第44回:ニューメキシコ州、タオス(Taos)周辺
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

1000年前から今日まで人が暮らし続けてきたニューメキシコ州北部に位置するネイティブアメリカンの集落タオスプエブロ(Taos Pueblo)。集落の広場へ向かって、1850年に建てられた小さな教会(San Geronimo Church)の白い門を潜り、教会の正面玄関まで来ると後ろを振り返った。朝陽がつくる教会の門の影が長く伸び、神聖な山の頭にはうっすらと白い雲がかかっている。超広角ズームレンズを一眼レフに装着し、美しい建物と神聖な空気を静かに大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

ニューメキシコ州サンタフェからUSハイウェイ285(ハイウェイ84と重複)を北上し、州道68に入り北東へ進む。左手に流れるリオ・グランデ川と共に徐々に山道を上っていくと、大きな街サンタフェからきた人間にとっては深い山岳地帯に入ったと感じる。

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西の山がブロックし、沈みかけた陽の光が届かないリオ・グランデ川に古い木のつり橋が架けられている。横断禁止のサインを無視して渡る勇気はなかったが、見ているだけで冒険心を掻き立てる橋だった。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:25 mm

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上って行くと川の周りが開け、夕方の陽の光が差し込み辺りは黄金色に染まった。上るほど美しくなる風景。この先出会う光景に期待感を込めてシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

道はリオ・グランデ川から離れていき、山道を上り切ると大きな平地が広がっていた。沈んでいく太陽の光を遮るものが何もない平地は黄金色に染まっていたが、空はまだ明るく青く、日没まで時間が長く残されているように感じられた。

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標高6,969ft(2,124m)のタオスのタウンまでもう一息の辺り。青い空と黄金色に染まった大地とのコントラストに目を奪われる。感動する気持ちを抑えしっかりと大地の上に立ち、大きな風景をファインダー越しに覗き、静かにシャッターを押す。この後間もなく太陽は地平線に沈んだ。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:12 mm

タオスのタウンに到着すると、タウンの南の端に建っていた宿に宿泊する。翌朝、日の出前に宿を出て、北へ走りタウンを抜けタオスプエブロに向かった。ユネスコにより世界遺産(World Heritage Site)、米国では国定歴史建造物(National Historic Landmark)に指定されている集落にまだ薄暗いうちに到着する。入り口付近で集落の様子を伺っていると、プエブロインディアンの血を引いていると思われる若い女性が集落まで歩いてきた。集落に入れるのか尋ねると、一般の人が集落を見学できるのは2時間後だと教えてくれた。女性が集落の中に入る前に少なくとも5,6台の車が集落へ入って行ったが、タオスプエブロの関係者のようだった。

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タオスプエブロに続く道。東の空が明るくなってきたがまだ薄暗い朝、馬が草を食んでいた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:26 mm

タウンに戻りしばらく歩き回った後、カフェで時間を潰した。カフェの前には、馬を積んだワゴン車を引くトラックが停まり馬の匂いがした。

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山の上に雲がかかる麓のタウンの朝。モノクロームにして、まだ人気が少ない朝の空気感を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

朝の8時過ぎに集落に戻ると次々に車が出てきた。早朝、何かの集会か儀式があったのかもしれない。集落の外にある土の駐車場には1台の車が停まり、車内には1組のカップルがタオスプエブロがビジターに公開される時間を待っていた。

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夜が明けて、陽が昇ったタオスカウンティー。朝陽を浴びた馬は全く動かず、観察するように私を見ていた。脅かさないようにゆっくりと馬に近づき、静かにシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

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タオスプエブロ近くの人家に犬を多く見かけた。繋がれていない犬たちは、自分の居場所を心得ているようだった。犬を驚かせないように車内から撮影。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

朝8時半になると、タオスプエブロが一般の人に開放され、カップルの後に続き集落の敷地内に入った。 赤い土の上を歩いて行くと、集落の向こうに見える山々が迫り、この地を護っている守り神のように見える。「神聖なタオスの山々に受け入れられないと、この土地に招かれることはない」とある資料に書かれていたが、快晴のこの朝、私は受け入れてもらえたのだろうか。

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家畜を囲う柵の向こうの山の上に渦を巻くように浮かぶ雲に、特別なエネルギーを感じた。山に向かってご挨拶をする気持ちで、最初の1枚を撮影した。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm

「前回来た時は川幅はもっと大きかったわ」と話す婦人が、二人の連れと共に集落の中央を流れる小さな川を眺めていた。川(The Red Willow Creek)は、集落の真ん中を横切るように流れている。集落の南西に建てられた小さな教会は、集落の中庭とさらに遠くの山々に向かっている。タオスプエブロのサイトによると、プエブロインディアンの約90%はカトリック教徒で、カトリックは古代のインディアンの宗教的な儀式と共に実践され、プエブロの宗教は非常に複雑ではあるが、カトリック教会との対立はないと書かれている。

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集落には、築1000年は優に超えていると信じられている大きな建物が二つあり、その内のひとつは集落の北側に建っていて、Hlaaumaと呼ばれる。そしてここにも繋がれたことが生涯一度もないと思われる犬たちが、ゆっくりと自由に歩いていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:43 mm

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広場に向かって建っている教会のオリジナルは、1619年にスペイン人宣教師たちとネイティブアメリカンによってこの墓場に建てられたが、米墨戦争(Mexican-American War)中、米軍により1847年に破壊された。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm

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ニューメキシコでよく見かける赤い干し唐辛子が、集落にも吊るしてあった。食文化にもこの地の歴史背景を感じる。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

タオスプエブロを見学した後は、集落の入り口で交通整理をしている男性に教えてもらったスキー場(タオス・スキー・バレー)に向かった。スキー場に向かう道(州道150)に入ると道幅が狭く上り坂になり、少し走ると小奇麗な店が建ち並ぶビレッジに到着する。

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スキー場に向う途中にかわいいビレッジ(Arroyo Seco)があり、傾斜した土地に店が建ち並ぶ。コンパクトデジタルカメラを首からぶら下げ、ビレッジを少し歩きながら気楽にスナップする。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ビレッジから道はかなり上っていき、スキー場に着くと標高は9,207ft(2,805m)まで達していた。雪のないスキー場は人影がまばらだったが、9本あるうちの1本のリフトが動いていたので、カメラバックを肩にかけて3人がけのリフトに独り乗ってみた。10,824ft(3,300m)まで上がる間、上から降りてくる人には会わず、約8分間の上りのリフトは孤独で数時間にも感じた。

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標高9,207ft(2,805m)のスキー場のベース。きれいなコスモスの花に気分を良くしてリフトに乗った。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

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リフトから降りたった地点から雪をかぶったWheeler Peak(標高13,161ft 4,011m)を望む。大口径中望遠レンズは、肉眼では認識できなかった山の斜面のディテールをクリアーに描写する。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

雨が落ちてきてもおかしくない厚い雲を見ると今すぐリフトで下りたかったが、リフトで独り宙に浮かぶ孤独感を思うと、地に足が着いた安堵感を感じ自分の足で1時間かけて下った。

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下り始めてすぐに鹿を見る。大口径ズームレンズで後方にいる鹿をぼかし、すばやくフレーミングし撮影。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:180 mm

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標高の高い山に花は見なかったが、スキー場のベース付近まで下りてくると紫の花が咲いていた。山道に座り込み撮影すると、疲れた足腰にしばらくそこから立ち上がりたくなかった。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

スキー場からは落ちるように山道を下り、タオスのタウンを通り過ぎて、行きに走って来た道(州道68)を南に下り、リオ・グランデ川沿いの道(州道570)に入る。コロラド州のサンファン山地に水源を発し、メキシコ湾へ注いでいる川を左手の西に見ながら少しずつ上り北へ進む。川沿いにはいくつかのキャンプ場があり、どのキャンプ場も数日間テントを張り滞在したくなるようなすばらしいロケーションにある。道は川を渡るとダート道の上りになった。地図上では川を渡る前から州道567に変わっているが、道のサインには気が付かなかった。すれ違う車とぶつかりそうなぐらい狭い道を上がりきると、360度見渡す限りの大地が広がっていた。東に流れるリオ・グランデ川はもう見えなかった。

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リオ・グランデ川沿いを走ると小さな橋で川を渡り、橋の上から撮影。この時間になるとたくさんの雲が空を覆い、川に反射して映る空の表情は、めまぐるしく変わっていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:23 mm

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大地の向こうに大きな渓谷があり、リオ・グランデ川が流れている。形を変え激しく動く雲は空の存在を強調し、大地は大空のドラマを受け止めるている。超広角ズームレンズで自然のドラマを大きく捉え、モノクロームにすると雲の存在が強調された。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

大地に出ると道は舗装された1本道になった。北へ飛ばし州道64を東へ行き、リオ・グランデ・ゴージ・ブリッジ(The Rio Grande Gorge Bridge)を渡り、たやすく大きな渓谷を越えてしまう。車を渓谷の東側に停め橋の中央まで歩き、200m下のリオ・グランデ川を見下ろす。コロラド州のサンファン山地に水源を発し、メキシコ湾へ注いでいる大きな川の流れる音が橋の上まで大きく鮮明に聞こえていた。橋からは来た道を引き返し、再び川沿いを走る。

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橋からリオ・グランデ川が流れていく南方を見渡し、壮大な天と地のドラマをカメラに収めると、私もこの光景の一部分なのだと自覚する。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:9 mm

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200mの高さから見た深い渓谷を流れてきた川の水とは思えないほど、この付近のリオ・グランデ川は穏やかに流れていた。午後の陽の反射がまぶしい川を背景に、小さなオレンジ色の花が咲いていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:50 mm

リオグランデ川の水が低い方へ流れるように、私もタオスカウンティーの外に出た。雷雨を伴う雲が覆っていたが、タオス滞在中は一滴の雨も降らなかった。しかし、タオスから南西に130マイル(208km)ほど走り、アルバカーキー(Albuquerque)から西へ少し走る辺りで雷雨にあった。怒りくるったように大きな音で雷は何度も落ち、激しい雨で前方がほとんど見えずフリーウェイでは事故も多発した。この夜、豪雨の中フリーウェイから見えてきた派手目のサインのモーテルに宿泊した。車から部屋に駆け込むわずかな間で、服はびっしょりと濡れた。翌朝、まだ暗いうちに外に出てみると、雨雲がすっかりどこかに行ってしまい、西の空には大きな月が浮かんでいた。

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早朝、ニューメキシコ州からアリゾナ州に入る頃、大きな月が西に沈む寸前だった。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:220 mm

この朝、昨夜の激しい雨と雷で身も心も引き締まり、気分はとても爽快だった。まるい月を見ながら、雷雨もタオスの恵みだったと思った。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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