第60回:サンアンドレアス断層最南部周辺へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第60回:サンアンドレアス断層最南部周辺へ

色鮮やかにペイントされた丘、サルベーション・マウンテン(Salvation Mountain)は、訪れる者の心を和ませる。カリフォルニア州南部、インペリアル・カウンティーの砂漠地帯に、God Is Loveというレナード・ナイト(Leonard Knight)というひとりの男が描いたメッセージが目に焼きつく。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:38 mm

今年3月に歩いたピナクルズ国定公園の古い火山から成る岩山は、約200マイル(360km)の南東から北アメリカプレートに沿って、北西へスライドした太平洋プレートによって移動してきたことを知り、それ以来ふたつのプレート間であるサンアンドレアス断層(San Andreas Fault)に興味を持った。5月のはじめ、断層が実感できる土地の上に立ちたいと思い、カリッツォ平原に足を踏み入れた。2月にはサンフランシスコ北岸の旅をしたが、後に断層北部だっと知った。結果的に、断層の北部と中部を旅した私は、断層の南部にも興味を持ち調べてみると、サンアンドレアス断層は、何度か訪れたソルトン湖(Salton Sea)東岸まで伸びていた。断層南部に立ちたくなったのと、2年前に訪れていた際に見逃していた光景も少し気になり、5月の終わり、私は旅に出た。
インターステーツ・フリーウェイ10(I-10)を東へ走り、砂漠のリゾート地、パームスプリングス(Palm Springs)を超えると間もなくフリーウェイを降りて南に走る。まだ暑くなる前、車の窓から入ってくるさわやかな朝の空気を感じながら、広大な畑の間を走ると、朝陽に輝くソルトン湖の水面が畑の向こうに見えてくる。

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広大な畑の間につくられた大きな排水溝が、1本の道のように見える。遠くに連なる山のふもとには、サンアンドレアス断層が走る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:6.17 MB

かつて多くの人が訪れたソルトン湖(Salton Sea)の東岸を断層が走っている。2年前、初めてこの地を訪れた際、印象に残った朽ちた建物が、変わらず建っている。ゴーストタウン化したような光景に、一時はヨセミテ国立公園を上回る訪問者で賑わった湖の不思議な運命を感じる。

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店は閉まっていた。かつて色鮮やかだったに違いないサインに派手な色はない。大口径中望遠マクロレンズでシャープに捉えたサインをよく見ると、静かに色あせてゆく時の流れを感じる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.50 MB

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湖畔の閉まったガソリンスタンド。周囲に人影はなく、かつて湖に遊びに来た車をイメージするのは難しい。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:12 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.22 MB

湖の北岸に出てみると、若いカップルと中年の男が釣りをしている。私の目の前でテラピア(Tilapia)が何匹も釣れる。流れ出る川のない湖水は、蒸発する以外は湖に留まり、塩分濃度は年々増している。週末だけオープンしているビジターセンターに立ち寄る。「砂漠地帯に住むことは、私にとって自然なことで、自分の心が知っているんです」と言う女性レンジャーは、「湖で釣りをしている人を何人も見かけるけど、魚、食べられるんですか?」と質問をする私に、「セーフ」と答えた。

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釣ったばかりの朝陽を受けた色鮮やかなテラピア。塩分濃度が海より25パーセント以上も高い湖でも生きられる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:50 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:8.52 MB

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釣った魚は揚げて、今晩食卓にならべると言う若いカップル。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:23 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:12.40 MB

ビジターセンターからは、湖の東岸を走る州道111をボンベイ・ビーチ(Bombay Beach)まで南下する。資料によるとサンアンドレアス断層は、1929年にタウンとして開発され、週末訪れる人や引退者で栄えたボンベイ・ビーチまで伸びている。私は断層最南端の地に来ていた。地図を見ていると、5月に歩き回ったカリッツォ平原とソルトン湖の形がよく似ていることに気がついた。大きさはカリッツォ平原のほうが少し長いが、両方とも45度ぐらい左に傾く細長い楕円形に近い形をしている。

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朽ちかけた看板が、フレームになっている。「成人男性の身長ぐらい、毎年湖岸から水が後退している」と、レンジャーが言っていたが、この朽ちた看板が倒れる頃、湖水は湖岸からどのくらい後退しているのだろうか。もしかしたら、看板が倒れる前に、湖全体が消えてしまうのかもしれない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.06 MB

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海抜マイナス223feet(68m)のタウン、ボンベイビーチ。この土手の向こうは、1976年と1977年の2度のトロピカル・ストーム(Tropical Storm)により、湖水に浸った部分。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:28 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.85 MB

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この日は西からの風で東岸に波が立ち寄せ、海岸にいるような気持ちになる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:9 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.70 MB

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軽く押すだけで留めている形が崩れそうな缶が、干上がった魚の上に転がっていた。大口径中望遠マクロレンズで缶の一部にフォーカスし、モノクロームにすると、周辺の状況が静かに聞えてくるように感じる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:105 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.36 MB

ボンベイ・ビーチから少し南に下った東岸のマリーナにも立ち寄ると、風はさらに強くなり、湖の波は海岸に打ち寄せる波と変わらず、塩分の強い湖は大きな海に見えてくる。

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打ち付ける波を見ていると、湖と言われても信じられない。遠い昔、カリフォルニア湾の一部だった湖の水は近い将来なくなってしまうと言われているが、それもまた私には信じ難いことに思える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:45 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.30 MB

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州道111に戻ると、強い風が吹き抜け、辺りは砂嵐のようだった。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:220 mm | カメラ:SIGMA SD1 | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:4.00 MB

マリーナから南へ下り、湖から離れて小さなタウン、ニランド(Niland)でコーヒーブレイクを取り、2年前、玄関的な存在に見えるサルベーション・マウンテンまでは来たが、その先まで行かなかったスラブ・シティー(Slab City)の奥まで足を踏み入れた。誰でも好きなところに住めるこの地には、電気もガスも水もない。サルベーション・マウンテンに立ち寄った後、ゆっくりと車を走らせ、スラブ・シティーの奥へ入り写真を撮っていると、小さなバンが止まり、「何か問題があるのかい?」と、50歳代後半に見える男が笑顔で話しかけてくる。「写真を撮っているだけですよ」と言うと、「おもしろい写真撮ってね」と、さらに大きな笑みを浮かべて去って行った。もう1台同じようなバンが止まり、車には若いカップルが乗っていた。コンピューター関連の仕事をしているという若者は、冬から春はここで過し、治安は悪くなく、ソーラーやジェネレーターがあるから電気には困らないと言った。断層南のさらに少し南の砂漠には、不思議なコミュニティーが存在する。

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海抜-141feet(-43m)のタウン、ニランドに来ると強風は治まった。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm | カメラ:SIGMA DP2x | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:2640 x 1760 | ファイルサイズ:2.16 MB

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ここから先は行ったことがなく、誰かが近寄って来て文句を言われそうな気がしたが、出会った人々は皆親切だった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:10 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.97 MB

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木に靴を吊るすのは、よく見かける光景。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:150 mm | カメラ:SIGMA SD1 | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.88 MB

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第二次世界大戦の海兵隊兵舎の跡で、自由気ままに暮らす人のコミュニティーでは、土曜日の夜にはコンサートも開かれる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:25 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.50 MB

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出会った数人から、見るべきだと薦められたサイトには、自由な発想を感じる世界があった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:23 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:10.14 MB

スラブ・シティーからは、2年前には見なかったソルトン湖の南へ足を伸ばし、泥火山(Mud Volcano)を見る。

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サンアンドレアス断層最南端から少し南下した地にある泥火山を見ていると地表に生かされていると感じる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.19 MB

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CO2が、泥火山から湧き出ているこの地は、地熱発電所が数箇所建っている。背景の発電所は、地熱か火力か見分けがつかなかった。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:105 mm | カメラ:SIGMA SD1 | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.68 MB

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人気のないソルトン湖南岸に行くと、強風が吹き荒れていた。超広角ズームレンズを陽と風に向けてシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm | カメラ:SIGMA SD1 Merrill | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.07 MB

ソルトン湖の南から東岸を北上し、ビジターセンター付近に戻ると、湖面が夕陽に染まっていた。

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魚が釣れて喜ぶ子供。一昔前は、こんな光景がもっと見られたはず。本当に湖が消えてしまう日が来るのだろうか?

使用機材:SIGMA SD1 + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm | カメラ:SIGMA SD1 | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.36 MB

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湖の東岸を同じように沿って走る州道111とサザン・パシフィック鉄道が、S字型を描き、湖面が夕陽に染まるソルトン湖。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2000秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:300 mm | カメラ:SIGMA SD1 | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:4.76 MB

近い将来、消えてなくなると言われているソルトン湖は、夕陽に染まり美しく輝いて見えた。
北の断層を振り返りながらサンアンドレアス断層の最南端の地に立っていると、眼に見えない地球の大きなエネルギーを、少しだけ感じ取れるようになった気がした。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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