第43回:ニューメキシコ州のローカルな道を行く
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

左手に大型トラックが行き交うインターステーツ・フリーウェイ40(I-40)、右手には貨物列車(The BNSF Railway)、私はその間の1本の細い道を東から西へ走る。米国ニューメキシコ州トゥクムカリ(Tucumcari)から20マイル(32km)ほど東へ行った辺り、このローカルな道を通る車はほとんど見ない。そして、この道がかつてマザーロードと呼ばれたルート66だと知るサインも周囲に見ない。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

ニューメキシコ州の南東部、US ハイウェイ285を北上し、私はローズウェル(Roswell)の街に入った。UFOの玩具や宇宙人の人形を並べた店とUFO博物館を見かけ、ここはUFO事件で有名なローズウェルだと気付く。UFOに興味がないわけでもないが、街には立ち寄らずそのままハイウェイをしばらく北へ走り、カウンティーロード20に入る。草原がどこまでも続く風景の中、独り走っていると、灰色の空からUFOが降りて来てもどこにも逃げ隠れができそうもなく、人里が恋しくなり車の速度を上げる。

large
thumbnail-01

ハイウェイ285から分かれて走ったカウンティーロード。空から誰かに監視されているようで何だか不安な気持ちになり先を急ぐ。コンパクトなデジタルカメラを前方に向けシャッターを押すと、私の心模様も刻まれていた。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm

ハイウェイから分かれてカウンティーロード40マイル(64km)と少しを北上し、フォート・サムナー(Fort Sumner)に到着すると、タウンで一番大きな道サムナー・アベニューをゆっくりと東へ走る。古いモーテルのテラスには、白いカウボーイハットが良く似合う初老の男が、大きな椅子に座り通り過ぎて行く私の車の方を見ている。朽ちかけたガソリンスタンドの裏からは、子供の遊ぶ声が聞こえる。すれ違った車はわずか1台だったカウンティーロードから来ると、さびれて見えるタウンにも十分な人の気配を感じる。

large
thumbnail-02

フォート・サムナーに到着すると素朴なサインが出迎えるのも嬉しい。左に傾いて立つサインを切りとると、高画質なデジタルカメラは、厚い雲に覆われ湿ったこの日の空気も写し出していた。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

large
thumbnail-03

朽ちたガソリンスタンドに、タイヤのホイールが輝いて見える。
絞りを開放近くにした大口径中望遠レンズは、背景を美しくぼかし、ホイールの存在感を自然に強調する。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:85 mm

large
thumbnail-04

交差点の一角、閉まったガソリンスタンドの前に道路標識が倒れていた。
いつ倒れたのだろうか、そしていつ直すのだろうか。直ぐに行動を起こす必要のないタウン。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26 mm

large
thumbnail-05

周辺の見るべきポイントが書かれ、私のこれからの行動を決定したサインは、車から降りて歩かなければ見逃してしまう。彩度とコントラストを上げ、曇り空の下に目立たないサインの存在感を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26 mm

サムナー・アベニューを少し南東に行くとタウンから離れ、フォート・サムナー・パークに向かう道、ビリー・ザ・キッド・ドライブに入る。私でも名前だけなら知っているビリー・ザ・キッド。その西部開拓時代のアウトローのミュージアムが建っていてた。立ち寄りたかったが、もう目と鼻の先に見えるフォート・サムナー・パークに直行した。パークの駐車場には1台の車もなく、立派な建物(The Bosque Redondo Memorial)に入るとあと少しで閉館の時間だった。 (The Bosque Redondo Memorial)のサイトに、「米軍が、ニューメキシコ州フォートサムナーのボスクレドンドとして知られる強制キャンプ場へ9500人のナバホ族と500人のメスカレロアパッチ族を迫害し投獄した暗い日々(1863年から1868年)、その苦しみをボスク・レドンド・メモリアルは、厳かに覚えている。」と書かれている。私は今年の5月、アリゾナ州キャニオン・デ・シェイ・ナショナル・モニュメント を訪れた。その際、19世紀の中ごろ、米軍によりナバホ族がキャニオン・デ・シェイから強制的にニューメキシコ州の強制収容所ボスク・レドンドに移動させられた事実を知った。特別な目的地を持たずニューメキシコ州を北上するつもりだった私が、ボスク・レドンドの赤い土の上を歩き回っているのは、何かの力に導かれたのだろうか。

large
thumbnail-06

この川(Pecos River)が氾濫し、ボスク・レドンド強制収容所は全て流されたと、若い女性パークレンジャーが教えてくれた。過去の悲しい出来事と洪水などなかったように、この日、川の流れは穏やかだった。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

large
thumbnail-07

強制収容所、1,600平方マイル(4144 km²)の包含するエリア。この土地に当時の跡はない。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:23 mm

large
thumbnail-08

ボスク・レドンドの土地を良く見ると、大きな蟻が一時も休まず忙しく動いていた。
赤い大地を切りとると、マクロレンズは、肉眼では見えなかった蟻の姿と様々な細かい石をしっかりと捉えていた。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

ボスク・レドンド・メモリアルを歩いた後、ビリー・ザ・キッド・ミュージアムに立ち寄るが、ミュージアムは閉まるところだった。ギフトショップに入るとレジで働く男性が、「ビリー・ザ・キッドの墓石は何度も盗まれて、今は格子に囲まれているよ、すぐ裏にあるから見れるよ」と言い、私は、思いがけなく西部開拓時代のアウトローの墓参りをすることになった。

large
thumbnail-09

1881年7月14日21歳でこの墓の近くの民家で射殺されたとされるビリー・ザ・キッドの墓。墓石が何度も盗まれてしまい、鉄の格子でガードされている。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:85 mm

フォート・サムナーからは、ハイウェイ60(84)を東に走り、ローカルな道を北上した。

large
thumbnail-10

フォート・サムナー付近のハイウェイ60沿いには、手を加えればすぐにでも住めそうな誰も住んでいない家を数軒見る。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:38 mm

large
thumbnail-11

広大な農場が続く景色の中を走ると、雨がポツポツと降りだした。
モノクロームにすると、大きな農地にゆっくりと流れる時がリアルに感じられる。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

large
thumbnail-12

西の空の雨雲から陽の光が漏れるニューメキシコ州農業地の夕方。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F2.8 | 焦点距離:200 mm

ローカルな道を北上すると、インターステーツ・フリーウェイ40(I-40)を超えて、トゥクムカリの街に着く。辺りはもうすっかり暗くなり、最初に見えたモーテルにこの夜宿泊する。翌朝、日の出直後にモーテルを出る。ファースト・アベニューを北に少し走ると、ルート66でもあるトゥクムカリ・ブルバードに交差する。ブルバード沿いには沢山の古いモーテルが建ち並び、一昔前の宿泊費が看板に示されている。私は、前夜ここまで走らず、フリーウェイ近くの大手チェーン店のモーテルに泊ったことを悔やんだ。

large
thumbnail-13

雨雲に覆われていた朝。東の地平線だけ少し雲が切れ、そこから漏れた朝陽がルート66を照らす。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-14

東の地平線から顔を出していた太陽が雨雲に隠れてしまう瞬間。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-15

太陽が雲に隠れてしまうと、時より小雨まじりの寂しい日となった。 この辺りでは人気のモーテルの前に、古い車が置かれている。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:25 mm

ルート66を西に走ると、色あせたピックアップトラックを1台見かける。車を路肩に停め、トラックにレンズを向けていると、1台の車が私の後方に停まった。人のよさそうな40歳代の男性が車の窓を開け、「この辺りをいつも旅していた男が、ある日ここで病気になり、このトラックを置き去りにして行ったんだよ。写真を撮っていたので、あなたはこのトラックのストーリーに興味があるかと思って」と、私に言うと、笑顔で東の方へ走って行った。

large
thumbnail-16

トラックのストーリーを聞いた後、アングルを変え余分にシャッターを押す。
もう動かないこのトラックだが、存在感は大きく通り行く人の目を惹いていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:21 mm

トゥクムカリから少し西へ行くとルート66は行き止まりになり、I-40に入る。ローカルな道を走って来ると、フリーウェイでは周囲の車の走る速度になかなか追いつかない。次の出口でフリーウェイから出ると、再びルート66を見つけて西へ走る。

large
thumbnail-17

ルート66は、トラックの交通量が多いI-40の下を潜った。
車高の高いトラックは通れないかもしれない。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-18

今までもいくつかの区間を走ったことがあったルート66。このルート66のサインが一番私の目に焼きついた。大口径標準レンズで、しっかりセンサーに焼き付ける。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-19

ルート66とI-40の間にある墓場。誰が管理しているのだろうか。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

large
thumbnail-20

ニューカーク(Newkirk)に、この道がルート66だと分かるサインが立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-21

古い車が沢山停まっているカァーボ(Cuervo)に来ると、雨が降ってきた。
車内からシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

小さな集落カァーボを超えるとルート66だと思われる道はゲートに閉ざされていた。再びI-40に入り西へ行き、サンタ・ローザ(Santa Rosa)でフリーウェイから出る。フリーウェイの出入り口付近から東へ走る州道156が、オリジナルのルート66だと手持ちの資料に書かれていたので、州道を東へ戻るようにして走ってみた。

large
thumbnail-22

一直線に伸びた小雨まじりの州道156を走る。
この道がかつてのマザーロードだというサインはこの辺りにはない。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

ニューメキシコ州のローカルな道をのんびりと走るつもりだった私は、気が付くとかつてマザー・ロードと呼ばれたルート66を走っていた。いくつかの区間でそのルートを変更し、1985年に廃線となったルート66の跡を100パーセントたどるのは不可能だ。しかし、ルート66を求めてシカゴからLAまで、ローカルな道を走るのは一度試してみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top