押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第22回:秋のカナディアンロッキー 前編(バンフ国立公園へ Banff National Park)

9月の終りにしては暖かいカルガリーの街で、私はカメラを首からぶら下げ午後の散歩を楽しんだ。この街には何度か訪れていたが、初めてカルガリータワーに上り街を見下ろすと、前の週、氷点下近くまで冷え込んだ街の木は、すっかり秋の色だった。

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カルガリータワーの展望台(525 feet、172m)から、アンテナまでの高さ627 feet(191 m)のタワーの影を午後のカルガリーの街に見る。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

翌朝、レンタカーを借りカナディアンロッキー南の玄関口であるバンフ国立公園(Banff National Park)を目指し、アルバータ州最大、カナダ国内第3位の都市であるカルガリー(市域人口988,193人、2006年)の市街地を抜け、トランス・カナダ・ハイウェイ(Trans-Canada Highway)を西へ走る。9月最後の平日の朝、快晴のハイウェイを走る車は少なく、ゆっくり走る私を追い越す車もない。ハイウェイ沿いの町、キャンモア(Canmore)を過ぎるとすぐに国立公園のゲートに到着し、滞在日数を伝えて公園の入場料を払い、そこからバンフの町まではすぐだった。カルガリーから西へ126km(78mi)の町にはホテルが沢山あり、夏のハイシーズンが終わったバンフに、私は宿泊先を決めてはいなかった。その夜、以前宿泊したホテルに空きはなかったが、そこで紹介されたわずか数ブロック離れたホテルに泊まることにした。スイスから短期で滞在しているフロント係に、この町はインターナショナルな観光地だと感じる。

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バンフの町に来ると野性動物にレンズを向ける人の姿を見かける。
車から飛び出して、高倍率超望遠レンズでその光景を記録した。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:203 mm

チェックインを済ませた後、ホテルに置いてあったバンフ国立公園の案内書に最初に大きく紹介されているレイク・ ルイーズへ向った。国道1号線を少し西に走り、バンフとレイク・ ルイーズ(Lake Louise)を結ぶボウ・バレー・パークウェイ(Bow Valley Parkway)に入った。この道は、道沿いにまだ雪が残る春と真夏にも走り、その度、野生動物をよく見かけていた。いくつかのハイキングコースや宿泊施設もある道には、しばらく眺めたくなる景色がたくさんあり、何度も車を停めた。
過去に訪れた時には気に留めず、この日、目を惹いたのは、花が添えられていたキャッスル・マウンテン抑留キャンプ(Castle Mountain Internment Camp)跡に建てられた彫像だった。第一次世界大戦中、社会的な地位に関係なく、敵国の外国人として指定された人々が抑留された。この地に抑留された多くの人は、ウクライナ地方からの移民だった。
抑留キャンプの主な目的は、バンフ高速道路をレイクルイーズまで伸ばすことだったが、今後の観光価値を認識し、橋、排水溝なども建設された。キャッスル・マウンテン抑留キャンプは、2重の鉄線に囲まれたテント生活で、冬の寒さは厳しく虐待も多く、脱走する者は多かった。抑留キャンプは1914から1920年まで続いたが、彼らの強制労働がなければ、私もこの地に来ることはなかったかもしれない。

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ボウ・バレー・パークウェイに入るとすぐに雄大な景色を望める。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:20 mm

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黄色く黄葉したアスペン(Aspen Tree)と、快晴の青空。
逆光ぎみだったが、超広角ズームレンズは鮮明にそしてシャープに秋の色を捉えた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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キャッスル・マウンテン抑留キャンプ(Castle Mountain Internment Camp)跡に建てられた彫像は、whyと、名付けられている。
彩度を落としX3 Fill Lightを下げ、時間を越え過去に繋がる彫像を描写した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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ボウ川沿いで見かけた秋を感じるタンポポの綿毛。
マクロレンズで、秋の光景をシャープに捉える。

使用機材:SIGMA SD15 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

何度も車を停め、ようやくルイーズ湖に到着する。駐車場は夏のハイシーズンから比べると車の数が少なかったが、山に囲まれた美しい湖には笑顔を浮かべた多くの人の姿があった。夏に来た私の記憶では、ルイーズ湖は乳緑色(milky green)だったが、この日の湖の色は少し青が強く見えた。

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ルイーズ湖。面積 0.8 km2(0.3 sq mi)、水面の標高1,750 m(5,741 feet)、最大水深70 m(230 feet)

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:12 mm

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ゆっくりボートを漕ぐ老夫婦。
この日、エメラルドブルーで知られる湖は青い色が強く見えた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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もうしばらくすると、標高3464m(11365Feet)のビクトリア山は麓まで雪に覆われ、ルイーズ湖の水面は凍る長い冬がやって来る。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

ルイーズ湖からは、レイクモレーンロードを南へ約14km(8.7 mi)走り、モレーン湖(Lake Moraine)まで足を伸ばした。駐車場は湖のすぐ側にあり、私は車から出るとすぐに湖畔を歩くトレール(The Rockpile Trail)を歩き出した。
トレールを歩き出すと湖畔から離れて行く別のトレールがあったが、そこには、グリズリーベアーが出る危険度が高く、4人以上のグループでないと歩いてはいけないと、書かれたサインがあった。一人歩きの私は、細長い湖の湖畔を歩いて、湖を半周近く行くとトレールは終点になり、そこから引き返した。トレールのスタート地点に戻ると、そこには、「レイクルイーズは、毎夏、現在も活発な氷河から細かい岩粉が湖に流れ込み、その岩粉によって、湖は青から乳緑色(milky green)に変わる。モレーン湖は、谷の上の休止状態の氷河から湖に流れ込む融雪氷水には、ごくわずかな岩粉しか含まれないため、湖は一年中同じような青い色に見える。」と、ルイーズ湖とモレーン湖の違いを説明する写真付のボードが建っていた。細かい説明ではなかったが、湖の色と周囲の環境が密接に関係していることは、湖を目の前にして実感できた。

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美しいコバルトブルーのモレーン湖に、陽の光が反射する。
面積0.5 km2(0.2 sq mi)、水面の標高1,884 m(6,181 feet)、最大水深14 m(46 feet)。
決して大きくはないが、その存在感は大きい。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:38 mm

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標高3000m以上の山々を見上げながら気持ち良さそうにボートを漕ぐ。
デジタル専用大口径標準ズームレンズでトレールから撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:35 mm

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モレーン湖を半周近く歩いた折り返し点。
氷河から溶け出した水が、山の斜面から湖に流れ込む光景を大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

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湖の水はさらに低い土地に流れてゆく。
湖に流れ込む水の音を聴いていると、湖に流れ込んでゆく水と一体になった気がした。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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秋晴れの明るいモレーン湖を見ながらトレールを歩く。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

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陽の光が、険しい山の斜面に生息する黄葉した木を照らし出す。
グリズリーベアーに遭遇した時のために持ち歩いた高倍率超望遠ズームレンズで撮影。
熊との出会いはなかったが、短いトレールには重荷にはならなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:167 mm

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モレーン湖に着くとごろごろした岩場があった。
モノクロームにしてコントラストを上げ、岩の存在を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:45 mm

この日2つの美しい湖を見た私は、翌朝、バンフの町からバンフアベニューを北に向った。道はレイクミネワンカ・シーニックドライブとなりさらに北東へ走ると、ミネワンカ湖( Lake Minnewanka )に到着する。町から約5kmの距離だった。
私がこの朝、ミネワンカ湖に向った理由は、過去2度訪れた際、この湖近くでよく見かけたオオツノヒツジ(Bighorn Sheep)を見るためだった。シーニックドライブは、長さは28 km (17 mi)と大きく細長い湖の西の部分を走り、トウー・ジャック湖(Two Jack Lake)湖畔に来ると、大きな角の雄はいなかったが、まだ子供なのか雌なのか、私には見分けがつかない小さな角のオオツノヒツジ(Bighorn Sheep)が、秋晴れの空の下に何頭もいた。

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バンフ国立公園内で、モータボートの使用が許可されている唯一の湖。
ミネワンカ湖の西部に1912年にダムは構築され、さらに1941年の構築されたダムによって、湖の水嵩は30メートルも上った。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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黄葉した木の湖畔に、秋の日差しを楽しんでいるように見えるオオツノヒツジ。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:81 mm

大きな角を持つ雄には出会えなかったが、オオツノヒツジの雌をすぐ側で見られた私は、バンフの町に戻り、バンフアベニューを南に走りボウ川を渡り、映画、(帰らざる河、 River of No Return)のロケ地として有名なボウ滝(Bow Falls)に行った。ボウ川沿いを歩く道からは、ボウ滝を見下ろすことができる。落差9.1 m (30 feet) 幅30m(100feet)の滝は、バンフの町からも近く、この日も多くの観光客が集まっていた。

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フィッシュアイレンズで、左手のボウ滝から流れ落ち、急なカーブをして右手の方向に流れてゆくボウ川を写しこむ。彩度を落とすと大きな空を覆う白い雲の質感が増し、落ち着いた川と森の深みが増した。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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滝というより激流の川という感じのボウ滝を上から見る。
モノクロにすると白い水しぶきと白い雲が強調され、フィッシュアイレンズで撮影した迫力のある風景がより強く描写できた。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:10 mm

ボウ滝からは、ボウ・バレー・パークウェイを再び走り、キャスルマウンテン・ジャンクションから南西に向った。

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ボウ・バレー・パークウェイを走る車から、森の中にいるエルクを見かけた。
高倍率超望遠ズームレンズをしっかり、ホールドして撮影。
私に気がつくと、森の奥に移動してしまった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:400 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:244 mm

地図で見ると、アルバータ州とブリティッシュコロンビア州の州境に位置するカナディアンロッキーには、有名なバンフ国立公園とジャスパー国立公園以外にもいくつかの国立公園がある。私はその大きさに圧倒されながら午後の眩しい西日に向かい、クートネイ国立公園(Kootenay National Park)に向った。 (中編へつづく)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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