第56回:ピナクルズ国定公園(Pinnacles National Monument)周辺(前編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第56回:ピナクルズ国定公園(Pinnacles National Monument)周辺(前編)

太陽が大きな岩山に隠れて暗くなったトレールを引き返す。岩山の周りを飛んでいる鳥は、見たかったカリフォルニア・コンドルではなかったが、幻想的な風景に良く溶け込んでいた。

SIGMA SD1 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:500 mm

3月に入ったばかりの朝、サンフランシスコからUSハイウェイ101を南下してきた私は、ギルロイ(Gilroy)でハイウェイを降り州道152を東へ走った。太陽が山の上から顔を出し、農場沿いを走る道はまぶしい光の中へ入って行く。美しい日の出に感動し、牧場と道の間の広い空き地に車ごと突っ込み、急ブレーキをかけて止まると、そこはぬかるんだ土地だった。車はそこから動くことができなくなり、ロードサービス、トリプルエー(AAA)に助けを求める羽目となった。

large
thumbnail-02

霧が立ち込める湖の向こうの山から陽が昇る。ロードサービスを持つ間、陽はみるみるうちに高くなった。

SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:91 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.14 MB

large
thumbnail-03

ぬかるんだ土地を歩いた靴は泥で重くなったが、朝露に輝いていた牧草にレンズを向けると身も心も爽やかになる。

SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:22.26 MB

ぬかるみから助け出してくれたロードサービスは、日焼けした顔に濃いサングラスが似合うハンサムなメキシコ系の青年だった。「タイヤに泥がいっぱい付いているから滑るので、しばらくゆっくりと走るように」と助言してくれた彼に感謝し、大きく手を振ってゆっくりと走り出す。私は、ピナクルズ国定公園へ立ち寄るつもりだった。ローカルだが飛ばせそうな道で少し速度を高めるとハンドルがブレだす。明らかに、ぬかるみに突っ込んだ際の衝撃からくるものだった。結局この日は、車の状態が心配だったので道沿いで見かけたイチゴを買い、サクランボ畑の間を抜けてインターステーツ ハイウェイ5(I-5)を南下しLAに戻った。

large
thumbnail-04

水色の空をバックにした大きな水色の傘の下に並べられた赤いイチゴが、フロントガラス越しに目を惹いた。

SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:21 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:11.90 MB

large
thumbnail-05

セントラルカリフォルニアにはサクランボ畑が広がり、白い花が咲いていた。飾るように重ね置いたように見える落ちた花にレンズを向ける。

SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.52 MB

数日後、再びLAからピナクルズ国定公園へ向い、(I-5)を北上し州道198を西へ走る。静かな街コアリンガ(Coalinga)を通り過ぎると、緩やかな丘に油田と牧場が隣り合わせに存在していた。

large
thumbnail-06

コアリンガの街で、白いハットを被った男の後を付いて歩く小さな白い犬が、なんともかわいい。車内から高倍率ズームレンズを最長に伸ばし、すばやく撮影。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:200 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:4.82 MB

large
thumbnail-07

舗装された道路沿いに一列に並んだ背の高い木が立っていた。美しくもない、醜くもない、何か不思議な光景に思えた。

SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.77 MB

large
thumbnail-08

ロデオクラブの白いゲートがまぶしい。赤いペイントで書かれた大きな文字もまぶしくて、長くは見ていたくない。

SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:9.45 MB

large
thumbnail-09

19世紀に発見され1890年ごろから活発になった油田の丘を、馬にまたがるカウボーイがゆく。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:164 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.45 MB

large
thumbnail-10

カリフォルニア州で8番目に大きな油田地帯。丘の草はまだ枯れていた。強い陽射しの下、得体の知れない土地に思えた。

SIGMA SD1 + 12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:24 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.81 MB

large
thumbnail-11

この辺りまで来ると油田はなくなり、山に囲まれた牧場に出会う。肉眼では真っ白に見えたゲート付近の一部をシャープに切りとると、高画質なセンサーには、手で触れているかのようなリアルな質感が焼きついていた。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:53 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.09 MB

道は小山の間を走り、大きな平原に出て再び小山の間をしばらく走った。平らな土地に出ると、ピナクルズ国定公園に繋がる州道25を北上する。後日、地図で確認すると、道は渓谷のように見える土地を走っているが、大きな農場と緩やかな斜面の山に囲まれた景色の中を走った私の記憶には、「大きな平野を走った」と刻まれていた。
大きな木からは鳥の鳴き声が聞え、道端にはカリフォルニアポピーが元気に咲いていた。農場の柵と道の間に咲くポピーにレンズを向けていると1台の車が近づいてくる。私が何かのトラブルに巻き込まれたのか心配して見に来てくれた農場主だった。ピナクルズに行く途中で、写真を撮っているだけなので心配はないと伝えると、小さな犬を連れた60歳前後に見える農場主は、「それは良かった。あそこ(ピナクルズ)は、昔、野生馬の隠れ場所だったんだよ。」と、丸顔に大きな笑みを浮かべて私に言った。

large
thumbnail-13

大きな木から鳥たちの鳴き声が聞え、木の影の下に強い日差しから逃れるように牛が集まっていた。

SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.80 MB

large
thumbnail-14

カリフォルニアポピーに、大口径中望遠マクロレンズを向ける。1903年にカリフォルニアの州花になる以前からアメリカ先住民は葉を鎮痛剤として花粉は化粧品として使用していた。

SIGMA SD1 + MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:105 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.64 MB

large
thumbnail-15

まだ春が来ないこの時期、枯れた草原の中を走って来ると、緑の牧草地に目を奪われた。

SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.38 MB

large
thumbnail-16

強い日差しの下、納屋の大きなトタンの屋根に大きな存在感を感じる。

SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.83 MB

州道25をしばらく走ると、道の左右の石門が印象的な州道146(ピナクルズ・ハイウェイ)に入る。道沿いに立つPinnacles National Monumentのサインを見ると、着いた!と思う。私は東の入り口から国定公園内に入っていたが、尖がった岩山はなかなか見えてはこなかった。

large
thumbnail-17

森の中に山火事の危険性を知らせるサインが立っていた。内蔵フラッシュを発光し、鮮やかにペイントされたサインを描写。

SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:2640 x 1760 | ファイルサイズ:4.62 MB

ビジターセンターに到着するとすぐにキャンプ場に向かった。パークレンジャーが、「奥に行くほどいいサイトだよ」言うので、ビジターセンターから見ると一番奥になる木に囲まれたサイトにテントを張った。

large
thumbnail-18

ビジターセンターの駐車場で車から出ると、頭上で鳥が鳴いていた。OS付きの高倍率超望遠ズームレンズをすばやくボディーに装てんしシャッターを押す。通りかかった中年女性がMagpie(カササギ)だと教えてくれた。

SIGMA SD1 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:413 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.69 MB

日暮れまでまだ十分な時間が残されている。広いキャンプ場の周りを散策し、夕食までテントでゴロリとするのもいいかなと思ったが、私はキャンプ場を出て州道146(ピナクルズ・ハイウェイ)をさらに奥に進むことにした。

large
thumbnail-19

大雨のときは山から大量の水が流れてきそうな水のない川原。遠くに尖がった岩山がやっと見えてきた。

SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:18.20 MB

道は二つに分かれ、私は州道146でない方の道を西へ行ったが、いずれの道もすぐに行き止まりになりトレールの入り口になっていた。駐車場に着くと2台の車が停まっていた。もうすぐ夕方の4時になろうとしていたトレール(Condor Gulch Trail)は、スタートして少しの間は陽の光が届き、山から下りてきた一人の女性ハイカーと挨拶を交わし、ジャケットも要らない快適な登りだった。

large
thumbnail-20

突然現れたように感じる岩山は神聖な山に見える。X3 Fill Lightを下げでできる独自のソフトなイメージで、幻想的な風景を描写。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:25 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:13.34 MB

トレールが岩山の影になりはじめると気温が確実に下がるのを感じた。岩山は古い火山からできている。火山は、ここから約200マイル(360km)の南東の地で2300万年前までに生まれた。火山の3分の2は、北アメリカプレート(North American Plate)に沿って、北西へスライドした太平洋プレート(Pacific Plat)によって運ばれてきたのだ。そして、二つのプレートの間には大きな断層、サンアンドレアス断層(San Andreas Fault)が生まれた。

large
thumbnail-20b

ハイ・ピークス(High Peaks)と呼ばれる岩山の影に隠れる。大きな岩山を見ていると、「戻る時間だよ」と言われた気がした。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:120 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:3.94 MB

large
thumbnail-21

大きな岩の上に立ち、登ってきたトレールを見下ろす。太陽が岩に隠れて影になり急に冷え込んできた。

SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:日陰 | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.74 MB

ビジターセンターに戻るともう閉まっていたが、陽はまだ届いていた。

large
thumbnail-22

夏を待つプールに夕方の陽が差し、ウサギが私の動きを伺いながら餌を探していた。

SIGMA SD1 + 18-200mm F3.5-6.3 II DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:53 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.63 MB

陽が落ちると3月のセントラルカリフォルニアのキャンプ場は急激に冷え込んだ。薪にオイルをかけ火をつけようとしたが、なかなか火がつかない。結局、まるまる一缶のオイルを使い、薪はようやく燃えだした。西に沈んでゆく太陽の影になった岩山に向って歩いた感触が、足の裏に残っていた。勢いよく燃える火を見ながら、明日、朝陽が当たる岩山を見たいと思った。
(後編に続く)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top