押本龍一 ― 私の出会う光景 ― : 第8回:シダー・メサ、ユタ(Cedar Mesa, Utah)を行く

アリゾナ州の北東部とユタ州の南東部に広がるモニュメント・バレーの北、サンファン川を渡り国道163号(US Route 163)を走っていると、道路左手に(Valley of the Gods)というサインが視界に入る。この先をもう少し行き、州道162号(Utah State Route 162)を東に走りコロラド州に入るつもりだった私は、そのまま少し車を走らせたが、見かけたサインに呼び戻されサインを見たところまで引き返えす。そして、そのサインから赤い大地に続くダート道に入ると、1台のキャンピングカーが停まっていた。キャンピングカーが引いて来たと思われるバギーカーが後に停まり、4人の老人が乗り込もうとしていた。大きなハットをかぶり濃いサングラスかけ、これからダート道を行くのに準備万端だった彼らは、ゆっくりと私に手を振った。彼らの愛嬌にも誘われ、ほこりっぽい道(Valley of the Gods Road)を少し探求する気になる。彼らとの出会いがなければ、舗装されたハイウェイにすぐに引き返していたかもしれない。そこから少し先には、木枠で囲まれた地図があり、プリントされた地図も置いてある。倒れて枯れている木もこの土地の赤に染まるダート道を行くちょっとした冒険が、そこから始まった。モニュメント・バレーを小さくしたような、という人もいるが、Valley of the Godsのメサ(Mesa)と呼ばれる台地やビュート(Butte)と呼ばれる岩山の大きさは迫力十分で、乾いた土地には小さなクリークが流れていた。予想もしなかった水の流れに手を浸すと、冷たい水が気持ちよく体中に沁みる。少しだけ走って引き返そう、そう思い走り出したValley of the Gods、神の谷を行くほこりまみれの道は、大きな大きな風景に囲まれ、あっという間に完走し、私にとっては、時の経つのも忘れる17マイル(21キロ)の立派な冒険だった。

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大きな赤い岩の間の道。
これから行く道への好奇心を込めて写真を撮る。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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今にも転がり下敷きになりそうな大きな岩と、上から私を見下ろす岩山を撮影すると、赤い大地を動き回る小さな自分も同時に写っていた。
強い日差しだったが、デジタルカメラは岩陰もよく描写してくれた。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm

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夏には水がなくなってしまうかもしれないクリーク。
少しの水があるだけで、その周辺は植物の存在感が増し風景もまた変わる。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:14 mm

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乾燥した土地に流れる小さなクリークに緑の苔が生えていた。
地面すれすれに寝転んで標準ズームレンズで撮影。
苔の緑がリアルにそして自然に写り、背景の岩山は、クリークを静かに見守っているようだ。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:26 mm

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靴一つ分の幅の小さな水の流れを撮ると、大きな川を空撮したようにダイナミックな写真に写っていた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ダート道(Valley of the Gods Road)を西へ走り抜けると、舗装された道( Utah State Route 261)に出る。私はその道を北上することにし、走り始めると道はすぐに急な上り坂になり、坂の途中からダート道になる。スイッチバックの坂道はかなり急で、すれ違った数台の車はカーブではほとんど止まるように下りて来る。坂を上り切ると所々に雪が残る平和な大地が続き、3月下旬のユタ州、遠く向こうには雪山が見えていた。すれ違う車もほとんどない平らで走りやすい道を快適に走ると、道沿いに小さなレンジャーステーション (Kane Gulch Ranger Station) が、大地にポツンと建っていて、そこに立ち寄るのは自然なことだった。物腰の柔らかい女性レンジャーが、この時ただひとりの訪問者の私に、この辺りの地形や見るべき場所について丁寧に説明をしてくれ、この辺りがシダー・メサ(Cedar Mesa)と呼ばれることもここで知った。地図上に行くべき場所にしっかりとマークを付け、私に手渡すと、「この先の旅も楽しんでね、そしてグッド・ラック!」、彼女がくれた言葉は、旅人である私の胸に嬉しく届き、疲れを感じ始めていた体も軽くなる。

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車を停めて標準ズームレンズですばやく撮る。
スイッチバックの坂道は、Moki Dugwayと呼ばれることを後日知った。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:40 mm

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車を安全に停められる唯一のコーナーで撮影。
フィッシュアイ・レンズで切り取った写真は、ダート道が迫ってきて土のほこりのも感じる。

使用機材:SIGMA SD14 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm

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3月下旬のCedar Mesa。まだ雪が残っていたが、春を感じる風が吹いていた。

使用機材SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F13.0 | 焦点距離:40 mm

それから私は彼女の推薦したナショナル・モニュメント(Natural Bridges National Monument)に車を飛ばした。ナショナル・モニュメントにある海抜6505ft(2001m)のビジターセンターには、数人のレンジャーが、それぞれ満面の笑みで私を迎えてくれた。沢山の資料が展示され、この辺りの地形を説明する映画も上映されていたが、パークの入場料をここで払うとすぐに自然が創り出したブリッジを見に出かけた。3つあるブリッジの1つは雪のためアクセス禁止だったが、2つのブリッジの下まで行くことができた。ブリッジの下まで歩いて下り、物音をたてると音がこだまし、午後の光を浴びた渓谷に響き渡る。ブリッジの下では、自分の出した見えない音が響きまわるのを肌で感じ、音が動き回る生き物のように思える神秘的な空間だった。

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渓谷に流れる水がまだその全長を広げている大きく分厚いブリッジ(Kachina Bridge)をワイドレンズで写しこむ。
高さ:210feet(64m) 長さ:204feet(62.2m)
幅:44feet(13.4m) 厚さ:93feet(28.3m)

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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渓谷にKachina Bridgeにレンズを向けるフォトグラファーを見かけた。
古く深い渓谷を深みのある描写力で写した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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岩肌に木の陰がドラマをつくる。
その光景をワイドレンズでハイライトからシャドーまで写す。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:10 mm

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長い歳月をかけて水の流れが創ったブリッジ。
今はもう水の浸食を受けていない古いOwachome Bridge。
高さ:106feet(32.3m) 長さ:180feet(54.9m)
幅:27feet(8.3m) 厚さ:9feet(2.75m)

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:10 mm

自然が創り出したブリッジの不思議な空間を体験した後、州道95号(Utah State Route 95)を東に走り、国道191号 (US Route 191)沿いの人口3161人(2000年時)の街、ブランディング (Blanding) へ向かい、この夜、最初に見えて来た宿に泊まる。翌朝、陽が昇った後、ゆっくりと宿を出る。

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暗くなった空に、ネオンの看板が静かに光っていた。
デジタルカメラは、ネオンの灯り、かすかに残る空の青、遠くに見える雪山まで、しっかりと記録した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/30秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:24.2 mm

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春を待つユタ州の畑に朝日が当たる。
写された写真にこの朝の空気を感じる。

使用機材::SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/80秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

この朝、女性レンジャーが前日教えてくれた先住民の住居跡が見られるハイキングコース、ムール渓谷(Mule Canyon)へ向かうが、渓谷に繋がる道の入り口を少し通り越し、州道95 (Utah State Route 95)沿いからすぐの先住民の住居跡がきれいに保存されている場所に結果的にまず立ち寄ることになった。そこからほんの少し戻りダート道に入ると、木枠の地図があり、地図の横にある箱にこの土地の使用料を放り込む。そこから少し走ると2台の車が、乱暴に道の端に停まっていた。道の下からは、ムール渓谷へのトレールに繋がっていた。私も車を道の端に停めて、渓谷をひとり歩き出す。渓谷にはまだ雪が残っていて歩き難く、先住民の住居跡までたどり着けるか不安になるが、30分ほど歩くと大きな岩を見かけ、崖と言うほうがいいかもしれない岩の下には確かに昔の人間の住居跡があった。
 「ガイドブックによると、この時期は朝の9時から10時ごろが写真を撮るにはいいと書いてあったので、1時間前からここにいるけど、もう少し待つ必要がありそうですね、ガイドブックは間違いかも?」、と大学生の息子と岩に座っていた男性が笑顔で話しかけてきた。午前11時になろうとしていた太陽が当たらない岩陰は、私には十分な光が当たっているように見えた。しばらくすると、カリフォルニアに住んでいるイギリス人男性が一人、スイスから来た男性が一人、写真を撮りにここまでやって来た。皆、太陽が動いて、もっといい光が当たることを期待してこの場に居座るようだったが、十分写真を撮った私は、彼らに別れの挨拶をしこの場を去った。

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朝日を受けた住居跡。強い朝日でできた日陰も失うことなく写されていた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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アナサジ・インディアン(Anasazi Indian)の約800年前の住居跡。周囲の岩からの反射光が、岩肌の質感を十分に描写した写真になった。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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自然の作品とも言える赤い砂岩の上を流れるクリークをDP2は、クリアにシャープに切り取り記録した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

そこから昨日立ち寄ったモニュメント(Natural Bridges National Monument)のビジターセンターに再び立ち寄り飲み水を買い、州道261(Utah State Route 261)を南下した。レンジャーが推薦してくれた半分も場所も行けなかったが、スイッチバックの坂道を下り平坦な大地に戻って州道261(Utah State Route 261)のサインのENDを眼にすると、大きなシダー・メサを走り回った旅もそろそろ終わりにしょうと思った。

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帰り際に見た鹿(Mule Deer)。私を見送ってくれているような気がして、車の中から音を立てずに静かに撮影する。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/200秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:165 mm

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赤い土の丘に石が転がり、遠くにはメサが見えるシダー・メサの眺めをワイドレンズで撮影。石の上に座っているとこの地から離れたくなくなる。

使用機材:SIGMA SD14 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm

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Moki Dugwayから大口径望遠レンズで、州道261(Utah State Route 261)を撮る。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/500秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:148 mm

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北の州道(State Route95)との交差点から走って来た州道261(Utah State Route 261)は、国道163(US State Route163)との交差点で終わった。急な坂もあった約34マイル(55km)の走りごたえのある道だった。そのサインを望遠ズームで切り取る。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1250秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:165 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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