カリフォルニア州、セントラル・コースト(後編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

カリフォルニア州のセントラル・コースト沿いを走るカリフォルニア・ステート・ルート1から見る海岸線の景色は、絶景と呼ぶにふさわしい。特にカーメルから少し南下したあたりのビッグサー(Big Sur)は、険しい岸壁が続く景色が人を魅了する。この朝、霧に霞む海岸線は、まさにビッグサーならではの光景だった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:86 mm

前日、ハイウェイ1を北上した私は、先を急ぎ、すばらしい景色を見落としたと感じていた。
そして、この朝、モントレーから同じ道を南下し、再び同じ景色を見ながら走ることにした。
カ-メルを通り過ぎビクシー・クリーク・ブリッジを渡ると、真っ暗だった空は少しずつ明るくなり、海岸に打ち寄せる白い波もかすかに見えてきた。まだ薄暗い風景の中、車のフロントライトだけを頼りに走る私の前方に、数秒ごとに光る灯台の灯りが見えた。車を路肩に停め、カメラを素手で持ち海岸線に立ち、灯台にレンズを向け数枚の写真を撮る。この朝の海は穏やかで、1月下旬にしては暖かく、短時間なら手袋も帽子も要らなかった。灯台のライトは明るく、ここを通る誰もが見逃すことはない。

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この近辺の海は航海には危険で、灯台の灯りがない19世紀中ごろには多くの船が沈没した。
海面からは270ft(82m)の岩の上に建つ灯台Point Sur Lightstationは、1889年にライトが灯り1972年に自動化された。まだ薄暗い風景の中、ライトが光る瞬間を大口径望遠ズームレンズで捉える。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:137 mm

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サンフランシスコから135マイル(217km)南サンフランシスコから、灯台の建つ地形がよく分かる場所に出る。
刻々と明るくなってきた空に、半分欠けた月が浮かんでいた。数秒ごとに光る灯台のライトを入れて撮影。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 |
絞り値:F3.2 | 焦点距離:24.2 mm

灯台を撮影した後、海岸から少し離れて森の中を走り、再び海岸線に出ると間もなく日の出を迎えた。北から南に向かってセントラル・コースト沿いを走ると、右手の西は太平洋が広がり、左手の東は、北はモントレーから南はサン・ルイス・オビスポまで105マイル(170km)続くサンタ・ルシア山脈(Santa Lucia Mountains)が連なっている。ビックサーと呼ばれる地域は、通常カーメル川から(Carmel River)からサン・カポフォロ・クリーク(San Carpoforo Creek)の間の約20マイル(36km)で、山脈が海岸線まで迫っている。私が日の出を向かえた海岸線は、東は山々が連なり、太陽が顔を出すのに少し時間がかかり、周囲が明るくなってきても暗かった。太陽が東の山から出て、陽の光が私を直接照らし始めても、北から南に走る者にとって、岸壁はしばらく暗かった。

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東の山からやっと太陽が顔を出す。海沿いを走る私は、山から昇る日の出を迎えた。
山あり海ありの贅沢な風景。モノクロにし、イエローを加え太陽の暖かさを表現。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:23 mm

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海面に霧がかかり、陽の光がドラマチックに海岸線を描写する。
セントラル・コースト、ビッグサーの美しい風景が続く海岸線を、高倍率超望遠ズームレンズで朝の空気と同時に切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/800秒 |
絞り値:F5.6 | 焦点距離:75 mm

景色がすばらしいハイウェイ1は、気を抜くと崖から海に落ちる危険なカーブが続く。早朝、南に向かって走る車には、朝日が直撃し前方がまぶしく、慎重なドライブが必要だった。
ゆっくりといくつもカーブを曲がり、そろそろ休憩がしたくなった頃、砂浜に向かって流れ落ちる滝が有名な州立公園(Julia Pfeiffer Burns State Park)に立ち寄った。南から北上して来た前日は、気がつかず通り過ぎていた州立公園だった。ハイウェイからは東の山の中にあるパーキング場に車を停め、ハイウェイを渡り海岸線に出る。岸壁に囲まれているような砂浜に、1本の太い糸のような滝が砂浜に流れ落ちている。滝を見ていると、滝の水が流れてくるクリークが見たくなり、陽の光が届かない森の中に入る。小さいクリーク沿いのトレールは意外にきつい上りが続き、山登り用のカーボン三脚がいつもより重たい。息を切らし深い森の中を歩くと、トレールらしき道が認識できなり、先に進むのあきらめクリークの中に入る。
重たく感じた三脚にカメラを固定し、急な斜面を流れるクリークにレンズを向けると、海岸線の険しい岸壁と深い森は一体なのだと認識させられる。

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1本の糸のような滝、McWay Falls。
海水の白い泡が、ゆっくりと岸壁まで押し寄せては引いていく。
岸壁の上からは、滝の水が砂浜に流れ落ち、その周りにカモメが集まる。
日陰になった色の少ない光景を、X3 Fill Lightを下げソフトな雰囲気にし、セピアカラーにして幻想的な写真に調整した。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/30秒 |
絞り値:F5.6 | 焦点距離:112 mm

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滝まで流れてくる水を見たくて森に入る。
三脚をクリークにたて、小さな岩に乗ってスローシャッターで撮影。
滝と同じようにセピアカラーに仕上げ、深い森に流れるクリークと滝の一体感を表現。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:2.0秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:21 mm

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滝と森の中を流れるクリークを撮影し、ハイウェイ1を南に走り出すと空も海も青くなり、明るい快晴の一日が始まった。

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岸壁を走るハイウェイ沿いにはいくつかの休憩ポイントがあり、 大きく写しこみたい風景が広がっている。
座るには大きすぎる木の椅子と太陽を入れて、 フィッシュアイで大きく海岸線を撮る。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/400秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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海岸線はどこまでも続いているように見えた。
完全な逆光だったが、太陽光がレンズに入るのも気にせずただシャッターを押すと、
この日の色と空気がしっかりと残されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:86 mm

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海岸に出られるポイントがあった。岩の海岸には、積まれた石がいくつもあった。
内蔵ストロボを発光し、影を和らげる。小さな石ころの上を寝転びながら撮影しているといつまでも居たくなり、時間をかけて石を積む人の気持ちが分かるような気がした。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:25 mm

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冬に期待していなかったポピーが、丘に咲いていた。
花を見つけるとUターンして、小さなカメラを手に斜面を登りシャッターを押す。

使用機材:SIGMA DP2s + 24.2 mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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海に向かって突き出た小さな半島のような草原を歩いて行くと、人がなかなか近づけそうもない小さな岩の島がいくつもあった。彩度を落とし空と海の色を押さえ、日陰になった岩の島の存在感を強調。
海に向くと、どの方向も逆光になったが、超広角ズームレンズで大きく写しこんだ写真は、すべてをクリアーに描写していた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

小さなクリークに掛けられた名前も分からない小さな橋から、海岸線に見えた休憩ポイントに、サーフボードを積んだ車を見かけた。私はハイウェイから逸れて、渡って来た橋の下を潜り、数台の車が停まる斜めに傾いたパーキング場に出た。大きな岩がゴロゴロと転がる海岸から、一人のサーファーが海に出ていく。橋の下を流れるクリークが、海に流れている。
大きな風景を見てきた私には、プライベートな感じが気に入り、しばらくこの海岸で午後の日差しを浴びていた。

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走って来たハイウェイ1を、橋の下から見上げる。海岸線の険しい岸壁につくられたコンクリートの橋が、西日で影になっていた。モノクロームにして、橋の形と質感を強調。コントラストの強い状況だったが、暗部も潰れることなく描写された。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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海を独り占めしているサーファーが、車の中で昼寝をしていた。
心が和む良い光景だったが、写真を撮るには難しい状況だった。
モノクロームにして、イエローの強いセピアカラーに仕上げ、午後の雰囲気を表現。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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山から流れてきた水が、太平洋に流れ出している。
満潮になるとこの辺りも海水で満たされるのだろうか。
海からの風と山からの風も交わる不思議な空間だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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岸壁を背景にした岩だらけの海岸から海に出るサーファー。
高倍率望遠ズームレンズで、周囲の環境が分る焦点距離をすばやく選択し撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:93 mm

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険しい岸壁とたくさんのカーブのハイウェイ1もラグド・ポイント(Ragged Point)に近づくと、 多少道から逸れても、海の中に転落しそうな危険な場所はなくなった。前日、ゾウアザラシを見かけたサンシメオン付近に来ると、もう岸壁は過去のものとなり、広々とした海岸線を気持ちよく走るドライブコースとなった。

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道は狭いが、海に落ちる心配のない景色になった。
岸壁が続く道から来ると、のんびりとした風景に見える。
比較的広い路肩に車を停め、少し歩いてガードレールの外に立ち撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:50 mm

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サンシメオンに来ると、道は直線になり、広々とした風景に開放的な気分になり、 朝から走ってきた険しい岸壁の風景が遠い昔のものに感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

暖かいカリフォルニアの冬も日が暮れるのは早く、サンセットをどこで迎えるか考える時間になっていたが、どこにいてもきれいな夕日が見られるこの日、考えもなく海岸線をゆっくり走ることにした。そして、目についたサイン、ピア・アベニューを西に走りたどり着いた大きなビーチでサンセットを迎えた。大きなビーチには、四輪駆動の車が走り抜けていた。

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太平洋に沈む太陽。
ズームレンズを最長に伸ばし、太陽に向き合いシャッターを押した後は、しばらく目がくらみ、周囲がよく見えなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/2000秒 |
絞り値:F8.0 | 焦点距離:450 mm

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沈んでゆく赤い太陽に染まる砂浜。
美しいが険しい岸壁を走って来た者にとっては、心が落ち着く静かな光景だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

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太陽が沈み、帰ろうとした私の前を1台の車が通過し砂浜に出て行った。
首からぶら下げていたコンパクトカメラで1枚撮る。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:16.6 mm

セントラル・コーストを南から北上しその翌日には北から南下すると、目に飛び込んでくる光景が違って見えたのは、時間帯にも大きく影響されたと思う。しかし、アクセスが限られる独特な海岸線の風景は、走る度に違った感動があり、けっして飽きることのないドライブコースであることは間違いない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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