第42回:ホワイトサンズ国定公園へ(White Sands National Monument)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

米国ニューメキシコ州南部のトゥラロサ盆地(Tularosa Basin)に存在する世界最大の石膏砂丘(Gypsum Dune)に、厚い雲の間から陽の光が差しむ。大口径ズームレンズをしっかりとホールドし、自然界の壮大なドラマを捉えると、白い砂の上を歩いた小さな人間の足跡がクリアーに写し出されていた。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:300 mm

西海岸からインター・ステート・フリーウェイ10を東へ走り、アリゾナとニューメキシコの州境にさしかかると、砂塵嵐(Dust Storm)の可能性を警告するサインをいくつかフリーウェイ沿いに見かける。この辺りは夏には雷雨も多く発生する。随分昔の夏、激しい雷雨に会い、大きな雷の音におびえ歩くような速度でフリーウェイを走った記憶が鮮明に蘇る。幸いこの日は雷雨の心配もなく、ロサンゼルスから東へ約770マイル(1230km)の距離にあるラス・クルーセス(Las Cruces)に予定より早めに到着する。私は、人口約10万人のニューメキシコ州で2番目に大きな街ラス・クルーセスに宿泊し、翌朝ホワイトサンズ国定公園を訪問する予定だった。しかし、青い空を見ていると日没まで十分な時間が残されているように思え、ホワイトサンズ国定公園に向かうことにした。

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ラス・クルーセスに近づいたフリーウェイのサービスエリアに来ると、ニューメキシコの州鳥であるロードランナーの彫刻が、オルガン山脈(Organ Mountains)を背景にしたメシラ盆地(Mesilla Valley)を見下ろしている。高さ20ft(6m)、長さ42ft(12.8m)の彫刻は、ガラクタから作られている。

使用機材:SIGMA DP2x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ラス・クルーセスからU.S.ハイウェイ70を北東に走る。山を越えて大きな盆地に入り込むと道は真っ直ぐに伸びている。国定公園までは思った以上に距離があり、白い砂はなかなか見えてはこない。左頬に沈んでいく陽の光が当り、宿泊を予定していた街に引き返そうか迷うが、気を取り直して前に進む。目指す国定公園に到着すると、日没まで僅かな時間しか残されてはいなかった。公園入り口で受け取った案内書には目もくれず、一本道を進み車から降りて砂の上に立つ。この日の夕方、西の水平線近くの空を雲が覆い日没前に陽の光を失う。

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辛うじて、この日最後の陽の光を捉える。このあとすぐに太陽は雲に隠れてしまった。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26 mm

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西の空は雲が覆い、太陽が沈んでも東の空は晴れていた。風のない穏やかな砂の上を素足で歩きながら、超広角ズームレンズで海抜4000ft(1200m)の白い砂丘を写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:12 mm

この夜、ラス・クルーセスには戻らず、U.S.ハイウェイ70を北東へ約18マイル(29km)走り、アラモコード(Alamogordo)のモーテルに宿泊する。翌朝、日の出前にモーテルを出て、国定公園の入り口に着くとゲートはまだ閉まっていた。私の前にはすでに1台の車が停まり、ゲートがオープンするまでに私の後方に2台の車が並んだ。

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国定公園のゲートが朝7時からオープンするのを待つ間に、U.S. ハイウェイ70を歩いて横切り東の空を見る。一直線に伸びたこの道には、暗いうちから時折大きなトラックが高速で通り過ぎていた。内蔵フラッシュを発光し、国定公園入り口正面に立つハイウェイ沿いのサインを入れ、シャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:20 mm

陽が昇り公園のゲートがオープンすると白い砂丘の中の道(Dunes Drive)をゆっくりと走りだす。この朝、雲が薄っすらと空にかかり、白い砂丘と空の境目がはっきりせず白い砂にどこにも強い影がない。それは本来あるはずのものがない不思議な感覚だった。薄い雲は陽の光を和らげ、白い砂丘全体を柔らかく包みこむ。霞んだ白い砂丘は、快晴よりむしろまぶしいかもしれず、いずれにしてもサングラスなしにいられない。ビジターセンターから約7 マイル(11.2 km)を走り、公園内を車で行ける最西端まで走り、ループになっている4.6 マイル(7.4 km)のアルカリ平地トレール(Alkali Flat Trail)を少し歩く。

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砂の上には道はなく、上の部分がオレンジ色の標識が立っていたが、自分がどこを歩いているのかすぐに分からなくなる。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:200 mm

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朝陽にまぶしくコントラストの強い風景を予測したが、柔らかい静かな風景が広がっていた。
高画質のデジタルカメラは、肉眼では見えなかった草の先端までシャープに写し、大きくも繊細な自然界を描写する。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

アルカリ平地トレールを歩いた後、ビジターセンターに向かいデューンズ・ドライブ(Dunes Drive)をゆっくりと戻り始めると雲が少しずつ切れ始め、気温は上昇し始めた。

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デューンズ・ドライブ沿いの砂の壁に遊ぶ家族。子供も大人も大きな砂丘を堪能していた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33 mm

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白い砂丘を生き抜くため、白くなったトカゲ(Bleached Earless Lizard)は、雲が切れて強い陽の光がつくる影で見つけた。高倍率超望遠ズームレンズを最長に伸ばし、しっかりと左手でレンズをホールドしトカゲを捉える。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:500 mm

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ニューメキシコの州花である枯れたユッカの花。 白い花がなくても、その存在感は小さくはなかった。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm

空全体に薄っすらとかかっていた雲が切れると、砂丘の気温は急激に上がり、体内の水分が蒸発していくように感じられる。私はビジターセンターの建物の中に逃れるように入り、しばらく涼んだ。そして、U.S.ハイウェイ70をラス・クルーセスの方向に向けて走り出した。前日の夕方、急いでラス・クルーセスから走って来た私は、トゥラロサ盆地に入る前に超えた峠周辺の風景をもう一度じっくりと見たかったのだ。山を上り少し下りかけた集落オーガン(Organ)まで走り、そこから引き返す。ホワイトサンズ国定公園の案内書の地図を見ると、公園の北と南にホワイトサンズ・ミサイル実験場(WHITE SANDS MISSILE RANGE)と大きく示され、東は空軍基地の名前が記されている。ミサイル実験時は、U.S.ハイウェイ70も公園内のデューンズ・ドライブも最長3時間まで閉鎖されると公園のサイトに書かれている。この日ミサイル実験はなかったが、人工的な爆音が苦手な私は耳栓を用意すべきだったのかもしれない。

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サン・アグスティン峠付近(San Agustin Pass)のハイウェイ70沿い。ミサイルが展示され、氷河時代には湖(Lake Otero)だったトゥラロサ盆地が見下ろせる。使用目的は全く違うが、ミサイルは子供の頃に作った紙飛行によく似ていると思った。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:21 mm

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海抜5719ft(1743m)のサン・アグスティン峠を少し下りてハイウェイ70から逸れてみると、山火事の跡が残る風景が広がっていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

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ハイウェイ70を国定公園に引き返すように北東へ走ると、空に薄い雲が出てきたが、暑いトゥラロサ盆地はどこを見渡してもまぶしい。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

国定公園の入り口まで引き返して来た私は、まだ暑さがきびしい砂丘には戻らず、アラモコードの街まで行きランチを食べながらしばらく涼み、午後4時過ぎに国定公園に戻ると、砂丘は朝とは変わりコントラストと影の強い表情をしていた。

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石膏に根をはりめぐらして、砂漠にたくましく生息する植物が見られるトレール(Dune Nature Trail)を歩く。 モノクロームにすると、まぶしくて肉眼ではよく見えなかった砂丘の表面がより深く描写された。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:9 mm

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白い砂の丘に登り、草が一面に生息しているエリアを見下ろす。
強い日差しに当っていると、背の低い草の中にも潜りたくなってくる。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm

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公園内の唯一の車道(Dunes Drive)は、雪の上を走っているかと錯覚をする。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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まぶしくて幻想的だったピクニックエリア(Heart of the Sands)に、人影はなかった。
ピクニックテーブルには屋根とバーベキューグリルが付いている。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:8 mm

しばらく晴れていた空は見る見るうちに厚い雲に覆われだし、砂丘の北東方向に見える山が霞んで見え始める。その光景は、砂丘から砂が舞い上がっているようにも空から雨が降ってきたようにも見えたが、砂嵐が近づいていた。

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灰色の空から雨が降ってきたように見え、雷雨の心配をする。大口径ズームレンズで、すばやく表情を変える砂丘を捉える。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 120-300mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:120 mm

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暗い北東から南東方向を見ると、まだ青い空が残っていた。 私のいた近くには数人が、夕陽を期待して砂丘の上に立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:38 mm

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砂丘は砂嵐に襲われた。風が強くなり砂嵐だと分かった時は、もう砂を受けるしかなかった。
カメラをジャケットで覆って三脚に乗せ、スローシャッターで風に揺れる草を撮影。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.6秒 | 絞り値:F22.0 | 焦点距離:30 mm

急いで車まで戻り、口を動かすと砂を噛む音がジャリジャリとする。一刻も早く砂を体から払いたい私は、昨夜宿泊したアラモコードのモーテルに直行した。モーテルの部屋に入ると真っ先にカメラの掃除をした後、シャワーを浴びる。翌朝、4時にモーテルを出て、暗く何も見えないリンカーン国立森林公園の中を東へ向けて走る。しらじらと東の空が明るくなり、森林を越えて大地に出ると日の出を迎える。

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地平線の彼方から昇る太陽。朝陽を全身で感じると、昨日の砂嵐が遠い昔の出来事だったと思えてくる。大きな空と大きな大地を超広角ズームレンズで大きく捉える。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

石膏は水溶性のため砂として存在することは珍しく、ホワイトサンズは非常に珍しい砂丘だと言える。周囲の山で雪や雨が岩から石膏(Gypsum)を溶かし、海に注ぐ川がないトゥラロサ盆地に流れ込み溜まる。その後水分が蒸発し、地表に大きいものでは長さ3ft(90cm)にもなる透明石膏(Selenite Crystals)と呼ばれる石膏を地表に残す。透明石膏は、凍結し溶解し乾燥し壊れていき、最後は砂になる。透明石膏を見られる湖(Lake Lucero)は、ビジターセンターからは遠く、立ち入り禁止区域の砂丘南西の端にある。湖に行くためには、ミサイル実験場から出発するパークレンジャーが率いるツアーに参加する。2011年度は11月と12月を除き、月1回しか行われず予約が必要である。約275平方マイル(710km²) の白い砂丘のうち南の4割の国定公園内にキャンプ場なない。しかし、許可を取れば指定された場所にテントを張れる。
砂嵐もミサイルも恐れず、砂丘にテントを張る勇気を持って次回は訪れたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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