押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第15回:セコイア国立公園の夏

キングス・キャニオン国立公園内のグラント・グローブ・ビレッジの側にある標高6500 ft(1980m)のキャンプ場の夜は、気温もあまり落ちず、小さなテント内は快適だった。一度も目を覚ますこともなく、ぐっすりと眠り朝5時過ぎにテントから出ると、大きな木々に囲まれたキャンプ場はまだ薄暗かった。トイレの冷たい水で顔を洗い、コーヒーを沸かしパンをかじる。
昨夜、焚き火にあたりながらビールを飲んでいた私の目の前で、開けたままの後ろのドアから車の中に堂々と入ろうとした大きな猫、ボブ・キャットは、椅子から立ち上がる私を見ると、仕方なさそうにゆっくりと立ち去った。森に住む動物にとって、人間は迷惑な存在なのか、それとも時には餌にありつけることもある悪くない訪問者なのであろうか、そんなことを考えながら、昨夜の焚き火の跡に水をかけると白い煙が少し上がった。テントをたたみ終わる頃、鳥の鳴き声が激しくなり、森はどんどん明るくなった。6時半ごろキャンプ場を出て、州道180(キングス・キャニオン景観道路)を南へ走りだし、キングス・キャニオン国立公園からセコイア国立公園(Sequoia National Park)を走り抜ける道(Generals Highway)に入る。
まだすれ違う車がほとんどない森をしばらく走り、ホース・コーラル・メドウ(Horse Corral Meadow)まで繋がる道に入ってみる。この道は数年前この地を訪れた時に走ったが、雪が積もっていて途中で引き返したことがあり、この朝、少し奥まで走ってみたくなる。朝日が差し込む森は美しく、何度か車を路肩に停めて写真を撮っていると、馬を運ぶワゴン車を引いたトラックが数台通り過ぎ、この道は、馬好きな人のものだと感じだ。

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朝日を浴びた可憐なピンクの花が、木の合間に
咲いていた。
美しい花に囲まれるのは楽しいことだったが、
この朝は蚊が多く、虫除けスプレーを忘れた私は、
すばやく数枚の写真を撮りこの場から退散した。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8mm EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:150 mm

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緑の植物の群れ(California Corn Lilyだと思われる)に、背後から強い朝の光が挿し込む。
朝日が植物の繊維を照らし出すドラマチックな光景を、大口径望遠マクロレンズで、手前の1本の植物をシャープに捉え、背景の群れを美しくぼかす。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8mm EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm

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白い花が、朝日に反射するように輝いていた。
超広角ズームレンズを持ち、木の影に隠れて撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

馬と共にキャンプができるHorse campと大きな草地Big Meadowsを通り抜け、クリークを過ぎると道は狭くなった。
対向車とすれ違うことができそうもない狭い道には、ところどころに対向車をよける場がつくられていた。そんな山道を少し走ると、森の中にたくさんの馬が見えるHorse Corral Park Stationに行き当たる。
小学生の男の子と女の子を連れた家族が、馬にまたがり、山の中へホース・ライドに出かけようとしている。元気な馬を眺めている私に、「馬に乗る準備は?」と、カウボーイ・ハットをかぶった人のよさそうな50代の男が声をかけてくる。「今日はやめときますが、また今度お願いします」と返す私に、「人生は短いから、今乗らないと」と、丸顔の彼は笑顔で言った。
素直に馬に乗るべきだったかもしれない。少し後悔しながら、この先には進まず、ガソリンの少なくなっていた車で、来た道を引き返えす。森は昼の光に包まれ気温も上がり、ジャケットを脱ぐ。

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深い森の中に、馬の姿を見る。
太陽の光がスポットライトとなり、馬の体が光っていた。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:118 mm

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森に流れる小さなクリーク。
描写力をさらに増したデジタルカメラは、クリーク周辺に生息する草の1本1本までも読み取れそうなぐらいシャープに描写する。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:40 mm

Generals Highwayに戻り、南へ走りストーニー・クリーク・ビレッジ(Stony Creek Village)で給油をして、そこから少し走るとセコイア国立公園内に入った。公園に入るとすぐにLost Groveと呼ばれる巨木の森が、迎えてくれた。

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木漏れ日が、巨木の根元に射し込む。
巨木の森は暗いが、わずかな木漏れ日だけで、巨木の存在感を十分に感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24 mm

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巨木の根元に大きな穴が開いていて、その中に入ってみる。 自然がつくった木のフレームから、自然が描いた森を見ていると、いつまでも木の中に居たくなる。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

Lost Groveから、公園内で一番大きなビジターセンター、ロッジポール・ビジターセンター(Lodgepole Visitor Center)で、ランチブレイクを取った後、ロッジポール・ロードを進み、大きな駐車場に車を停め、川沿いから始まるトレールを歩き出す。
森を抜けると、石ころだらけの山の向こうに白い滝が見える。気温はさほど高くなかったが、強い夏の日差しの下は暑かった。陰のない石ころだらけの上を歩くのは体力を消耗したが、滝まで到達すると激しく流れ落ちる水に疲れは癒された。
トレールの帰り道、すれ違った女性パークレンジャーの飾らない笑顔にも励まされ、足取りも軽く感じた。

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日陰のない石ころの山に、夏の強い太陽が照りつける。 高倍率ズームレンズを付けたデジタルカメラ1台を肩にかけ、夏のトレールを歩く。 彩度を落としコントラストを上げ、夏の雲と石ころだらけの山を描写。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:28 mm

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滑り台のような大きな石を流れ落ちる壮大な滝(Tokopah Falls)。 石と流れ落ちる滝の水を、高い描写力で写し、もともと色のない光景をモノクロして、水の流れを強調。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:50 mm

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帰りのトレールで、さっそうと山の中を行く女性パークレンジャーが印象的だった。 すれ違い、少し間をおいて振り返り、シャッターを押す。 セピア調にして、記憶の部屋にしまい込む。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:95 mm

トレールを歩き終えた後、公園内で最も人気があり、世界で最も大きな木、シャーマン将軍の木(General Sherman tree)が生息しているジャイアント・フォレスト(Giant Forest)に向かった。
シャーマン将軍の木は、セコイアデンドロン(Sequoiadendron giganteum)、別名ジャイアントセコイア(Giant Sequoia)という世界一体積が大きくなる種の木である。
この日、巨木の森には、小さな子供から2メートル以上の長身の男も含め、たくさんの人が遊びに来ていたが、巨木からは見れば、皆小さな存在に見えるに違いなかった。ジャイアントセコイアの大きさに圧倒され、歩き疲れた私は、しばらく森の石に座っていた。見上げると、巨木の森からは空が遠く感じた。

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南北戦争時、北軍の指導者ウイリアム・シャーマン(William Tecumseh Sherman)に因んで付けられ たGeneral Sherman treeの根本。根本の円周は、102ft(31.3メートル)。 大きな木は、根元を見るだけでその大きさを十分感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

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General Sherman tree全体がよく見渡せる唯一のスポット。よく見ると小さな人間が森の陰に見える。
樹齢は、資料によって違い、2000年から2700年とその差は大きい。高さ 275ft(83.8 メートル )、体積52,513 cu ft(1,487 立方メートル)、2002年時。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24 mm

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森には、倒れて横たわった木も多く見かける。
しかし、その生命を終えた木にも、生きて立っている木に負けない存在感を感じる。 モノクロで、かつて力強く生存した木の根元を描写。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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同じ環境に共存する木にも、それぞれのキャラクターを見る。 よく見ると、1本として同じかたちの木はない。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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倒れた木、その下には水が流れ、石の隙間から濃い緑色の草が生息する。 巨木の森に生存する全てが、必要不可欠な存在なのかもしれない。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

ジャイアント・フォレスト・ミュージアムに立ち寄り、展示されている資料からセコイアの大きさを改めて確認した後、美しい湿原、クレセント・メドウ(Crescent Meadow)に向かう。メドウに行く途中、森は、鎮火したばかりの山火事で焦げ臭いにおいに包まれていた。メドウの駐車場に着くと、嬉しそうにカメラを持った男が、私に近寄ってきた。男のカメラのモニターには、ブラック・ベアーが写っていた。熊に出会える期待感と望遠レンズを持って、私もクレセント・メドウの周りを歩き回ったが、この日、私には熊との縁がなかった。

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山火事で、森には煙が漂っていた。 木の間から射す西日が、白い煙を照らし出す光景にドラマを感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm

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熊を見ることはなかったクレセント・メドウは、美しい緑の世界だった。 X3Fill Lightを下げ、露出を上げ、ソフトなタッチにして、夕方の光に包まれる美しい湿原を表現。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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ドッグウッド・ツリー(Dogwood Tree )が、夕方の森に静かに咲いていた。 彩度を落とし、イエローとマゼンタをプラスし、夕暮れ時の森を表現した。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:23 mm

熊に出会えなかった私は、帰り道、モロ・ロック(Moro Rock)と呼ばれる大きな岩に立ち寄った。数年前の春、この岩に登った時は、霧が掛かって何も見えなかったが、この日の夕方、大きな岩からは大きな風景が見渡せた。森から出る山火事の煙が漂って、東の山が少しだけかすんで見える。西日を浴び、雪をかぶった山の上から空に向かって、かすかに光が放たれたように見える。煙の仕業なのかもしれないが、自然が起こすドラマに無駄がないはずだと思った。
国立公園のサイトに 「山火事は、シェラの森の生態にとって不可欠なもの。動物も植物も、自然に発生する定期的な低度の山火事を受け入れてきた。実際、実を開いて種を解放すため、セコイアには山火事も必要なことで、山火事によって残された灰は、セコイアの芽が出て成長するのにベストな環境なのだ。」とある。近年、セコイアの森に多くの人間が足を踏み入れるようになった。森は、今後も人間を受け入れてくれるのだろうか。

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沈む太陽の光が、大きな岩に当たる。 岩の階段は、空まで繋がっていそうだった。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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西日を浴びたシェラネバダ山脈。 雪をかぶった山から空に、かすかな光が肉眼で見えた。手前の山陰には、山火事の煙がまだ少し漂っていた。

使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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