押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第21回:秋のニューヨーク州シャワンガンク山麓(Shawangunk Ridge)へ

数日前からニューヨーク州マンハッタン島の知人宅に宿泊していた私は、10月中旬の土曜日、23丁目とレキシントン・アベニューのコーナーでAさんの車を待っていた。車の少ないマンハッタンに、Aさんの車は約束の時間通り朝8時に現れた。昨夜少し降った雨の心配はもうなく、イーストリバーを右手に見ながらフランクリンDルーズベルト・イーストリバー・ドライブ(通称FDR Drive)を気持ちよく北に走る。ハドソン川に架かるジョージ・ワシントン・ブリッジを渡ってニュージャージー州に入り、商用車両の通行が禁止されているパリセード州間公園道路(Palisades Interstate Parkway)を北に走りだし、休憩ポイントに車を停める。ハドソン川沿いの森は、紅葉が少し始まったばかりだったが、車内から外に出ると厚手のジャケットでも肌寒く、秋の訪れを感じた。

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灰色の雲に覆われた薄いブルーの空と、その空を映し出すハドソン川の間に、高層ビルディングがぎっしりと建ち並ぶ巨大な街が見える。その光景を、大口径標準レンズとデジタルカメラSD15の深みのある描写力で切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:30 mm

パリセード州間公園道路をさらに北に走り、ニュージャージー州からニューヨーク州に入ると、黄色や紅くなった木を見かけるようになり、ベアー・マウンテン州立公園へ車を走らせた。ハドソン川沿いの湿地帯には1本の道が通り、その道をハドソン川に向けて少し行くと、冬にはボールド・イーグルが巣をつくることで知られるアイオナ・アイランド(Iona Island)に出たが、この日は残念ながらボールド・イーグルの姿は見なかった。

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湿地帯を通る道は、ハドソン川の水かさが増すと水に潜ってしまいそう。
空を覆う雲の切れ目から陽の光がスポットライトとなり、アイオナ・アイランドに繋がる道をドラマチックに照らし出す。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

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秋の気配がする湿地帯。
空と草木の色が微かに残る程度に彩度を落とし、コントラストを上げると、秋の訪れを強調する1枚となった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

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アイオナ・アイランドから少し北のハドソン川沿いには、小さな船着場があった。
見事に紅葉している1本の木が、人影のない肌寒いハドソン川に一際目を惹く。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:16.6 mm

週末にマンハッタンから約40マイル(64km)の北に位置する広さ5,067-acre(20.51 km²)の州立公園を訪れる人は多く、Perkins Memorial Driveを上がると、車がびっしりと停まっていて駐車スペースを探すのに一苦労をする。ベアー・マウンテンのトップに上がって来ると、誰も見過ごすことはないタワー(Perkins Memorial Tower)が建っている。
そして、タワーの中に入り一番上まで登り、360度のパノラマを眺めるのはこの公園を訪れる者にとって自然な行動だった。

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Perkins Memorial Driveを上りきったトップに建つ高さ40 feet(12 m)の Perkins Memorial Towerからの眺め。Perkins Memorial Driveは、パリセード州間公園委員会(Palisades Interstate Parks Commission)の初代会長George Wallbridge Perkinsに因む。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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ガラス越しに、岩盤でできている大きさ556-acre(2.2 km²)のアイオナ・アイランドと、ハドソン川を見る。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

ベアー・マウンテンからはハイウェイ I-87を北に走り、ニューパルツ(New Paltz)でハイウェイを降りた。娘さんがニューパルツにある州立大学を卒業し、この辺りの地理に詳しいAさんの案内で、ハロウィーンの風物詩である黄色いパンプキンが目立つリンゴ園に立ち寄った。多くの人が訪れていたりんご園で平和な秋を楽しんだ後、数種類の地ビールのタンクが、店内に設置されているレストランで、ランチブレイクを取る。Aさんに運転を任せきっている私は、大きなジョッキで濃い地ビールを堪能した。

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りんご園は大きく、車に乗って移動する。
大口径標準レンズで、HAY RIDES と書かれたサインにフォーカスして背景をぼかし、彩度を落としイエローを加え、秋の休日を表現した。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:30 mm

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りんご狩りのために、トラックに乗り込む人は切れ目がなかった。
曇り空の下でもパンプキンは色鮮やかだった。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm

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ニューパルツ・ビレッジからワールキル川(Wallkill river)を渡ると雲が切れ始め、枯れたトウモロコシ畑に陽の光が当たる。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

ランチの後、空を覆っていた雲が切れ始め陽が射し始めた秋の土曜日、一番高いポイントでも2,289 ft(698 m)と、さほど標高は高くないシャワンガンク山(Shawangunk Ridge)の一部を散策した。シャワンガンク山麓は、幾つかの住宅地があるが、ほとんどは保護された公有地(Public Land)で、100 miles(160 km)以上のハイキングトレールがあり、ロッククライマーには名の通った土地である。面積21,106 acre(8,541 ha)のミネワスカ湖州立公園(Minnewaska State Park Preserve)からは西へ走りU.S. Route 209を南に行き、エレンビル(Ellenville)を通る頃は、陽がすっかり落ちていた。
その夜は、エレンビルから州道52号を少し南下したAさんの友人Hさん宅にお邪魔し、美味しい夕食をご馳走になり泊めていただいた。

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丘陵地帯の小さなゴルフ場の木が、秋の色になり始めていた。
この時、プレイをする人の姿はなかった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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車を停めて、森の中を歩いた。
青い空と紅葉した木々に囲まれていた光景を、超広角レンズで見上げる。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:11 mm

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ミネワスカ湖(Lake Minnewaska)が、紅葉した森の先に見える。
紅葉した葉を超広角レンズの手前に大きく写しこむと、森の中の空気感も大きく写しこまれていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

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エレンビル(Ellenville)近くの家畜も人の影もない農場に、秋の陽が落ちようとしていた。雲ひとつなくなった空に、明日の快晴を確信した。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

翌朝目覚めると、Hさん宅の大きな窓から太陽が昇るのが見えた。外に出てみると、カエデの木が朝の光に美しく輝いていた。この旅で出会った一番見事に紅葉した木だった。

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紅葉したカエデの木を見上げる。
晴れ晴れとした秋の朝をデジタルカメラSD15に、しっかりと記録する。

使用機材:SIGMA SD15 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:150 mm

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少し高いところにある紅葉した葉を撮影するのに、
長い大口径望遠マクロレンズは、最適だった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm

Hさん宅を早い時間に出た私たちは、昨日走った道を引き返し、ミネワスカ湖州立公園を通り過ぎて、モーホンク保護地区(Mohonk Preserve)のビジターセンターのパーキング場に車を停めた。本格的な装備をしたロッククライマーたちが、続々と車から出てきて山道を登ってゆく。私とAさんもクライマーの後に続いて、大きな石をまたぐように山道を登り始めた。
少し登ると崖に並行した平らな道に出た。その道は、走る人、歩く人、登り始める崖まで移動しているクライマー達で、にぎわっていた。平らな道からほんの少し登ると、崖の下に到着した。

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山道を少し登ると、崖に並行した平らな道に出た。
この山道の左上は、ロッククライミングの盛んな崖になっている。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:110 mm

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Shawangunk Ridge(The Gunksとして知られる)に、年間5万人のロッククライマーが訪れる。
シャワンガンク山麓の崖の高さは、平均150 feet(46 m)、最大で3300 feet(91 m)。約1200のクライミング・ルートが記録されている。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:80 mm

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ニューパルツからモーホンク保護地区、ミネワスカ湖州立公園に繋がるU.S. Route 209(U.S. Route 44でもある)から、西に向ってシャワンガンク山麓を見る。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

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秋のMountain Rest Roadは、絵画の中を走るようだった。
ハンディな大口径望遠レンズで、道に立ちすばやく撮影した。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:273 mm

モーホンク保護地区で崖を見上げた後、ニューパルツ周辺を少し走り回り、北にある小さな集落ハイ・フォールズ(High Falls)まで、足を伸ばした。
かつて、石炭を荷船(Barge)で運ぶためにつくられた運河(Delaware and Hudson Canal)は、ハイ・フォールズの少し北のキングストン(Kingston)から、ペンシルベニア州ホーンズデール(Honesdale)まで繋がっていた。全長108 miles(174 km)の運河は、1825年の7月から工事が始まり、1828年10月に開通した。運河の役目が鉄道に代わる1898年まで荷船は運航し、その年に運河の水は抜かれた。
ハイ・フォールズ(High Falls)には、運河が活躍した時代を感じさせる建物が幾つか残されていた。秋晴れ日、私はカメラを首からぶら下げ楽しく散策した。

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人口640人(2007年時)のハイ・フォールズで見かけた水路。
深みのある描写力で写し出された水路に、刻まれた時を感じる。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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水路の側で、小さなアンティック市が開かれていた。
彩度を落とし、静かな秋の日曜日を表現した。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:16.6 mm

ニューヨークからわずか約90 miles(140 km)の北に位置しているシャワンガンク山麓周辺は、険しい崖があるものの、静かで優しい風景に私の目には映った。ニューヨークへの帰り道、Aさんの運転する車の中で少しうとうとしながら、「私がニューヨークに住んでいたら、シャワンガンク山麓に、毎週遊びに来てしまうだろう」と思った。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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