから知っているんだけどね」と小奇麗な格好をした40代後半に見える男性が、列車が来るのを待つ人達に話しかける。結局、木の影で待っていたひとりの女性と私以外は、貨物列車がループ線に現れる前に皆その場を去った。強い陽射しに耐えて待つこと約50分、線路を走るキーンという音が聞こえてきて間もなくループ上に貨物列車が現れた。

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ループ線をゆっくりと走る貨物列車を見ていると、ぐるぐると回るミニチュアの電車に見えてきた。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:30 mm
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ループ線に差し掛かる少し前の線路沿い。脱線したのだろうか。朽ちかけた車両が放置されていた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
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ループ線の周囲は私有地で、線路には近づけなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:150 mm (50-150)
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ループ線を走る貨物列車がぐるぐると回る光景を見た後、テハチャピの町を通り抜け、強い陽射しから逃れ乾燥した山中に入り、テハチャピ山地にあるテハチャピ・マウンテン・パークに向う。北のシエラネバダ山脈に続く森のキャンプ場には数組の家族がテントを張り、子供の遊び声が木霊していた。テハチャピ山地からテハチャピの町に戻ると、モハーベに引き返す。

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週末には賑わうのだろうか。この日のキャンプ場は、数組の家族のためのものだった。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
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テハチャピの町でなかなか来ない貨物列車を待つ若者。鉄道ファンだという彼はこの後ループ線に向かった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
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テハチャピの町からフリーウェイに乗り東へ3 kmほど走った辺りでフリーウェイを下り、線路に近づいてみた。周辺は乾燥したただの荒野に見えるが、牛が道を歩いて来るので牧場の土地だと気がついた。そして、その牛たちを誘導して来たかのように見える男が、炎天下、牛たちの後から歩いて来る。男は私の目の前まで歩いて来ると手をあげ、「ハロー」と挨拶した。男の顔をよく見ると賢そうな若者だった。「ハイキング?」と訊くと、若者は「そうですよ」と答え、あっという間に上り坂の向こうに歩いて行った。車で若者を追いかけどこに行くのか尋ねてみると、パシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail、略称PCT)を歩きカナダとの国境線沿いがゴールで、18日前にメキシコとの国境線沿いから歩き始めて今日は47マイル(75 km)歩かないといけないのだと言った。この暑さの中、そんなに長い距離を人間は歩けるものなのだろうか?と私は思い、「グッド・ラック!」と言って若者を見送った。

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フリーウェイと並行して走る貨物列車が、踏み切りを通る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm
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追う人がいないのに、移動する場所を知っている牛たち。牛の後方には、パシフィック・クレスト・トレイルのサインが微かに見える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:220 mm (120-300)
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走るような速さで坂道を上り歩く若者。X3 Fill Lightを少し軽減して得られる独自の描写で、炎天下の暑い空気感を強調。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.81 MB

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炎天下、信じられないスタミナで歩き続ける若者は、元気いっぱいだった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.64 MB

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強烈な陽射しで記録的な暑さだったが、冬場は道も凍りつく。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:19 mm
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モハーベまで戻り車の給油を済ますと、再び西へ向った。ループ線がある峠に上ると、フリーウェイは飛行機が急降下して行くように下って行った。フリーウェイから出て枯れた高原地帯に出ると、強い陽射しも少し弱まっていた。

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女性用のレギングが売られていたガソリンスタンド。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:19 mm
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ループ線から東へ向う貨物列車。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
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ループ線がある峠を越えて西へ下って行くと、吸い込まれるような盆地が広がっていた。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.67 MB

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貨物列車が通る付近の広大な牧場は、鉄線で仕切られている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.94 MB

ループ線のある峠の下に位置する枯れた広い高原地帯に貨物列車が東の峠に向かい走って行った。 周囲に何もないループ線がある場所は、地図上でワロング(Walong)と書かれていて、サザン・パシフィック鉄道(Southern Pacific Railroad)のオフィシャルであったW.A. Longにちなんでいる。ループの中央にある丘に立つ白い十字架は、サンバナディーノ(San Bernardino)で起きた脱線事故で死亡した2人の鉄道員を追悼している。長さ1,200 m以上の貨物列車を見ていると、貨物列車に携わってきた人々の声が聞こえてきそうな気がした。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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